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第23話『妄想みたいな現実』

期末試験が終わってようやく一息ついた7月の上旬。しかしそんなことはお構いなしに今日は図書委員の会議だ。燃え付き直後でこっちは疲れたというのに、少し酷じゃないだろうか。少しくらい休ませてほしいものだ。まあ、久永さんと喋れたのは嬉しいけどさ。

それにしても、未だに久永さんをデートに誘えてないこの状況は早い内に何とかしなきゃ……。このまま先延ばしにしていたら本当に水島くんに取られるかもしれない。まあ、本当に水島くんは久永さんを狙っているのかはわからないけれども。


「今日の連絡は3点ある。しっかり聞いてくれたまえ」


片山さんは相変わらずのメガネにテクノカットだ。頭が涼しそうだけど本当にダサい。僕が一からコーディネートしてやりたい。


「まず1つ目だ。来週からついに夏休みの期間に入る。この期間では、文芸部としての活動はいつも通り火曜、金曜日に行う」


本当かよ……。夏休みくらい家でゴロゴロしたり、たまにどこか旅行に行ったりしたかったのになぁ。でも久永さんと会えるなら良しとするか。


「そして二つ目。テーブルの上にある資料に目を通してくれたまえ。今年もいつも通りの海岸近くで夏合宿を行う。日程は8月の20~22日の3日間だ。予定のない者は必ず参加するように」


夏合宿、なんか青春っぽいなー。海岸近くってことは海で遊ぶ時間もあるのかな?

しかし持ち物の中に水着という文字は存在していなかった。まあ当然といえば当然か。でも持ってくるに越したことはないな。


「それから3つ目。今日で文化祭まで残り三ヶ月を切った。既に短編小説を書き上げた者は私に一度見せてほしい。まだ終えてない者は夏休み中には完成させるよう努力してくれたまえ。もちろん、合宿中に書き上げても構わない」


そういえば全然書いてなかったなー、短編小説。これについてはまだテーマも確立していなくて、何を書いていいのかわからなくて八方塞がりしている。早く書かなくちゃ……。


「それでは、本日の会議は終了する。五班の人たちはそのまま受付に取りかかるように」


そうだった、今日は僕の班の担当だったんだっけそれ。すっかり忘れてた。あーあ、さっさと家に帰って新しく買ったゲームを楽しもうと思ってたのに……。

仕方ない、ゲームは明日やろう。せっかく楽しみにしてたけど。まあ、明日からでも遅くはないさ。そう自分に言い聞かせ、僕は受付カウンターへと向かった。



* * *



そういえば受付の作業についての説明がまだだったな。では、今更ながらここに記しておこう。カウンターには会計のレジにあるようなバーコードを読み取る機材が二つ用意されていて、それを使って貸し出し状況を管理している。まずは入学時にもらえるバーコード入りのカードの方から読み取る。次に本についているバーコードを読み取る。たったこれだけの作業だ。返却される本は、それについてるバーコードに機材を当てるだけだ。

他には、定期的に本棚に置いてある本をチェックしたり、新着本にバーコードを貼って本棚に入れたりするのが受付の仕事だ。

この受付でつらいのは、ほとんど座りっぱなしの状態になってしまうことだ。別段そんなに本をチェックすることもないし、新着本もそうそう来ない。やっぱり本を読もうとする高校生はそう多くはないのが原因だろう。そうなると何もしないでいる時間の方が多くなってしまう。最近ではライトノベルを並べたことで、利用する人は増えたらしいが、それでも暇な時間が多いのは変わらない。図書室とはいえ自習スペースやパソコンもあるため、そっちを利用する人が断然多い。

……とまあ説明はこれくらいにして、一つ気になったことがある。僕の班にいる、いつも一緒に担当してた先輩がいない。もしかして今日は来てないのか?

まあ、普段二人がかりでやっているこの作業も、別に一人でやろうとおもえば可能だ。けど、一つだけ問題がある。受付時間中は何があってもカウンターを空けてはいけないのだ。どうやら過去にそれがきっかけで事件があったみたいで、それ以降は最低でも二人以上で担当することが義務付けられているらしい。それに、たまに片山さんが見回りに来るので、もし空けたとバレてしまったら何を言われるかわからない。

仕方がないので僕は先輩がいないことを片山さんに伝えた。


「なるほど……。まずは報告に感謝する。その無断欠席した者には後ほど対処しよう」


対処というのは一体何だろうか?

まあ、この人のことだから厳重な処罰を課すのは目に見えている。


「さて、本来なら代理として私が担当したいところだが、私にも色々と用事があって、そればかりに時間を割けそうにない」


それはよかった。片山さんと一日中一緒にいるなんて考えたくもない。きっと居心地が悪いだろう。


「全員、聞いてくれたまえ!」


片山さんが帰ろうとする生徒を張りのある声で呼び止めた。自習している生徒もいるんだからもう少し自重してほしい。


「今日これから予定のない者はいないだろうか。実は、今日の受付が梶田くん一人だけの状態なのだ」


すると他の図書委員の生徒たちがざわつき始めた。そりゃそうか、こんな試験終わりの日に喜んで面倒事を引き受けたい人なんているわけがない。


「一人だけでも構わない。誰か協力してくれる者はいないか?」


そう言っても状況は何も変わらない。やっぱり誰も助けてくれないのだろうか?

