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現代書記  作者: 赤木梓焔
第参章
20/26

参ノ伍

「こんなに人が集まるなんて……」

「ああ、進がここまで弾けるとは思わなかったな」

 カグツチの背後から聞こえた男女の声でカグツチが振り返ると、先日会った進の両親がそこに立っていた。

 進の父親は仕事帰りなのか、少し皴のついたスーツを着ていて、母親は白いシャツに茶色のパンツというラフな服装をしている。

 振り向いたカグツチに気づいた進の両親は、カグツチに深く頭を下げた。

「聞きに来てくれたんですね」

「……最初はここに来るつもりはありませんでした。しかし、病院に入院している父、進の祖父が進の演奏している姿を録画してほしいと頼まれまして……」

 カグツチが声を掛けると、進の父親は少し困ったような顔をして答えた。すると、その言葉にアルテミスが反応した。

「ちょっとぉ、進のおじいちゃんが頼まなかったら来なかったってこと?」

「おい、せっかく来てくれたんだ。言い過ぎだぞ」

 進の両親に食って掛かるように話すアルテミスに注意をするカグツチ。

「だって進があんなに生き生き演奏しているんだよ……」

 するとアルテミスは少ししょんぼりしながら小さく反論した。

 その時、進達の演奏していた曲が終わり、観客から大きな拍手が鳴り響いた。

「――今日はこのようないい場所を提供してくださった狐小路商店街の皆様、 そして僕達の演奏を聞きにきてくださった皆様、本当にありがとうございます。最後にこの曲を弾いて終わりにしたいと思います――聞いてください、ベン・E・キング『STAND BY ME』……」

 進はギターをしっかりと握ると、マイクに口を近づけ歌いだした。

「When the night――」

「いい曲だね……これ」

 映画やCMでも有名な曲を進はしっとりと歌い上げる。曲の意味が分かるのか、俺の隣にいたアルテミスの目が潤んでいる。

「この曲は――」

「ああ懐かしいな」

 曲を聴いている進の両親が懐かしそうに話し出す。

「あの曲になにかあるんですか?」

 目を細めている進の両親にカグツチが質問をすると、進の母親が少し涙ぐんだ声で話し出す。

「お恥ずかしい話ですが、私と主人が初めてデートをした時に見に行った映画が『STAND BY ME』だったんです。以来、結婚記念日のお祝いを家でする時は、必ずこの曲を掛けるんです」

「それだけ進はお父さん、お母さんが大好きなんですね」

 カグツチが両親に声を掛けると、二人は無言で頷いた。そしてサビを歌う進をじっと見つめていた。


「――oh,stand by me,stand by me――」


 やがて進達の歌と演奏が終わると、一番大きい歓声と拍手が観客から沸き起こった。

 進の両親も目を潤ませながら、精一杯拍手を送った。

 その拍手を聞いた進達バンドメンバーは観客向かって深々と頭を下げる。

 こうして、狐小路商店街で行われた進達の軽音楽部ライブは無事に終了した。


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