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三馬鹿の日常  作者: てり
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三馬鹿とテスト明け

「こんな紙切れ一枚に俺の人生左右されてたまるかぁっ!」


 友人の教室に入った瞬間に聞こえた叫び声に、思わず転びそうになった。全く。何アホな事を口にしてるんだ彼奴は。小さく溜め息を吐いてから、うわーん、と声を上げて机に突っ伏す彼のもとへと向かう。音だけを聞くと『高校生にもなって情けない』とか『一体どんな大層な喧嘩をしたのか』だとか考える人間が出てきそうだが。実際の所、友人のあれは単なる泣き真似であって特に噂話にまで登り詰められる様な悲劇等は持ち合わせていないだろう。どうやらクラスの何人かもそれを分かっているらしく、興味関心を欠片も示さない奴や、『何だ、いつものアレか』と言う様な表情で彼を見る生徒もちらほらと存在していた。


 昼食をこの教室で取る時の常と同じく、泣き真似をしている彼の机の前を拝借しようと視線をそちらに向ける。すると其処にはいつもと違って先客が腰掛けていた。と言っても知らない輩ではない。天然物の癖毛頭を持つ彼もまた自分の友人の一人であり、よく昼食を共にする仲間である。よ、と軽く挨拶を交わしてから、丁度空いていた癖毛頭の友人の隣の席に腰を下ろした。そして斜め後ろの机の方へと体を向け二人の友人を視界に入れる。ぐすぐすと未だ泣き続ける友人と、それをとても良い笑顔で眺める友人。うん、まあいつもの光景って言えばそうだよな。心の中で現状に対する感想を述べてから自分の隣に視線をずらし問い掛けた。


「何で叫んでたの、こいつ?」

「嗚呼、なんかテストの成績が悪かったらしいよ。」

「成る程、期末か。」


 笑顔のままさらりと返された言葉に納得し頷く。つまりつい先日に行われた期末考査の答案が返却された上にその点数が酷いものだった訳か。たぶん、というかほぼ確実に。毎回毎回、何かしらテストがある度にそうなのだ。此方からしてみれば日常風景の一コマであるし、寧ろ彼が平均よりも高い点数を取った等と言う話の方が事件である。有り得ないけれど。何しろこいつはこの高校に入学してからずっと、良くて赤点ぎりぎりアウト悪くて一桁の点数しか取っていないのだから。進級だって学年末の補講が無ければ危ういくらいの人物なのである。本当、うちの学校の先生達が寛大で良かったよなぁ。


 と、其処まで思考が脱線したところで、ふと考査前にしていた会話を思い出した。正確には自分ではなくて今目の前に居る二人が交わしていたものである。


「そういえばさ。お前ら二人、何か賭けしてなかったっけ?」

 実際にそう問い掛けてみれば、すぐに癖毛頭の友人が「してたしてた」と肯定を返した。どうやら自分の記憶は間違っていなかった様だ。延々と泣き真似を続けている、いや、机に突っ伏したままになっている友人を見下ろし、その机に片腕を預けながら彼は言葉を続けた。


「俺と真幸(まさき)のどっちが点数高いか?ってヤツでしょ。勿論、俺の圧勝ってね。」


 どうだと言わんばかりに顔を輝かせる友人に、やっぱりな、と苦笑が零れる。赤点ラインをさまよっている友人と違って、彼は自分の友人連中の中でも最も成績優秀な人間なのだ。それも確か学年順位の上位に食い込むくらいの。そんな奴が相手なのだから、机に突っ伏している彼がテストの点数で勝てる訳がない。寧ろ試験前に色々と教えてもらっていた気がするのだけれど。確か、『テスト範囲の内容、全体的に意味が分からない』とか何とか言って。丁度そう思ったその時に漸く話題の中心人物が顔を上げた。


「だからって……だからってお前っ……。何も一週間分の昼飯奢らせるこたぁないだろ!」

 俺がじり貧な事くらい知ってる癖に!鼻息荒くそう付け加えるがしかし、癖毛頭の友人は「いや、そもそもの言い出しっぺは誰だよ」と冷たく呆れた様な口調でそう返した。叫んだ方はそれを聞き流しつつ、眼鏡の上から顔に両手を当てて「畜生、俺の昼飯代を浮かせる計画が…」と心底悔しそうに呟いている。つまり彼自身も自分から賭けを言い出した事はしっかりと覚えている訳か。という事は、だ。


「完全に自業自得じゃねえか、それ。」


 ぼそりとそう口にすれば、眼鏡を掛けた友人はううっと声を詰まらせた。序でに言うと視線も思いっ切り泳いでいる。図星か。と言うか自分が原因である自覚はちゃんとコイツにもあたのか。明らかに挙動不審になった彼の様子に呆れ顔を作ってしまう。隣では癖毛頭の友人が、どうやら笑いのツボに入ったらしくその口元を緩ませていた。


「つーかさ。せめて自分の成績が人並みになってからやれよな、そーゆうの。」

 目の前の二人を視界に収めつつ再び息を吐き出す。本当に、一体全体何をどうしたら普段から五十点以上も点差のある友人に勝てる等と思えるのか不思議でしょうがない。普通に考えてあり得ないだろうに。やっぱり眼鏡を掛けている人間は頭が良いというのは迷信だよな。友人の行動に、そう再確認する。何しろこの眼鏡野郎のあほさ加減は常識を軽く乗り越えていくのだから。それこそ、このクラスは勿論の事、下手をすれば同学年の何割かが知っているくらいには有名だし。隣の席では癖毛頭の友人も「そうそう、全くもってその通り」と腕を組んで同意していた。


「いくら何でも下から数えた方が早い順位の人間が、学年トップテンに勝てるワケ無いじゃんねー。」


 言い終えるのと同時に、これでもかと言わんばかりに輝く笑顔を自分の正面に座る友人に見せつける。眼鏡の彼はそれを見て思いっ切り顔を歪めると「くっそ、むかつく!」と力の限り叫んだ。如何にもイラついてますと言う様な表情の彼だが、しかし誰がどう見ても当然の結果である。その為その渾身の叫びは負け犬の遠吠えにしか聞こえなかった。その事に癖毛頭の彼はふき出してしまったのだが、これは不可抗力だろう。勿論、本人から怒られていたけれども。


 まあ兎にも角にも、その紙切れこと成績表一枚に友人の人生とまではいかないものの、一週間分の生活が左右された事は説明するまでもない。本当、これに懲りたら少しくらい真面目に勉強しろよな。そう彼に言ってやりたい所であるが、恐らく無駄だろう。もし忠告したとしても、ほぼ確実に次の試験までには綺麗さっぱり忘れ去っているに違いない。せめて今日と同じ事態にならない様に祈っといてやるか。

登場人物


真幸:まさきと読む。眼鏡を掛けてる割に馬鹿。

吹雪:天然モノの癖毛をもつ少年。成績は常に学年トップクラス。

駆:無駄に色白な少年。今回の語り手は彼。


これくらいしか設定してないですが一応。

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