スケッチ1.お気に召す侭 如何様にでも
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世に、意見を異にする考えは、星の数程あるのだが――例えば、その“星”とは如何なるものかに関してだけでも、浮遊する巨大ヒトデ説、四散したかつての陸地説、外にして真なる世界に通ずる孔説等と、枚挙に暇が無い訳で――この世界を造り出した某が、どうしようもない☆★☆★野郎――さもなくば尼か、それ以外の何かか――であるという考えに関して言えば、そんな某等元より存在している訳が無いと言う極少数を除いた大多数の間で、見事なまでの見解の一致を見せていた。
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それは、思考する能力があれば多かれ少なかれ誰しもが感じた事のある、物事の仕組み、自然の成り立ちに対するあの出鱈目さ、あのいい加減さに由来するものだった。
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例えば、と、もう一度先の“星”の如何を取り上げれば、上がる風説の全てに尤もらしい証拠が、これぞ真実とばかりに高らかと付いて回っている。
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今やかつて、某が人々の疑問に応えるかの様にして多くの眼が向いている真っ只中に、ゆっくりと堕ちて来たそんな星の一つは、時に岩壁から死骸として溢れ出てくるあの奇怪な生物、であったらしきもの、ヒトデを形作る素材と、全く同じ物質で構成されている事が観測された――態々仔細に眼を細めなくとも、全景からしてそれはヒトデ以外の何物でも無い程に紛れも無くヒトデであり、その味わいも苦塩っぱいものだったのだが。
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等と言っておきながら、時を然程経ずして堕ちて来た別の一つは、聖方西斯哥の欠けたる一角、パッキリと砕けた痕も生々しい場所と、寸分違わぬ精度でぴったりと一致する事が、暇を持て余す人々のその手に寄って観測されている――二つに頒かたれた接合部丁度に刻まれる上代の落書き、何重ものグルグルと無数の線にて表現された、身の毛もよだつ渦(では無いとする者も居る)に絡め取られる最中の人々、の一人、両の腕を“S”の地に、両の脚と胴を逆しまの“F”にした男(では無いとする者も居る)の、蒼白に色を染め、目鼻立ちすら落っことしてしまった無残な相貌が決め手だったのだ。
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そしてまた別の一つは、白く眩い一点を中心に、黒く暗い一塊の渦として降って湧くや、観測を行っていた極少数と、観測なんて行っていなかった大多数とを、空に堕ちるが如く丸ごと一気に飲み干すと、音を立てて消え果てた事が観測された。
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単音高く澄み渡り!
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とか何とか。
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そんな風な、永遠やら絶対やらとは程遠い、全てが全て何かしら正解である故に全てが全て何かしら間違っている、まるで今その場で答えが築かれたかの様な具合が、万事に蔓延していれば、究極の答え等、真理等を探求しようだなんて考えが馬鹿らしいものになるのも無理は無く、大多数は、某とこの世界に対して、すっかり諦め切っていた。
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在るが侭に成るが侭に、疑いは忘れ、忘れては疑い、そして忘れ、そんな風な繰り返しがこの世界の歴史である事を忘れ、ただただ日々が暮れて行くのを過ごす――空は青く高く花咲き誇り、天の頂が麓より伸びる都市を諸共に、在りもしない対岸を求めるかの様に細く長く、世界の果て、霧の彼方まで伸び続ける地平線の彼方此方に、今やかつてに存在したという、海なるものの余韻を、残り香をたっぷりと隠し潜ませ、そして諸説ある彼の光源、時に太陽と、時にその他の名で呼ばれる彼の輝きは、ぐるんぐるんと巡り続ける――散見する“今やかつて”が一体何時の事だったか、最早遠く置き去りにして。
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だが、人々の、この世界に生きる者の在り方としては、それで正解だった。
諦めを知らぬ者、疑いを忘れぬ者、碩学者とか幻想家とか、そんな風な極少数が、探索の末、求道の果て、どの様な境地に達したのかを考えれば、それで良かったのだ。
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嗚呼被創造物よ――彼等は決して諦めなかった。まるで忘れようとはしなかった。逆に言うと、安々と見逃せない程に、世界の造詣は適当であったのだが、彼等は探求を続けてしまった――そうした絶えざる一念の末に辿り着いた代物と言えば、本当にこの世界が最初の最初からどうしようも無いものなのだという、その尤もらしい証拠だったのである。
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即ち――粗雑にして俗悪なる、山と積もった出来損ない。
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そんな眼の逸し様の無い某に対し、彼等は絶望――しなかった。
それすら躊躇する程のどうしようも無さであり、呆れを通り越して諦めの、遅いと言えば余りに遅い、待ちに待った漸くの諦念へと至ったのだ。
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万人が等しく抱く同じ想い――我々は決して孤独では無い。
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だが、ここまでの道程が、彼等にそこで留まる事を許さなかった。
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それは新たな衝動だった――もう二度と、誰にもこんな幻滅等味あわせてはならない。真理等、真実等、一向に解らなくて結構。そんなもの、求めるだけ無駄だという一点を抱いて、ただただ日々が暮れて行くのを過ごせばいい――無理というなら手助けをしてやる。
実際の所それは反動であり、そんな事を態々せずとも大多数は問題無かったのだが、彼等は彼等の為に、彼等の様な者達の為に、そうせざるを得なかった訳である。
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思い煩った末の虚構、挙句の根気篭った偽証――周知の事実を広める為の諸活動と、そして現に行う者達と共に、概念は、根底は、そんな風に形作られて行く事となる。
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今やかつての出来事だ。
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