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第13話『その後のグループ分け』

それからしばらく他愛のないことを喋り続けていたら、すっかり夕食の時間になってしまっていた。


「もうこんな時間かぁ。あーあ、もう帰んないとなあー……」


優奈は白雪さんと別れるのが相当名残惜しいようだ。

すると白雪さんがある提案をした。


「あ、でしたら夕食はうちで食べていきませんか?」


「え、いいの!?」


「はい。今日はちょうどカレーライスを作ろうとしたところですし、人数分はあると思います」


「カレーライス?しかも白雪ちゃんが作るの!?」


「あ、はい……」


「やったー!」


優奈は嬉しそうに跳びはねた。人の家であまりピョンピョン跳ばないでほしいんだが……。


「あ、僕は遠慮しておきます。早く帰ってこいと親から連絡が……」


コッキーは携帯電話を見ながら少し焦っていた。


「そうですか。でしたら仕方ないですね」


「はい、またの機会にします」


コッキーは荷物を手早くまとめて変える準備をし始めた。


「というわけで裕志くん、明日はちゃんとフォローするから任しといて!」


「うん、わかった」


コッキーの言葉はとても頼もしそうに聞こえた。


「でも、もし本当に白雪さんとくっついたら承知ないからね!」


しかし最後になぜかウインクされながらこう言われた。


「だから!僕はそんなことしないって!」


なぜ新しい母親がいるだけでそう言われないといけないのか、それが謎だ。



***



「おーいしいー!白雪ちゃんホント最高よコレ!」


「そんな、大袈裟ですよ」


今、食卓には僕と彰と白雪さんに加え、優奈の四人がいる。優奈は白雪さん特製のカレーライスを美味しそうに食べていた。我が家でクラスメイトと夕食をとるなんて実に久しぶりだけど、たしかに優奈のリアクションはオーバー過ぎると思う。


「白雪ちゃん、おかわり!」


「早っ!」


僕は思わず驚きを口にしてしまった。


「え?逆にカジぴー遅くない?」


「そんなことないよ、食べる早さなら彰にだって負けないよ僕は」


さすがに父さんには敵わないけど……。


「でもこんな美味しいの、早く食べなきゃもったいなくない?」


「そういうのは逆にゆっくり味わうものじゃない?」


「えー?ちまちま食べたらせっかくの旨味とか無くなっちゃわない?」


「いやいや、食事という時間を永く楽しまない方がもったいないよ」


ていうか、何で食事のあり方について食べてる時に議論しなきゃならないんだ?


