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第26話『初めてのデート』

2つの時計の針は今、午前6時過ぎを示している。普段ならまだ夢の中にいる時間だけど、今日は違った。

睡魔に悩まされることもなく、むしろ不安なくらい目は冴え渡っている。早起きしようと思って昨日は早寝したけど、大して意味はなかった。結局眠ることもできずに(多少意識は飛んでいたけど)、ほぼ一日中起きていたんだから。

こんな僕を人々は馬鹿だの阿呆だの呼ぶんだろう。

でも仕方がないだろう?

今日は、僕の人生初めてのデートなんだから!


考えてみてほしい。

初デートだよ?

日にちの方じゃなくてカップルがよくやる方のデート。異性と仲良く遊ぶ、これがどれほどロマンチックなことか……。

例えば、ふとした拍子に手を繋いだり、写真も撮ったりしたりして、それなりにいい感じになっていく。そして夕焼けを見ながらベンチに腰かけて、それから……。それから……


「うわあぁーーーーーーーーーーー!」


体のなかで何かが燃え、僕は真っ赤になって布団の中をのたうち回る。

はぁ……僕は何を想像しているんだ。僕と久永さんはまだそんな関係じゃないだろう。


中学時代はずっと眺めてるだけで、もしデートしたらという妄想はたくさんしてきた。

でもこれから起ころうとしているのは妄想なんかじゃない。

今まで夢見てきたことが、これからいよいよ実現しようとしているんだ。絶対に思い出に残るすばらしいものにしたい。


とりあえず今日のスケジュールをもう一度確認しておこう。今日行く場所は、ここから少し遠くにある大きなショッピングセンターだ。まず昼の12時頃に、久永さんが使ってるあの学校近くの駅に集合。方向音痴の僕でもあそこまでの道のりはさすがに覚えたから大丈夫だ。そして到着したらまず映画を見る。見るのは最近流行っているディズニー映画だ。それが終わったらいろんな店を見て回り、6時頃に帰宅する。これは久永さんの家の門限が7時だからだ。


これらはすべて、久永さんと昨日メールを交わしあって決めたことだ。

それにしても驚いた。デートって計画する段階から既に楽しいものなんだな。スケジュールを立てるなんて面倒くさい作業だと思い込んでいたけど、好きな人と組むのはそうではないってことがわかった。

とにかく、今までずっと夢見た初めてのデートなんだ。すべて上手くいきますようにと僕は祈った。



* * *



午前10時、することもないから居間でテレビを見ていた。睡眠不足による眠気が今さら押し寄せてくる。なんで今さら眠気が襲ってくるんだろう、訳がわからない。

でも、ここで寝てしまったら十中八九寝過ごしてしまうだろう。だからテレビを見て気をまぎらわしている。


「裕志さん、私たちそろそろ行きますね」


バッチリおめかししてきた白雪さんと父さんが僕の元へやってきた。そうそう、今日は白雪さんと父さんも出かける日だ。

それではここで、ちょっと眠いけど二人の本日のファッションチェックと参ろうか。

まずは白雪さん。真夏らしい白いキャミソールの上に薄手のパステルイエローのカーディガン、フリルのミニスカートという、ラフすぎずゆるやかで清純な印象だ。

一方父さんはというと、白のタンクトップの上に黒いロングベスト、ダークな色のカーゴパンツにはベルトのようなものが裾にまで巻き付けられている。決め手にしゃれこうべのペンダントだ。露出した腕は筋肉でたくましく、普段生やしてる口ひげもしっかり剃っているので、見た目はどこからどう見ても20代だ。