すると、一人の女子が手を上げた。その人は、あまり関わりのない人だった。正直久永さんだったら嬉しかったんだけど……


「片山先輩、久永さんなら大丈夫みたいですよー!」


「何、本当か?」


……って、久永さん?


「任せて構わないだろうか、久永くん?」


片山さんが眼鏡を手で添え直しながら久永さんに聞いた。


「あ、えっと……。まあ、これから特に予定はないですし……」


「なら君に任せるとしよう。私もたまに顔を覗かせるから、よろしく頼む」


そう言って片山さんは立ち去ってしまった。

僕は久永さんに目を向けると、目が合ってしまった。思わず目を背けてしまう。

僕は今、心のなかで多いに焦っている。久永さんとは班が違うから一緒に受付をするなんて叶わないと思っていた。もしそれが叶ったらどれほど楽しいだろうか、そんなことを妄想したこともある。それが、こんな形で実現してしまうなんて思いもしなかった。

この部屋は冷房が効きすぎてるはずなのに、なぜか体が熱くなってきた。



* * *



僕は座っている。カウンターの席に座っている。隣には白いセーラー服に身を包んだ大和撫子がいる。その大和撫子とは、僕が片想い中の女の子、久永亜純だ。これは夢でも幻でも、ましてや妄想なんかじゃない。実際に自分の目に映っている現実だ。だけど、なかなか実感が湧いてこない。中学の頃の僕は今よりずっと人見知りで、女子に自分から話しかけるなんて考えられなかった。だから久永さんを遠くから見るしかなかった。だけど、今は違う。こうやって僕の隣に座っていて、僕と同じ作業をしている。いわば共同作業といったところか……。

僕は横に目をやる。そこには可憐な笑顔で対応している一人の少女がいる。

かわいい。

変態じみた感想だけど、そういった類いの言葉ばかりが並んでしまう。やっぱり久永さんには、見る者を魅了しなごませるものがある。こういったものって、生まれ持った華とでもいえばいいんだろうか。

すると久永さんがこっちを向きながら僕の名前を呼ぶ。


「梶田くん、梶田くん!」


どうしたんだろうか、そんな焦ったような顔で僕のことを呼んで……。

すると久永さんは、僕から見て左の方向を指差した。その指先をたどってみると、そこには眼鏡をかけた地味そうな雰囲気の女子がいた。


「すみません、これ借りたいんですけど」


……はっ!


「ああ、ごめんなさい。少々お待ちください」


しまった。久永さんのことばかり考えててすっかり自分の責務を放置していた。僕は急いで二つのバーコードを読み取る。


「お待たせいたしました。二週間以内に返却をお願いします」


女子は本を受けとるとそそくさと出ていってしまった。それにしても、ちょっと慌てていて顔はよく見てなかったけど、あの女子どこかで見たことあるような?


「梶田くん、よそ見してちゃダメだよ?」


久永さんは子供に優しく注意するみたいな表情で言った。何だろう、叱られたのにちょっと嬉しいような気がする。かわいい姿を見れたからだろうか?

それにしても本当に久永さんはすごい。普段なら本を借りに来る人なんて数えるくらいしかいないはずなのに、今回はもはや指を折って数える暇すらない。

それもそのはずだ。その利用客のほとんどが、本とは全く縁の無さそうな男子たちだからだ。そう、つまり単純に久永さん目当てで本を借りているということだ。その証拠に、僕は準備万端で受付を待っているのに、男子どもは僕のところに来ないで久永さんの所に列をつくっている。

要はあれだ、本なんかよりもかわいい女の子との接触がいいっていうことだ。

そういえば以前貸し出し記録のデータについて会議があったんだけど、その時に最も本を借りた人数が多かったのは圧倒差で久永さんのいる四班だった。同じ四班の片山さんは自分の手柄みたいに言ってたけど、絶対に違う。これはどう考えても久永さんのおかげだ。


「……」


もう一度言おう、本当に久永さんはすごい。すごすぎて僕なんかといるべき場所が違うように感じてしまう。僕なんかと一緒にいてもいいのかと本気で思ってしまう。

だけど──


「梶田くん」


「何?」


「あともう少し、頑張ろうね」


久永さんはフワッと微笑んだ。


「……うん」


やっぱり久永さんはかわいい。この笑顔も全て自分のものにしたいという欲望が嫌でも湧いてくる。

おそらく全世界の人間がこの愛くるしい少女に惹かれるだろう。僕以外の男子も、きっと僕みたいに恋心を抱いているだろう。

僕は久永さんが好きだ。

好きになったからには一度は結ばれたい。だから僕は決心した。今日こそ久永さんをデートに誘おうと……。

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