参ノ参
「えーっ、そんなこと約束したの?」
「悪いな勝手に約束して。でも俺は、進と親の確執をなんとかしてあげたいんだ」
「うん……そうだよね」
自宅に帰ったカグツチは公園での出来事をアルテミスに話した。最初は顔を顰めたアルテミスだが、親に疎んじられてきたカグツチや、兄と絶縁状態になってしまった自分のことを思い出し、カグツチの案を了承した。
「じゃあ私は明日からカグツチに言われたことをすればいいのね」
「頼む。進の為に頑張ろうぜ」
明日からのことを話し合っていた二人だが、しばらくするとアルテミスの顔が真剣になった。
「……これで上手くいくといいね」
「ああ、何とか。いや、絶対上手くいかせるさ」
先日、スナノオと黄泉の国に行き、母であるイザナミとの誤解や確執が取れたことを思い出したカグツチは、進も同じように両親と傷つけあうのではなく、理解しあえると良いと思ったのだ。
「分かった。じゃあ私はそろそろ寝るね」
「お休み。俺はもう少し作戦を考えているよ」
アルテミスは小さく欠伸をすると、明日に備えて自分の部屋に入っていった。
居間に残ったカグツチは、手元にあったノートを開いて何やら書き込んでいく。
「おーし、これでやってみるか。さて、寝るか」
手元にあったスマホの画面は「AM2:05」になっていた。ずっとうつむいてノートに文字を書いていたカグツチは、立ち上がり首を左右に動かすと眠りにつく為、居間の電気を消し、自分の部屋に入っていったのだった。
――数日後。
「本当にここでライブが出来るのか?」
「うん……カグツチさんはここに来てくれって」
学校の全ての授業が終わった放課後。進と進の所属する軽音楽部のメンバーは狐小路商店街二丁目にある『ダカーポ楽器店』の店前に来た。
店先にはパイプ椅子が三十脚くらい並べられていて、通る過ぎる人達が、椅子と進達を交互に眺めていた。
「進、悪い遅くなった」
「あっ、カグツチさん。本当にここで演奏をしていいんですか?」
進達バンドメンバーにとって、学校以外の場所でライブが出来るというのは嬉しいことだが、こんなに人が集まるところで演奏をしていいのかとまどってしまう。
するとそこへアルテミスもやって来た。
「進くん初めまして。今日はカグツチと一緒に進くん達の手伝いをするね」
「か、可愛い~」「何だよぉ、進、羨ましいぞ」
ニッコリ笑顔を浮かべるアルテミスを目の前にして、進達バンドメンバーは興奮する。ここでも「可愛い」と言われたアルテミスは「いい子達だね」と、上機嫌になっていた。
「盛り上げっているとことを悪いが、そろそろ準備をしてライブをはじめよう」
「ハイ。よし、今日は思いっきり演奏しよう!」
「おう! 機材を設置して、チューニングをしよう」
カグツチの声掛けで、進達バンドメンバーは、アンプなどの楽器の準備を始めた。
機材の電源と、ドラム一式は「ダカーポ楽器店」からの貸し出し。
そう、カグツチは進のバンド演奏をこの狐小路商店街で行うことを考えたのだ。
そして、商店街の人と打ち解けているアルテミスに協力をしてもらい、各店に相談をして商店街でのライブ演奏を許可してもらったのだ。
カグツチの作戦はこの演奏だけではない。ここからが一番重要なのだ。