それにしてもこの二人、身長的に小学生くらいの女の子を連れている親戚のお兄さんのようだ。実の夫婦のはずなのに、なんだかちょっと滑稽だ。


「おい裕志、テレビばっか見てねえでちゃんと昼飯も食えよ」


「わかってる」


僕はあくび混じりに答えた。それにしてもコマーシャル長すぎないかこの番組……。


「では、いってきます」


「いってらっしゃーい」


交わすべき挨拶を交わし、再び部屋に静寂が戻った。まあ、僕もこれから久永さんと目一杯楽しんでくるんだ、白雪さんも父さんもそうなることを祈ろう。


「さ、僕もそろそろ準備しないと……」


僕はリモコンの電源ボタンを押し、二階に上がった。



* * *



「久永さん!」


僕は目の前で本を読んでいる大和撫子に声をかけた。汗だくでヘトヘトになって今にも倒れそうだけど、気力でなんとか踏ん張る。


「梶田くん……」


久永さんの表情は少し曇っている。そりゃ当然だよな。だって、集合時間より10分以上も遅れたんだから。


「ごめん、遅れちゃって。駐輪場もちょっと混んでてさ……」


「ううん、気にしなくていいよ」


今日一番に見た久永さんの笑顔は、消耗しきったこの体を癒してくれる。……と同時に、遅れてしまったことへの罪悪感が浮き彫りになってしまう。

そもそもこうなるまでに何があったのか順を追って説明しよう。まず自室で財布や携帯電話といった荷物の点検をしていた。そして準備万端だと安心しきっていた、その後のことだ。僕はあろうことかうたた寝してしまっていたのだ。なんてバカな話なんだ……。

昼ご飯はどうなっているのか彰が聞きに起こしにきた時には、2つの時計の針はきれいにピッタリと重なっていた。それはちょうど待ち合わせ時間を表していたのだった。

初デートで遅刻する人なんてバカだと思ってたけど、そう考えていた自分が一番バカだった……。


「それじゃあ、時間も押してるし、早く行きましょう」


久永さんは笑顔で言った。

やっぱり久永さんは優しいな。その優しさに卑屈になりかけていた僕の心は救われた。


さて、切符を買ったりしている間に久永さんのファッションチェックもしておこう。

今日の久永さんは本当にかわいい。

白色を基調としたチュニックワンピースがこれでもかというほど似合っている。ふんわりゆるやかな仕上がりで、冗談抜きで天使のようだ。いつも付けてる花のヘアピンは外してある代わりに、リボン付きの黒いカチューシャをしていて、これがまたベストマッチしている。


「梶田くん」


「ん、何?」


電車の中で急に声をかけられ、我に帰った。仕方がない、まだまだ語り尽くしたいところもあるけど、ファッションチェックはこれで終わろう。


「顔色悪そうだけど、大丈夫?」


「ん? ああ……大丈夫だよ」


多分そう見える原因は、昼ご飯を抜いて空腹のなか自転車を猛スピードでこいだからだろう。あとは寝不足も原因かな?


「心配してくれてありがとう」


「ううん、あんまり無理しないでね」


「……」


「……」


えーと、何かタイムリーな話題は……。あっ、そうだ!


「今日の映画本当に楽しみだね!」


「うん、楽しみ!」


「映画館で映画を見るなんて久しぶりだから、今からちょっとワクワクしてきたよ」


「最後に映画を見たのはいつ?」


「大体6年前かな……」


「長い間行ってなかったんだね」


「そうなんだよ。久永さんは最後に行ったのいつ?」


「うーん……。そもそも私、あんまり映画を見ることはないから……」


「そうなの?」


「私の場合、本をいっぱい読んでいるから、多分それで満足しているんだと思う」


「なるほどね。どんな本をよく読んでいるの?」


「やっぱり古典文学かな。この前見せた源氏物語以外にも、枕草子や更級(さらしな)日記、方丈記や平家物語、竹取物語とか私は好きかな 」


ダメだ、名前は知ってるけど内容はよく知らないものばかりだ。今度勉強しておこう。


「久永さんっていつから古典文学を読み始めたの?」


「たしか、幼稚園児くらいの頃からだと思う」


「そんなに前から!?」


「うん。パパが持ってた古文の資料を見てから興味を持ち初めて、読み方や現代語訳もパパから少しずつ教わったの」


なるほどね。久永さんにとって古文は小さい頃から一心同体だったんだな。僕が小さい頃からずっとゲーム好きなのと同じようなものというわけだ。



* * *



そんな感じで、目的地まで久永さんといろんな話をした。やっぱり久永さんとお話するのは本当に楽しくて、何もかも忘れて楽しんだ。

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