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第16話『新たなる刺客2』

そして二日後の体育の時間。


「今日からは実際に本番と同じくらいの距離を走ってもらう。これからは前回以上に失敗も多くなるだろう。お互いのことを思いやりながら、そして自分を信じて臨んでくれ。それじゃ、隊列を組んでくれ」


体育の先生は淡々と述べていった。話が終わると生徒たちは昨日決定した列を作り始めた。ドタドタした足音が体育館に響く。

前にやった通り、右には谷原くん、左には若槻さんがいる状態になった。すると、若槻さんとその隣にいる女子がこちらに振り向いた。そして若槻さんは僕に質問を投げつけた。


「ねえ、あずみんとはいつから付き合ってたの?」


またそういう流れか……。そんなに僕と久永さんの関係が気になるものなんだろうかこのクラスは。


「いや、久永さんとは付き合ってはなくて、ちょっと仲が良いだけで……」


「ほんとにー?」


「ほんとだよ」


「じゃあ一緒に手ぇつないだりとか、チュウとか済ませちゃってないの?」


「え……」


久永さんと手ぇつなぐ?チュウ?


「そ、そんなの……まだやってないよ!」


「アハハ、梶田くん顔真っ赤ー」


二人とも僕を指差しながら笑いだした。

恥ずかしいからやめてほしい……。

だいたい、図書委員という同じ役職なだけで、いきなりそんなところまで発展するわけがないだろう。まったく……。



***



そしからしばらくして、四十人四十一脚の練習が始まった。この時、もう転びたくないと誰もが思っただろう。しかし練習を重ねる度にどんどん転んでしまう。僕たち四十人はそれぞれ体格も違うし、歩幅だってもちろん同じじゃない。だから本当に難しい。何度も転んだせいで膝に青アザができている人もいる。けれどもまた転んでしまう。

今度は今まであまりミスのなかった左端が転んでしまった。僕は左側の位置だったので同じく転んでしまった。膝から落ちてしまい、足に激痛が走った。


「うっ……!?」


今までにも失敗することは何度かあった。だけど大抵は踏ん張るか、最悪でも地面に手をつく程度で済んだ。だからこうなるのは想定外だった。


「……」


膝の方は少し擦りむいたくらいだけど、内部の方から痛みを感じる。恐らく内出血したんだろう。


「大丈夫か、梶田?」


谷原くんが僕の膝を見ながら言う。


「ああ、平気だよ……」


僕は痛みをこらえながら体勢を立て直したその時だった。ふと左側を見てみると、見知らぬ男子が転んでいた女子に向かって手を差しのべていたのである。その女子は、その手を掴んで立ち上がり、笑顔で会話を始めた。


「ッ……!!」


僕の頭の中で、流れ星が一筋走った。

その女子は、僕がよく知っている大和撫子なのだから。


「久永さん……?」


脳内で今までの久永さんの言葉、仕草、立ち振舞い、様々なものが交差している。あふれんばかりに活動して、気がおかしくなっちゃうんじゃないかと思った。


水島竜斗(みずしまりゅうと)……」


呆然としていた僕は、谷原くんの言葉で我に帰った。


「サッカーは全国大会で優勝するほどの腕前。新入生代表で挨拶を任せられるほど成績も優秀。おまけにイケメン。まさに絵に描いたような優等生だ」


谷原くんは解説するように語り始めた。


「まあ背が小さいのがネックだけどな」


そう言われて再びあの男子を見てみた。うん、たしかに小さめだ。僕は久永さんと比べてみると十センチほど差がある。しかし、その水島竜斗という男子は久永さんと目線がほぼ同じだ。たしかに小さいな。

……って、観察してる場合じゃない。


「いずれは狙うんじゃねえかと思ってたけど、まさかこんなに早いとはな……」


「狙うって?」


「ああ、あいつと同じ学校だったから知ってんだよな。あいつかなり女ったらしでな、どんな女子でもあいつの手にかかりゃ確実におちるんだ。たとえ、カップルが成立していても……だ」


背筋がゾクッとした。そんな魔法使いみたいな人間がこの世にいるのか!?


「気を付けろよ、梶田?」


その谷原くんの言葉は、しばらく僕のなかで反芻し続けていた。



***



今日の授業がすべて終わった後、僕は痛めた膝をさすりながら図書室へ向かった。返却期限が今日の本を返すためだ。先月借りた「吾輩は猫である」はすでに返してある。昔の文章はやっぱり読みづらく、久永さんに助けを求めてみたものの、やっぱり難しいものは難しかった。もう少し簡単なものから読もうと思い、久永さんからのおすすめで借りたのが、この「銀河鉄道の夜」だ。とてみ読みやすく、何よりどこか幻想的な雰囲気が良かった。

だけど図書室へ行く道中で思い出すのは、体育の授業で見たあの出来事だった。なんだか胸の中がモヤモヤする。胸騒ぎというんだろうか、これは……。

本を返却し、次に読む本を探していると後ろから肩を叩かれた。


「カジぴー」


振り向こうとすると、頬に細長い棒のようなものが当たった。


「フフン」

どうやら肩を叩いた手をそのまま乗せると同時に、立てた人差し指が当たったのだ。


「何だよ優奈……」


「それはこっちのセリフよ。午後ら辺からずっと上の空だったから心配したのよ?」


優奈に心配されるということは、相当なご様子だったようだな僕は……。


「もしかして、あずみんのこと?」


「……」


「え、図星だったりした?」


……これはもう言い逃れはできない。

僕は体育の授業であった出来事、その時感じたことを包み隠さず打ち明けた。



***



「なるほどねぇ。その水島って人にあずみんが取られるかもしれないのね」


「ああ……」


正直そんな風に考えたくもない。けど、もし谷原くんの言っていたことが本当だったら……。そう考えると不安になってくる。


「たしかにその谷原ってやつの言うこと信じるとすれば、危険なのは事実ね」


優奈は考え込むように言う。


「じゃあこっちから奇襲を仕掛けるっきゃないわね」


「奇襲?」


僕が言い終わると同時に、優奈はすっと身を乗り出した。すると真面目な顔つきでこう言った。


「カジぴー、思いきってあずみんをデートに誘いなさい」


「デート?」


僕はしばらく考え込んだ。

そして──


「ええーーーーーーーーーーーっ!?」


思わず大声で驚いてしまった。図書室にいる人たちはみんなこっちを向いてきた。


「バカ、大きな声出さない」


「ご……ごめん」


「まったく……。んで話戻すけど、誰かと結ばれるには、ある程度の手順を踏まないきゃ成功するものもしないの。だからカジぴーの方が先に行動を起こすの。恋人関係になる前に誰かに取られるなんて嫌でしょ?」


「そりゃそうだけど……。でも、久永さんの気持ちだってあるし」


「なに言ってんのカジぴー、恋は常に勝負、戦いなのよ?」


優奈の言い分はちょっとデタラメなことだらけだけど、デートねぇ……。たしかにそれは恋人を作るにはかなり重要なプロセスだ。


「でも僕、デートなんてしたことないから、どうやって誘えばいいのか……」


「普通に遊びに行こうって言えばいいのよ。変にかっこつける必要なんてこれっぽっちも無いんだから」


優奈はお気楽に語るけど、そう上手くいくものなんだろうか。正直かなり不安だ。でも、久永さんを誰かに取られたくないし……。

陽気な日差しに、少し陰りが含まれた。

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