「二人とも、早くても遅くてもカレーは逃げませんよ。工藤さん、おかわり用意しますからちょっと待ってください」


白雪さんは優奈が使った皿を取り、ご飯とルーを手際よく入れた。


「はい、どうぞ」


「わーい、ありがとう!」


本当、まだまだ子供だな……。



***



こうして、色々なことがあった一日がようやく終わろうとしていた。夕食を食べ終え、何とか優奈を家に帰し、とりあえず一段落ついた。


「……ふぅ」


僕は一息ついた。下校した時の件もあって今日はとても疲れた。


「賑やかな人たちだったね、兄ちゃん」


夕食の時もずっと口を開かずにいた彰がようやく喋った。


「まあね。でも彰は初対面の人に対して緊張しすぎだよ」


「だってさ……」


彰を見ていると、物言わぬ機械ばかり相手にしてちゃいけないことを嫌というほど実感する。まあ、僕も暇なときは基本的にゲームしてるから大概だけど。


「それにしても裕志さん、良い友達に会えたんですね」


流し台で洗い物をしてる白雪さんが話に参加した。


「いえ、それほどでも……」


「これからもちゃんと仲良くしてあげてくださいね。友達は大事ですから」


「そうですね」


友達は大事か……。そうだよね、友達って本当に大切な存在だもんね。うん……。


「それじゃ僕、先にお風呂入るよ」


彰は風呂場に向かって歩いた。


「風呂場でパソコンなんか使おうとしないでよ?」


「大丈夫!すぐ上がるから」


こういう時に限って彰は長風呂なんだけどね……。それでも僕は気にせず彰を見送った。


「……」


「……」


食器洗いを全て終わらせた白雪さんは、僕の手前側の椅子に腰かけた。テレビも付けていないので、妙に落ち着かない。

ここもやはり、僕から先陣を切ろう。


「何か、本当にすみません。こんなことになっちゃって……」


白雪さんのことを二人に話すことになった原因は間違いなくトモだけど、僕の不注意が悪かったのも確かなことだ。だから僕は白雪さんに謝った。


「いいえ、いずれこうなることはわかっていましたから……」


白雪さんは仕方がないと言いたげな顔で僕を見た。


「まさか同じ日に同じクラスの人がいるだなんて、いくらなんでもわかりませんよ」


「そうでしょうけど……」


「裕志さん、私のことは大丈夫です。心配しないでください」


そう言われると余計に申し訳ない。父さんからも、白雪さんのことは他の人には黙ってほしいと言われていた。それを守れなかったのだから、白雪さんにはとても悪いことをしたように思う。


「ただ、自分からうっかり話さないようにだけは注意してくださいね」


白雪さんは僕に微笑みかけた。


「……はい」



***



それからは話すことが何もなく、僕も風呂に入った後、すぐに自室にこもった。


「何だか白雪さんって不思議な人だなぁ……」


自分のことが他の人に知られてしまったにも関わらず、白雪さんは笑いながら許してくれた。悪いことしてしまったのに、なんだか心が温かくなった。


「こういう所だけは母親らしいな……」


たまにおっちょこちょいな一面はあるけど、彼女はまさに母親の鑑というべきではないだろうか。


「明日は穏便に済ますことができればいいな……」


鮎川の件もちょっと頭から離れていたけど、まああの二人なら何とかしてくれるかもしれない。僕はそう切に願う。


「そろそろ寝よう」


今はもう夜の十一時と、まあまあ遅い時間だ。明日のことは明日じっくり考えよう。

そのまま僕は目を閉じ、眠りに着いた。



***



そして翌日、父さんの自転車を拝借して学校へ向かった。昨日のクラスメイトたちの冷めたような視線を思い出して身震いしてきたが、どうやら心配しすぎだったようだ。教室に着いても、今までと同じように談笑したりはしゃいでいたり寝ていたりしていた。

どうやら、優奈とコッキーがうまくみんなを説明してくれたみたいだ。

僕はとりあえず安心した。窓際にいる鮎川の殺意を含んだ視線が気になったが……。

そのまま自分の席に着くと、数人の男子が僕のもとにやってきた。


「よう梶田!」


今まで話したことのない人たちだったので、僕は軽く身構えた。


「昨日は悪かったな、俺たちお前のこと誤解してたわ」


昨日……ということは、あのことでいいんだよな。


「ああ……。わかってくれたらいいんだよ」


「まさか梶田に生き別れた妹がいたとわな……」


へ?


「スゲーよな、そんなドラマみたいなことが本当にあるもんなんだな!」


「マジすごいよな!」


???


「まあ、あれだ。頑張れよ梶田」


そう言って男子たちは立ち去っていった。

しばし僕は訳がわからずそのまま硬直していたが、やっと気づいた。そして大きく深呼吸し、机に突っ伏した。


「生き別れた妹って……」


いや、たしかにそういう設定もありかもしれないけど、何だかなぁ……。



***



そして今回の騒動で忘れかけていたけど、今日はお待ちかねの委員活動の日だ!

終礼が終わった後、僕は廊下で一人の人物を待った。誰を待っているのかって?


「お待たせ、梶田くん!」


もちろん、久永さんに決まっているじゃないか。


「よし、行こう!」


「うん!」


僕たちは図書室へと一緒に歩いていった。

なんだか、緊張するな。この前もこうやって横にならんで歩いたことはあるけど、それでもドキドキしてしまう。


「……」


「……」


そしてこの黙りこんでしまうのもお決まりになってきた気がする。やっぱり僕から話をするべきだろうか?


「ねえ、梶田くん」


そう思ってたら珍しく久永さんから話しかけてきた。


「どうしたの?」


「生き別れた妹って、本当なの?」


早速痛いとこ突かれてしまった。ちょっと覚悟はしていたものの、いざ聞かれると言葉に詰まってしまう。


「……ああ、そのこと?」


「うん」


どうしよう、白雪さんは妹ではなく母親なんだけど……。いっそ久永さんにも正直に話すべきなのだろうか?


