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第12話『初めての招待』

放課後、タイヤが無惨にも破裂した自転車を押し、校門へと向かった。腕にガタガタと振動が伝わってくる。


「……」


そういえば優奈やコッキーを僕の家に連れていくのは初めてだ。まさか初めての招待がこんなことになるなんて……。そもそも白雪さんの実情を二人は理解してくれるのだろうか。そんな様々な考えを巡らしながら、僕は金属と合成ゴムの集合体を引き連れていた。

門に着くとそこには、壁にもたれて腕組みしていた女子が一人、手をポケットに突っ込んで空を見上げていた男子が一人いた。


「お待たせ……」


特にうまいことが言えないのでありきたりなことを発言した。


「カジぴー」


「裕志くん」


二人とも僕の存在に気づいたようだ。

「話は聞いたわよ。カジぴーと、この小笠原って人の関係」


「ああ……」


優奈に言われて思った。そういえば、コッキーのことはまだ誰にも話していなかったんだっけ……。


「でもびっくりしたよ。裕志くんにも女子の友達がいたなんて」


「うん、まあね……」


「裕志くん、女子に話しかけられたら毎回もじもじしてたから、意外だな」


コッキーが僕の恥ずかしい過去を急に言われ、僕は慌てた。


「ちょ……ちょっとコッキー……」


「中学の時なんて、あずみん以外の女子とも緊張してたわよ」


調子にのって優奈もコッキーに便乗してきた。


「へぇー、そうだったんだー」


コッキーはニヤニヤしながら優奈と談笑し始めた。


「ちょっと二人とも! 本来の目的忘れてない?」


僕はたまらず二人の会話をさえぎった。


「わかってるわよ、それじゃさっさと行きましょ」


「……」


こうして僕は、この賑やかな二人を我が家に連れていった。



***



「ねえ、優奈」


「ん?」


「どうしてあの時、代わりに行くだなんて言い出したの?」


僕の家にいく道中、朝から留めていた疑問を聞いてみた。ホームルーム前の時は結構突き放していた感じがあったのに、なぜか急に僕と鮎川の間に割り入ったのだ。一体どんな心変わりがあったというか?


「初めは女子同士の噂だったからわかんなかったけど、発信源がトモっちとわかった瞬間にピンときてね。あいつ昔っからテキトーなことばっか言ってたし」


なるほど、よくわかってらっしゃる。


「ていうか冷静に考えてみれば、カジぴーみたいな草食系が、そんな積極性があるとも思えないし」


草食系という言葉が少し引っ掛かるが、事実だから言われても仕方がない。


「まぁそれに、優奈も事情をちゃんと把握したいから、こうしてカジぴーん家に行くんだけどね」


「そうそう、何か事情があるにしても、それを把握できなくちゃ対処できないし」


……ありがとう二人とも。



***



しばらく歩いていると、優奈が後ろをちらちら横目で見始めるようになった。どうしたのか聞いてみようとした時、優奈は僕とコッキーに、何やら意味ありげな視線を向けた。コッキーは何かを悟ったようで、優奈と同じように後ろを気にし出した。

生憎アイコンタクトが苦手な僕は、体ごと後ろに向けて確認しようとした。…が、優奈に無理矢理制せられた。頭をガッチリ掴まれて。


「ちょ……」


と声をかけようとしたが、僕を除く二人が無言で人差し指を鼻の前にかざした。


「?」


どうしたんだ、一体?

すると二人は二人はうなずきあった後、突き当たりの道に差し掛かったところでダッシュし始めた。


「!?」


咄嗟の出来事で慌ててしまったが、道を左折して姿を消そうとする二人の後を僕は戸惑いながら追った。

しばらく進むと、小さな十字路に出た。完全に二人の姿が見えない。あたりを探してみると、僕から見て右手側の建物の横にコッキーがいるのを発見した。僕は安堵の表情を示した。が、コッキーは真剣な目付きで「はやく!」と小さい声で言いながら必死に腕を振りながら招いていた。


「……ぇえ?」


もう何が何やらわからないまま、僕はコッキーの元へと急行した。


「ねぇ……どうしたの?」


僕は恐る恐る尋ねた。


「どうしたって、裕志くん、まさか気づいてないの?」


コッキーが声をひそめて言った。


「へ?」


「鮎川だ。奴がいた……」


そんなまさか。

半信半疑のまま僕は建物の影から僕らが来た道を覗いてみた。まあ見てみたところであんなデブなんて……いた。うねうねの髪を揺らし、学ランのボタンを全開にしながら走ってるあのデブがいた。


「ハァ……ハァ……クソったれ!」


苛立っている様子だが、何をしているのだろうか?


