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シグナルの向こうに[心の鍵続編]  作者: 那結多こゆり
序章0…一恵・再出発
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「そ、そんな……岩本さんが本家の方? ううん、そんなことは……。ええ、そうよ。ここではどうでもいいことだわ」


 小声で、でも周りに聞こえる音量で、高ノ居さんはしばらくの間、自問自答を繰り返した後、工場長に問う。


「確かに、中級分家の岩本さんが、なぜ本家の俊成様に気軽に話せるか疑問でした。美濃さんが、彼女の護衛という話を聞いて、やっとわかった気がしますわ。……だけど工場長、ここで岩本さんが本家だと言っても、世間には、中級分家発表されているんですよ? あたしと岩本さんのどちらが位が上だと思われますか。一目瞭然ですわ。だとしたら、あたしと彼女、今回この件で責任を問われるのは、あたしではなく、岩本さんだというのがお分かりでしょう? それとも、あくまでも岩本さんが本家だからと押しきって、工場長はあたしの責任になさいますか?」


 そこまで言い切ると、高ノ居さんは勝ち誇ったように微笑んだ。ただ、工場長は何も表情を変えないまま、何かを待っていた。


「まさか、次頭分家の君にここまで言われるとは思わなかった」

「え? 工場長、何を今さらおっしゃられてますの。この会社に入った時、工場向上のために今の位が全てじゃない、この工場内だけの独自の位があってそれを優先している、そうおっしゃったのは工場長ではありませんか? なら、どの位が待遇されているかお分かりでしょうに」


 確かにそうだね、と工場長は苦笑いした。と同時に、ドアを叩く音とともに、工場長とそう変わらない歳の男性が入ってくる。

きよ秘書頭が続いた。


 ……っ‼ 


 言いかけたところで、わたしは口を押さえた。


 危なかった。つい、お父さんって言いそうだった。すんでのところで止めた自分を褒めてあげたい。


「貢! 話を聞いた。……あ、いきなり悪い。おれは、岩本勇。岩本本家、次期総帥候補の一人だ。高ノ居さんだったか? 物産社長の娘の」

「え? はい、そうでございます。しかし、その岩本本家のお方が、どうしてここに? もしや、岩本さんが本家だというなれば、勇様は……。なるほど、危機をお救いに来たのでしょうか。ですが、ここは独自の位がございますわ。岩本さんは、あたしより位が下。これがどういうことかお分かりでしょう?」


 本家の殿王子相手にここまで言い切れてしまう彼女に、敬服してしまう。

 いくら、この工場内の独自の位が優先しているからだとはいえ、本家の人間にここまで啖呵を切れるなんてすごい。


「そんなの関係ないよ。おれが聞きたいのはただひとつ。一恵、このあとどうしたいんだ?」

「は?」

「物産の娘に凶器は向けていないんだろ? 濡れ衣着せられてもなお、ここで働きたいか? 親父から聞かれなかったか? こんな中で働きたいか、それとも、岩本茶工場に来るか」

「お祖父様から何も聞いてないわ。と言うか、何を言ってるの? 前にもいったでしょ。お祖父様がいる会社になんて絶対にいや‼ 息抜き出来ないじゃない。だったら、ここでいい。だめなら、バイトでもした方がましよ」


 あ……。

 ヤバい。お祖父様って言っちゃった。


「お、おい。一恵」

「か、一恵ちゃん」


 頭に血がのぼって、自分が失態を犯したことに気づくのが遅かった。


「なあ、貢。ヤバいか? この状態」

「え? そうだな、半分くらいは。収拾つけばいいんだが」

「収拾ならつきますよ、工場長」

「え? 一恵ちゃん?」

「すみません。お祖父様から気をつけるように言われていたのに。でも、もうここには課長たちはいないですし、えな様だけですよね? わたしの本来の身分を知らなかったのは。美濃さんも秘書頭さんもご存知みたいだし。なら、収拾つくと思いませんか?」


 高ノ居さんを見ると、案の定、落ち着いた表情で言ってのける。


「別にあたしは、岩本さんが本家のお方だとしても問題ありませんわ。ここでは、独自の位が優先ですもの」


 それを聞いた工場長たちは、ならいいか、とお互い顔を見合せ頷いた。


「そんなことより、あたしはこの件でどちらが責任をとるか、工場長に決めていただきたいですわ」

「そんなことって、ある意味、君に敬服するよ。まあ、問題視しなくていいならこちらも助かるけど。……今回の責任の追求、君に言う権利があるのかな?」

「ありますわ。ケガをしそうになったのは事実ですし。あたしを庇い、代わりにケガされてしまった三津谷さんに申し訳なく思いますのに」


 あくまでも高ノ居さんは、自分を被害者だと主張する。会社独自の位が優先だから、自分がもし非があったとしても、罪には問われない、そう判断したのだろうか。それならば。


「工場長、発言してもいいですか?」

「あぁ、いいよ」

「美濃さんが見ててくれたので証拠は取れてますよね。わたし、えな様に何もやってもないです。だけど、仕事でミスをしていたのは事実。これで責任とって辞めるのも無責任なことと重々承知です。まして、やってもいないのにえな様に凶器を向けたとして、その責任をとって辞めるのも、自分として許せない、そう思います。この二者選択というなら、わたしはミスした責任とったあと、辞める選択をします。えな様は、わたしに辞めてもらいたいのでしょう。これなら問題ないと思いますが」

「あたしに牙を向けたことを認めないのは好ましくないけど、ええ、そうよ。辞めてもらえるなら、あたしとしてもうれしいわ」

「じゃあ決まりですね。あ、えな様。わたしの位が戻ったら覚えておいてくださいね。いくら、わたしが嫌いでもあのような濡れ衣、許せないんですよ。しかも、えな様、高ノ居を名乗っいるなら尚更です。お……さんの……っ」


 言いかけて言葉が詰まってしまう。悔しい。お母さんの出家先の苗字を名乗っている彼女が、その名前を汚す行為をしていることに腹が立つ。でも、今は立場上言えない。


「岩本さん?」

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