弐ノ四
「い……いつの間に出したんだ? それに、なんだこの刀は?」
「この刀は雨叢雲剣。通称、草薙の剣だ」
「何? たしか草薙の剣は天照大神に献上したんじゃ無かったのか?」
突然の出来事に驚いたカグツチの口からは、疑問ばかり飛び出す。
しかし、スサノオはそれに淡々と答える。
「カグツチ、お前は俺が出雲の国でヤマタノオロチを倒し、その尻尾から草薙剣を取り出したことは知っているだろう?」
「ああ、話には聞いている」
「そして剣はアマテラス……俺の姉貴に渡したわけだが、その後天皇継承の三種の神器として地上に下り、今は熱田神宮に御神体として奉られている」
「それがどうしてお前の手の中に?」
「俺は最初に剣を見つけた者として、この剣を手元に召喚することができるんだ」
そう言うとスサノオは、草薙の剣の柄を両手で掴み直すと、目の前の岩をじっと見つめた。
「もしかしてこの錆びついた刀で岩を壊すのか?」
「見た目はボロボロだが……まあ、見てろって」
スサノオは剣を握った両手を天高く振り上げる。そして、剣先を勢いよく岩に叩きつけた!
すると岩から耳を塞ぐような金属音が鳴り響いた後、今度は地震のような揺れと振動が2人を襲った。
「スサノオ、い、岩が崩れるぞ!」
目の前の岩に多数の亀裂が走り、砂利のようになった岩は、鈍い音を立てながら崩れていった。
カグツチは出来事にしばらく呆然としていたが、我に返りスナノオの方を見た。
その手に持っていた剣は、岩を砕いたにも係わらず、欠けも曲がりも無い。
スナノオがまた独り言のように何かを唱えると、その剣は光に包まれ、やがて跡形も無く消えていった。
「スサノオ、剣が消えたぞ!?」
「剣は、元の場所に返した。召還できるとはいえ、そう長く持つことも出来ないんだ」
そういうとスサノオは、崩れていく岩の方を見つめた。
やがて、土煙が落ち着くと、2人の目の前に大きな洞窟が現れた。
洞窟の中を覗いたが、光が全く無いので数メートル先の様子は分からない。
「この先に……黄泉の国があるのか」
「ああ、だが、この先は魑魅魍魎がうようよいるそうだ。気をつけないとな」
「なんで、そんなことを知っているんだ?」
「ああ、遠い昔……一度、母親に会いに行きたいとゴネた時に、親父から聞いた」
母が恋しいスサノオは、まともに神の仕事もしないで父であるイザナギと、母に会いたいと訴え揉めていた。
その時は、姉のアマテラスともいざこざを起こし、結果、母と会うことが出来なったのだ。
「洞窟の中は暗い。カグツチ、悪いが火を灯してくれないか?」
「わかった。俺の後ろから離れるなよ」
そう言うとカグツチは左手を宙に上げ、手のひらから炎を出した。そして、ゆっくりと洞窟の中に入っていった。