参ノ四
「後は、あの人達が来てくれるといいね」
「ああ、伝えたいことは伝えた。後はあの人達次第だな」
俺とアルテミスが不安そうに話をしている中、進がギターケースから水色のエレキギターを取り出した。
「おっ、アレはフェンダー・ムスタングだな」
「一目見ただけで分かるなんて、さすが店長」
進達の準備を眺めていた『ダカーポ楽器店』の音石店主は、進のエレキギターを見て、即座に言い当てた。
「しかもあれは65年再現モデル。恐らく10万円前後するんじゃないか?」
「えーっ!? ギター一つでそんなにするのー? 私の好きなワインが20本も買えちゃう」
「お前、そんな自分中心な計算しか出来ないのかよ」
音石店主が即席鑑定をしている横で、進のギターの価値を自分の好きな物に換算しているアルテミスに、カグツチは冷ややかな視線を送った。
なぜ進がそんな高級なギターを持っていたかというと。
進の祖父はエルビス・プレスリーに憧れてギターを始めた。
そして進が3才の時、祖父が物置小屋に置いていた古いギターを見つけて、以来、進は祖父からギターを教わった。
自分と同じ趣味を持った進に祖父がギターをプレゼントした。
祖父からも思いを大事にしたい――進がギターを止めたくない、もう一つの理由だ。
楽器店の店前で演奏の準備が出来た進達がチューニングや他の楽器と音を合わせ始めると、その音を聞いた人々が少しずつ集まり始める。
「進達はどんな曲を演奏するのかな?」
「んー、中学生なら人気アイドルの曲じゃない?」
「それか今人気のフォークデュオってとこか?」
進が軽音楽部でギターを演奏することは聞いていたが、どんな曲を弾くのか聞くの忘れていた。
アルテミスの言うとおり、アイドルか人気アーティストの曲だろう。
全ての準備を終えた進がマイクの前に立ちメンバーの紹介と挨拶を始める。
進に呼ばれたメンバーはそれぞれの演奏テクニックを披露しながら、観客に挨拶をした。
観客は二十人程度だが、メンバーが紹介されるたびに、暖かい拍手を送った。
メンバー紹介が終わり、観客の拍手が落ち着いたところで、進が話はじめた。
「それでは聞いてください。Crossroads――」
そして――進の持っていたエレキギターに繋がれたアンプから、ギュン、ギュンと軽快な音が鳴り響いた。
「すごい……これ、Creamの曲じゃない」
「アルテミスこの曲知っているのか?」
進の演奏を聞いたアルテミスが目を輝かせながら話し出す。しかし、俺は誰の曲なのかさっぱり分からない。
「うん、1960年代に人気だったイギリスのロックバンドだよ。あ、カグツチって英語苦手なんだもんね」
「馬鹿にすんなよ。俺だって中学生くらいの英語ならできるぞ」
アルテミスの言葉にすこしムカついて、膨れたような返答をするカグツチ。
しかしアルテミスはそんなカグツチを軽く無視して、流暢な発音で英語の歌を口ずさんでいる。
演奏が始まると懐かしい名曲とあって若い人だけではなく、年配の人達も演奏を聞きに集まってきた。
観客の中には音楽に合わせてリズムを取り、踊りだす人まで出てきた。