「そういえば優奈は?」


「別の場所で待機してる」


よく見てみるとコッキーは、もう一つカバンを肩に下げていた。大量のストラップやバッジやステッカーで装飾されまくった優奈のカバンだ。


「何で一緒じゃないの?」


「後でわかる。僕らは静かにしていよう」


そう言ってコッキーは僕を連れて路地の奥に向かった。僕ら二人は息を潜めて隠れた。

そして──


「てぇーーやぁーーー!!」


と優奈の声が聞こえ、何かがクリティカルヒットした音が聞こえた。


「うごぁぁぁああああああああ!!」


と、鮎川は断末魔のごとく叫ぶ声が聞こえた。

急すぎる展開にビックリして飛び出してみると、鮎川の横に優奈がいた。鮎川はそのまま動かない……。


「もしかして…死んだ?」


鮎川を倒したであろう本人が聞いてきた。


「うーん、微動だにしないけれども……」


相手は屍同然のようにのびてしまっている。シルエットだけ見るとパンダのお昼寝に見えなくもないが……。


「大丈夫、泡ふいてるだけだよコイツ」


コッキーが言う。たしかに、まるでアニメのように口元が泡だらけだ。見ていて心地好いものではないが、どうやら絶命だけは免れたようだ。


「ホントだ、気色悪ッ!」


優奈は、後ずさりながら言った


「回し蹴り程度でオーバーすぎでしょコイツ……」


そんなことないぞ。優奈の回し蹴りって相当痛いのを僕は知っている。僕もトモも、一度良いものを喰らっているから……。


「……にしてもこいつさあ、一生懸命隠れてたつもりみたいだったけど、バレバレだったわよね」


「え?隠れてた?」


僕には優奈が何のことを言ってるのかさっぱりわからなかった。


「え……カジぴー、まさかわかんなかったの?」


「……何が?」


すると優奈は、目を見開きながら言った。


「本当に!?このデブ、優奈たちの後つけてたのよ!?」


「これでもかってくらいわかりやすかったよ、影が丸見えだったし」


優奈に続いてコッキーも続けた。


「えっ、そうだったの!?」


僕は心の底から驚いた。何で気付かなかったのか、我ながら不思議だ。


「カジぴー、あんた鈍感にも程があるわよ!」


優奈は心底驚き呆れていた。


「……何かゴメン」


僕はとりあえず謝った。


「これからはもっと周囲をよく見なさいよ?」


はい、おっしゃる通りでございます……。


「ところで、コイツどうする?」


コッキーが聞いてきた。


「ほっときましょ、すぐ起きると思うし」


そう言いながら優奈は先陣を切ろうとした。


「あ、ちょっと待って!」


僕は呼び止めた。


「この道、家と逆方向なんだよね……」



***



それから我が家への正規ルートを歩き続け、僕らは無事到着した。


「やっとついたー……」


普段は自転車で行く道を、望んでないのに徒歩で帰ったのだ。もうヘトヘトだ……。


「へぇー、ここがカジぴーの家……。わりかし普通ね」


開口一番失礼すぎるぞ優奈……。


「でも、結構綺麗な家だと僕は思うよ」


ありがとうコッキー、君は最高の友達だ。


「じゃ、早速お邪魔しちゃうかしら」


優奈はピョンと跳ねながら敷地内に侵入した。

やれやれ、と僕は密かに思った。


「おっじゃましまーす!」

「おじゃまします」

「ただいまー」


お互いにまず言うべきことを言った。

すると奥から、意外にも彰がやって来た。


「おかえりー」


「おお、彰。今日は早いんだね」


「まあねー」


前にも述べたが、彰はメカニックであり情報屋である。自分の目で見たものしか信用しない性分のせいか、付近の情報は自分で調べるようになったのだ。それために家に帰る時間は遅いのだが、この時間いるのは珍しい。


「それより、その人ら誰?」


「ああ、こっちは……」


……と紹介しようとした僕を押しのけ、優奈はしゃしゃり出た。


「工藤優奈よ、よろしく!」


優奈はニコやかにピースした。


「はじめまして、小笠原光貴です」


コッキーはスマイルしながら礼儀正しく言った。


「えっと、弟の彰です……」


確か彰は二人とも初対面だったな。優奈には、自分に弟がいることは伝えたけど。


「ところで、二人は一体何の用で?」


「ああ、実は色々あって……」


するともう一人、今回の騒ぎの発端となった少女がやって来た。


「あ、裕志さん。おかえりなさい」


白雪さんだ。


「えっと、隣のお二人はどちら様で?」


白雪さんが二人の方を見て言った。


「ああ、僕の友達です。実は、ちょっと訳あって……」


と言いながら優奈を見てみると、うつむきながら小刻みに身体を震わしていた。


「か……、か……か……」


「か」がどうしたんだ?

