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プロローグ

 全く、困ったもんだ……。


 それは、あなたのせいです!


 そんなことより、この子を助けて欲しいねん!


 分かった、閻魔大王に会ってくる!


 え~……どうして?


 どうしてねん?

 晴れた春の空に、何だか異様な物体が浮かんでいる。だがそれは、普通の人間には見えないモノであった。


「全く……どうして良いのか分からん……困った……」


 姿形(すがたかたち)が老人ということは、幽霊ということになる。何故なら、空に浮いているのだから。何をそんな、困っているのだろう。


「こんな無理難題を押し付けるとは、閻魔大王も意地悪な人だ……人ではないか、それに自業自得だな……」


 この幽霊、どうやら閻魔大王に何かを命令されたようである。老人の幽霊は、大きな屋敷の中に入った。天井近くに浮いている。


「ちょっと、どういうこと! 熱すぎて、こんなもの飲めないわよ!」


 コップが床に落ちて、砕け散った。メイドが、それを拾い集める。


「長谷川! この紅茶を淹れた者を、直ぐにクビにして!」


「お嬢様、それは幾らなんでも……」


「それなら良いわ! 代わりに、あなたをクビにします!」


 執事を指差して、キツい視線を送った。真木京菜(まききょうな)、二十歳の大学生、両親を早くに亡くして祖父に育てられた。資産百億の大金持ちである。


「それから長谷川! お祖父様はもう居ないのよ! これからは、私をご主人様とお呼びなさい!」


 誰も逆らえる者は居ない。祖父亡き後、やりたい放題だった。


「あ~あ……なんということか……」


 老人の幽霊、言うまでもなく京菜の祖父である。あまりの惨状に、頭を抱え込んだ。閻魔大王の無理難題、それは京菜を改心させることである。到底、無理だと思う。


「甘やかし過ぎなんですよ!」


 幽霊に、声を掛けた者が居る。白い大きな袋を背負い、耳たぶが肩に達している。所謂、福の神であった。


「私のせいか……」


「その通りです。本当なら、私も此処を離れたい。ですが、契約期間はまだ残っている。仕方なく、此処に留まっているです」


「すまない……」


 老人の幽霊と福の神の契約、それは老人が子供の時に福の神を助けたことに由来する。助ける代わりに、二百年の間の繁栄を約束された。五歳から十五歳まで、老人はその体内で福の神の回復を手伝ったのである。その十年間、虚弱体質に苦しんだ。その見返りという訳である。


「あなたが居なければ、私は消滅していました。その恩義は忘れていません。しかし、どうやって改心させたものか……」


 老人の幽霊と福の神は、考え込んでしまった。


「お……ご主人様、この紅茶を淹れたのは私です。長谷川さんは、悪くありません」


 コップの欠片を拾っていたメイドが言うと、キツい視線はそのメイドに向けられる。


「昨日入ったメイドね! 良いわ、あなたに決めさせてあげる。自分が出ていくか、長谷川をクビにする

か、さあ、決めなさい!」


「分かりました。私が、出ていきます。お世話になりました」


「お……ご主人様、お待ち下さい。このメイドは……」


「良いんです。他を探します」


 メイドは、コップの欠片を持って部屋を出ていった。欠片を処分して、屋敷を出る。見送りのメイド仲間一礼して、背を向けた。歩き出した途端、どうして良いのか分からずに涙が溢れてきた。


 北川杏佳(きたがわきょうか)、二十歳、弟の治療費を稼ぐ為に働いている。両親は離婚して父親に育てられた。その父親も、呑んだくれた揚げ句に病死する。


 この屋敷でメイドの仕事をすれば、弟を入院させてあげられる。そう考えていたのだが、クビになってしまった。入院出来れば、弟の病気は治るかもと医師に言われたのである。福の神と老人の幽霊は、杏佳を見詰めていた。


「酷いことをする。全くもってやりきれない……」


「私が甘やかしたせいか……本当にすまない……」


「いや、あなたのせいではないようです」 


 福の神のは杏佳の背中を指差した。老人の幽霊が、杏佳の背中を見た。灰色のモヤモヤした物が、背中にまとわりついている。


「あれは、何だ?」


 老人の幽霊と福の神は、杏佳に近付いていく。モヤモヤした物が、人の形に変わった。だが、何だかハッキリしない。


「お前、貧乏神か?」


「あらま、福の神さん。こんにちわっす!」


「この娘さんに、とりついているのか? どうして!」


「この子せいじゃないねん。この子のお父さんのせいねん。アッシにも、どうにもならないねん」


「そうか……ところで、なんでハッキリしないんだ?」


「この子が、アッシの負の力に負けずに頑張ってるねん。そのせいで、存在が薄くなってるねん」


「ということは、もうすぐ消えるのか?」


「この子が、生きている内は無理ねんけど、可哀想で直ぐにでも消えたい気分ねん……このままだと、弟さんの命も危ないねんけど……」


 貧乏神は、下を向いた。とりつく相手は選べない。杏佳の父親の罪により、貧乏神はとりついている。その罪が消えれば、貧乏神も消え失せることが出来た。因みに、消えても再生する。


「福の神、何とかして欲しいねん! この子が可哀想ねん!」


「そ、そmんなこと言われても……閻魔大王じゃあるまいし」


「そうか、もしかしたら!」


 老人の幽霊が、大きな声をあげた。何か閃いたらしい。福の神と貧乏神が、驚いた表情をしている。


「閻魔大王に会ってくる! 二人共に、また会おう!」


 老人の幽霊は、空の彼方に消えていった。一体何事かと、福の神と貧乏神は顔を見合わせる。京菜と杏佳に、この後どんな運命が待っているのだろうか……。


 閻魔大王に会いにいくと言い残して消えた老人の幽霊、一体、何を閃いたのだろうか?


 次回「閻魔大王の苦悩」でお会いしましょう!

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