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現代書記  作者: 赤木梓焔
第弐章
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弐ノ六

「本当なら、黄泉比良坂まで見送りたいが、あそこにはいい思い出が無い。ここで別れを告げてもいいか?」

「父さんから話は聞いているが、壮大な夫婦喧嘩をしたみたいだな」

 スサノオの言葉にイザナミはフフフッと、笑い出す。

「…………」

 しかしその夫婦喧嘩の原因が自分だと分かっているカグツチは黙り込んでしまった。

「カグツチ、気にすることは無い。お前は火の神としての使命を持って生まれたんだ。夫婦喧嘩は私達の覚悟の無さから起きたことだ」

 イザナミは優しく諭すようにカグツチに語りかけた。

 その言葉を聞いて、カグツチの顔に笑みが戻った。


「じゃあ、本当に帰るから」

「今日はありがとうございました」

「帰りも魑魅魍魎に気をつけてな」

 カグツチとスサノオは地上に帰るために、元来た道を歩き出す。

 やがて洞窟の中に入ると、イザナミからも二人の姿が見えなくなった。

「あの時の赤ん坊が立派になって……黄泉の国に行く前に、一度でも抱いてあげたかった」

 イザナミは、遠い日のカグツチを産んだ日のことを鮮明に思い出し、涙ぐんでいた。


「あー、疲れたなぁ」

「今日は連れて行ってくれてありがとうな」

 洞窟を抜けたカグツチとスサノオは、黄泉比良坂の桃の木の前にいた。

「さあて、元に戻さないとな」

 そういうとスサノオは小さく何かを呟き、草薙剣を召還した。

 そして、洞窟の入り口付近の天井に剣を一刺しする。

 すると、ガラガラッと派手な音を立てて天井の岩が崩落していき、洞窟の入り口を塞いでしまった。

「この洞窟はこうやって塞がないと、魑魅魍魎が地上に逃げ出すんだ」

「じゃあ、もしまた母さんに会いたくなったら……?」

「そん時はまた入り口の岩を壊せってことだろ」

 そうあっけらかんと話すスサノオの手からは、草薙剣は姿を消していた。どうやら元の場所に戻ったようだ。

「母さんと会えたし、お前も和解できたし、地上に帰ろうぜ」

「ああ、そうだな」

 こうしてカグツチとスサノオは異次元空間を通り、地上に戻っていった。


「疲れただろう。家でコーヒーでも飲んでいかないか?」

「ああ、じゃあせっかくだしご馳走になるか」

 カグツチの住むアパート前に到着したところで、カグツチはスサノオに声を掛けた。

 黄泉の国に行って穢れを受けたせいか、疲れが出ていたスサノオはその言葉に甘えることにした。

「ただいま~って、あれっ? 帰ってきてたのか?」

「遅かったね、カグツチ。……誰その人?」

 事務所の玄関を開けると、部屋の中からアルテミスが顔を出した。

 その時、カグツチの後ろにいたスサノオが勢いよく前に飛び出した。

「な、なに? このめちゃくちゃ可愛い子?」

「ああ、こいつはギリシャから来たアルテミス……って、めちゃくちゃは余計だろ? イテッ!」

 スナノオと会話を交わしたカグツチの側頭部にバシッっと衝撃が走った。

「ちょっと、カグツチ。本人を目の前にして失礼でしょ!」

 カグツチが顔を動かすと、そこには来客用のスリッパを右手に持って仁王立ちしているアルテミスがいた。

「そうだぞ、こんな可愛い子に失礼だぞ。アルテミスちゃん、俺の名前は建速須佐之男命たけはやすさのおのみこと。通称スサノオ。今度俺とデートしようぜ」

「えぇ~、いいの? 私、観たい映画があるの」

 可愛いと褒められ、デートに誘われたアルテミスは、顔も声もウキウキしている。

 二人の浮かれた様子にムカついたカグツチがスサノオに向かって爆弾を落とした。

櫛名田比売くしなだひめ神大市比売かむおおいちひめに言いつけるぞ」

「ちょっと待て。それだけは勘弁してくれ。恐ろしいことになる」

 それまで顔が緩んでいたスサノオが一転、涙目になってカグツチに手を合わせる。その姿を見たアルテミスは深いため息を吐いた。

「二人も奥さんがいるのに最低~。もう二度とここには来ないでね!」

「ああっ、アルテミスちゃん誤解だよ~。カグツチー、てめえ覚えてろよ!」

「忘れたらごめんな。それよりさっさと帰ったほうがいいんじゃね?」

 スサノオは顔を真っ赤にしながら天界へ戻っていった。

 カグツチは、その後ろ姿に苦笑いを浮かべながら、手を振り見送ったのだった。


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