僕は優奈の顔を覗き込もうとしたけど、そうする前にパッと顔を上げた。


「かわいいーーーーーーーーー!!」


目を存分に輝かせ、俊敏に靴を脱ぎ捨て、白雪さんを抱き寄せた。


「ひゃっ!?ちょっと……」


「やーん、この子メッチャかわいいー!」


「あ……あの……」


「うわ、声もメッチャかわいいじゃん!」


「だから……あのですね……」


「だーめ、逃げようとしないで!」


「あぅぅ……」


忘れてた……。優奈はかわいいものにはとにかく目がないんだった。まあ優奈の感激に浸る気持ちもわからなくはないけど、これはねえ……。相手の方は突然の状況でひどく困惑しきっている。


「「「……」」」


そのまま優奈のハグは数分間続いた。僕と彰とコッキーは、成す術もなくただ茫然と見るしかなかった……。



***



「へぇ、こんなかわいい子があんたの新しいお母さんねぇ……」


優奈も落ち着いたところで、僕は二人に白雪さんのことを伝えた。ちゃんと白雪さんからも許可を得ている。父さんの再婚相手であること、今年の四月から同居することになったこと……。父さんから聞かされたことを包み隠さず全て打ち明けた。


「ふーん……」


優奈はかなり疑わしい目で僕を見ている。まあ無理もないだろう。こんなことすぐには信じられないことだ。だって、普通ならあるはずのないことなんだから。


「本当のことなの、白雪ちゃん?」


「はい……」


「事情があっての嘘、じゃないわよね?」


「はい……」


何度も白雪さんに確認を取る優奈。やはりにわかには信じてはくれないようだ……。


「嘘みたいな話けど、本当のことなんだ」


「……」


「……」


今この場には、僕の他に白雪さんと優奈とコッキーの四人がいる。ただでさえ初対面同士が多いのに、そんなに黙られると逆に落ち着かない。


「信じてもいいんじゃない?」


そんな沈黙をコッキーがやぶった。みんなの視線が一斉にコッキーに集まった。


「こんな状況で嘘なんかついたってしょうがないじゃん。それに工藤さんだって、裕志くんが本気で僕らを騙そうとなんかしてないことはわかってるでしょ?」


「そうかもだけど……」


そのまま優奈は真剣な表情で黙りこくった。こういう優奈は見たことがなかったのでちょっと珍しい。


「それもそうね。わかったわ、その話信じる」


「僕も信じるよ、裕志くん」


よかった。どうやら二人とも僕の話を信じてくれたようだ。ひとまず安心だ。


「それにしてもすごいわよねぇ……。こんなにかわいいのに、もう結婚まで済ませたなんて」


優奈が両手を頭の後ろにまわしながら言った。


「どうしてそんな早くに結婚しようなんて思っちゃったワケ?」


そう聞かれた白雪さんは、目線を下に落として申し訳なさそうな表情になった。


「それは……言えません」


「え?」


「さすがにそのことは、たとえ裕志さんや彰くんでも話せません。本当にそれだけは勘弁してください……」


そうか、やっぱりまだ教えてくれないのか……。せっかくの機会だと思ったけど、まあ仕方ないよね。

すると優奈はがっかりするどころか、目をキラキラさせながら白雪さんを見ていた。


「はぁー、何かいいわねこういうの……。ちょっとカジぴー、今日だけ白雪ちゃんをお持ち帰りしてもいい?」


「お持ち帰りって……ダメに決まってるでしょそんなの!」


「ええー、いいじゃんケチ!」


「ケチじゃない!」


「何よ!悲しそうな顔もこんなにかわいいのに、贅沢じゃない!?」


贅沢も何もない。それに、もし優奈に白雪さんを預けたりしたら、一ヶ月は帰さないことが予想できる。


「まあまあ、工藤さんの気持ちもわからなくはないけど、それ以上に気になるのは……」


コッキーが急に話しだしたと思いきや、僕と白雪さんを見比べ始めた。

そして──


「二人がくっついちゃわないかってことかな」


ニヤリと笑いながらコッキーはとんでもないことを口にした。


「な、何言ってるのコッキー!?」


「昼ドラでは大抵、主人公とその継母とは何らかの関係を持ってしまうからねぇ……」


コッキーの顔は、昔見たことのあるいたづらっぽい笑顔になっていた。


「あー確かにありえそう!」


優奈も口出しする。


「そんなことあるわけないでしょ!」


「ホントにー?優奈もちょっとその点あやしいと思う」


そんなのたかだか空想に過ぎないじゃないか。何を言い出すんだこの二人は?


「第一、僕には久永さんがいるし……」


「久永さん?」


白雪さんが首をかしげながら呟いた。


「!!」


……しまった。


「あ、もしかして白雪ちゃん聞いてない?カジぴーが今熱烈に恋してる女の子のこと」


「いいえ、初耳ですけど……」


やってしまった……。ついうっかり口がすべった。なんでまだ高校生活のほんの初めにいろんなことがカミングアウトされてしまうんだ……。


「じゃあ、今はべらべら喋っちゃうワケにはいかないわね」


「え、何ですか?教えてくださいよ」


白雪さんはなぜか僕の恋路に興味津々だ。血が繋がってないとはいえ、息子のそういう話題には自然と反応してしまうものなんだろうか?





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