「何て言うか、最初は僕も戸惑ったよ。今まで自分と関わることなんてなかった人と同居するなんて……」


「……」


「急に決まったことだったからさ、本当に慣れるまで大変だった。こんなこと周りの人たちには言えないし……」


とりあえず嘘をつかない程度に白雪さんのことを伝えた。いくら久永さんとはいえ、やっぱりそう簡単に打ち明けちゃいけない気がする。


「……」


「あ、ゴメンね。こんなこと言われても困るよね……」


「ううん、そんなことないよ」


久永さんは首をかしげながら微笑んだ。

やっぱり久永さんの笑顔はとてつもなくかわいい。なんだか、心の中のどんよりしたものが晴れ渡っていくような、そんな感じがする。


「ありがとう、久永さん……」


白雪さんと生活することは、実はそう容易いものではないかもしれない。もしかしたら、さらに誤解されるようなこともあるだろう。でも僕は頑張っていこうと思う。

桜の時期はもうとっくに過ぎてしまったけれど、春の香りを僕は感じていた。



***



「ではこれより、第二回委員会議を始める!」


片山さんは大袈裟に胸を張り、真顔で生徒たちを見渡した。


「と、その前に聞いておきたいことがある。入学式から既に二週間以上経つが、君たちは何か本を読んではいるか?」


片山さんは誰にともなく指差しながら聞いてきた。


「では瀬戸君、何の本を読んでいる?」


当てられたのは読書とは縁の無さそうな不真面目な印象の男子だ。多分楽そうな役職だと思って引き受けた口だろう。


「特に読んでないっす」


なんと正直にそう言ってしまった。この男子は空気も読まないのか?


「読んでいないだと……?」


片山さんの眉がピクリと動いた。


「図書委員としての自覚が足りなすぎる!」


だろうな。でも本を読んでないくらいでそこまで声を張り上げることだろうか?


「会議が終わり次第何か本を借りたまえ!」


「うぃーっす」


二人のとてつもない温度差に苦笑いしてしまう。


「では次に沢田君はどうだ?」


次は眼鏡をかけた控えめそうな女子が当てられた。


「あ……えっと、その……ですね……」


「話すときはもっとはっきりしたまえ」


片山さんは眼鏡をかけ直し、注意した。


「は……はい!」


相手は緊張してるんだから、そんなにきつく言ったら逆効果だろ。


「えっとですね……。私は、村上春樹の小説を読んでいます!」


その女子は鞄から一冊の本を取りだし、片山さんに差し出すように見せていた。本はなかなか分厚かった。


「ふむ、まあいいだろう」


片山さんは投げやりに言い放った。

そんなに現代の小説家が気に入らないのだろうか?

だけど一ヶ月と経たないうちに新入生の名前を覚えるところはさすがだ。



***



「それではみんな、くじを引きたまえ。いかさまは絶対にないように!」


片山さんのやたらと長い世間話が終わり、やっとくじ引きがスタートした。

前にも伝えた通り、近々図書室の受付を務めるにおいて、少人数のグループに分けられる。そのグループは割りばしを使ったくじ引きで決めるのだ。

僕は密かに久永さんと同じグループを望んでいた。こういうのは一緒にいる時間が長いほど良いと優奈も言っていた。それに、僕自身も久永さんともっと色んなことを話したかったのも確かだ。

僕が引き当てたのは五番だ。


「みんな引き終えたかな?」


確認はいいから早くメンバーを知りたい。


「では、一を引いた者は挙手したまえ!」


手をあげたのは僕の知らない人たちだった。


「次は二班、挙手したまえ!」


また誰も知らない人たちだった。


「では三班、挙手したまえ!」


手をあげた人の中には、さっき片山さんに指名された二人だった。以外とあの二人はお似合いかもしれない。


「さて、次の四班は私と同じグループだ。同じ班の者は挙手してくれまえ!」


二人の男女の手があがった。

男子の方は知らない人だが、女子の方は僕のよく知っている人だ。


「久永さん……」


僕は小さくつぶやいた。

恐れていた事態が発生してしまった。結局僕とは別のグループになってしまった……。

しかもメンバーにあの片山さん?

僕は名前も知らないその男子と変わりたかったが、あの片山さんは絶対受け入れてくれないだろう。

最悪だ……。



***



かくして、班決めは終わった。結局僕の班は二年生の男子の二人だけだ。普通一つのグループには三人のメンバーがいるのだが、僕はどうやら余り物になってしまったようだ。

ああ、僕の青春よ。こんなことで大丈夫なのか……。

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