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シグナルの向こうに[心の鍵続編]  作者: 那結多こゆり
序章0…一恵・再出発
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 その夜、父や母に足の怪我のことを問われたけど、言わなかった。


 ――司とぶつかったの。


 そう言えばよかったのに。

 けれど。

 なぜか、伝えられなかった。

 やっぱり、わたし。

 司のこと好きなんだな。


 彼とそんなことがあった、なんて言ったら、きっと父や祖父が体罰………。


 体罰?


 こんなことでも、体罰ってするのかしら? でも、お祖父様なら、やりかねないかも。


 体罰は、灘諸国のうち、この国特有の処罰。特に、本家の男性用に作られたようで、筆頭分家を含む、平民たちには体罰がなく、悪いことをした場合、国に所属している治安部隊に任せられている。

 対して、本家の場合は国のトップであるお祖父様たちの直属の部下、懲罰部隊と言われる特殊に訓練された部隊が、お祖父様の命令で動く。実際にやっているのを見たことはないけれど、体罰を課せられた直後の人を見たことがある。身体中、アザだらけで、思わず、顔を背けてしまったくらい酷い有り様だった。

 それを知っているからこそ、わたしは言葉を濁した。司とぶつかって、足を怪我したと言えなかった。たとえ、それがわざとではなくても、わたしがそのことを伝えれば、彼が体罰になってしまうと、心のどこかで思っていたから。


 以前、偶然見てしまったその人は、岩本の本家の邸宅に居た。全身、アザだらけで体を動かそうとしては、言葉にならない声をだして悶絶していた。その光景に、わたしは震えて動けなくなってしまった。

 父が来て、ゆっくりわたしを立たせてくれるまで、その場に硬直していた。


『あいつは罰っせられて当然なんだ』


 父の悲しげな表情がいまでも目に浮かぶ。

 そのあと、これが灘本家に伝わる体罰で男性だけだから安心しなさい、と落ち着いたわたしに父が教えてくれた。

 灘本家では女性が優遇されている。このため、本家の女性が体罰されるときは、二、三日家から出られない軟禁のような感じらしいと聞いた。

 なぜ、あの男性が体罰を受けたのかはわからないけれど、灘四家では女性が優遇されていて、女性に手を上げたり、悲しませたり、などすれば、それだけでも体罰を科せられたりする、と父が言っていた。

 だとすれば。


 きっと司は……。


 もし、お祖父様かお父さんが司に体罰を受けさせるという決定を下してしまえば、司はそれに従わなければいけない。

 国のトップでもある本家の者は、目上に従え、そして、女性にやさしく……が法律で決まっているのだから。

 ただの偶然の事故なのに、そんなことで司が罰せられるのは、絶対いやだと思った。


「言いたくないなら、しかたない」


 いつまでも黙っているわたしに半ば呆れて折れる父。母もしかたなく同意する。

 だけど。


「でも一恵、この怪我じゃ電車乗られないわよ。どうする?」


 父はしぶしぶだったけれど、母の一言でわたしは高校のときからずっと電車を利用している。これは、母の悲しい経験から培ったものらしい。

 なんでも母は、小・中・高校と車の送迎つきで、電車に乗った経験もないという。同級生たちから、高ノ居の本家の娘ということで、さまつけされ、友達という友達はほとんどいなかったという悲しい思い出があって、娘にはそういう思いをさせたくないということからの配慮らしい。と言ってもわたしの場合は、岩本分家のお家騒動の処置で、中級分家として発表されているわけだし、電車には乗りなれているけど。

 でも、いくら怪我をしたとはいえ、黒塗りの高級車で会社に出勤したくもない。


 どうしよう……。


「じゃあ……あ、歩いていく」

「ばかなこと言わないで」

「それなら、水守≪みもり≫に頼もう。いいだろ」


 父が言った水守さんは、お祖父の小さいころからついている護衛で、同時に運転手もしている。すでに七十歳を越えているみたいだけど、素顔は三十代前後にしか見えない。

 歳を封印する術を施されているんだよね、水守さん。


 歳封印の秘術と言われる、灘国独自の秘法。本家だけが使えるとされているけど、わたしは知らない。これを掛けられると、半永久的に歳を取らない。いわゆる、不老長寿みたいなことになるけれど、その術を行うということは、使う側もやってもらう側も、相当な覚悟がいるとされている。修羅場、地獄に落とされる、そんなことが言われているけど、実際にどうやるのかわからないし、そんなことをしてまで若さを保ちたくもない。

 けれど、水守さんは覚悟を決めて若さを保ち、そして、彼以外の使用人も何十人もの人たちがこの秘法で不老長寿になって、お祖父様の下で働いている。

 

 彼の運転する車は、ふつうの乗用車タイプ。

 あまり、本家や筆頭、次頭分家の人以外、普段、車で会社にいく人いないけど、まあ、仕方ないよね。

 コクン、と素直に頷いた。

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