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ドS、ナンパする

夕陽が街並みをオレンジ色に染め上げる頃、令達は酒場へと向かった。部下は一人も連れては居らず、令と陸、そしてバルトの三人のみである。彼らはロブロの手下と遭遇したその日に行動を開始していた。


「何も今日動かずとも良いんじゃないですかい?」


「馬鹿め。日を置けば必ず嫌がらせや妨害を仕掛けてくるぞ。やっと出来た事務所を荒らされても良いのか?」


「そうですね…そりゃあ確かに気に食わねぇや。」


事務所の掃除や家具の設置は、バルトを含めた一味全員で行った。その努力の結晶を他人に荒らされては良い気はしない。


「私は降りかかる火の粉を払うのも嫌いではないが、別に向こうの動きを待ってやる義理も無い。今回は我々が火の粉になってやろうではないか。」


「旦那の場合、特大の火柱って感じですがね。」


酒場に着いた令達が待っていると、標的は護衛を連れやってきた。


「居ましたぜ。あの女がロブロの娘です。」


バルトが指す場所には煙管を口にくわえ、気だるげに椅子に腰掛ける女が居た。歳は二十代中頃だろうか。ドレスから長く伸びた美脚を組み、紫煙を「ほぅ…」と吐いている。


周囲にはロブロの手下と思われる男達が陣取っており、彼女に害が及ばぬよう睨みを利かせていた。


「うわぁ…令ちゃん好みの女の子だねー。」


テーブルに置かれたつまみを口に放り込みながら、ロブロの娘を眺める陸。この手の女は相棒の担当だ。自分の管轄からはややズレているように思う。


「そうなんですかい?」


もしやこれを機にあの女をモノにするつもりなのだろうか?今後彼女を姐さんとでも呼ぶ事になるのかも知れない。


「うむ、見るからにハネッ返りな娘だ。ああいう気の強い女を奈落に叩き落とすのはさぞかし楽しかろう。」


「そういう意味かよ…」


我が上司に一般的な感性を求めた自分が馬鹿だったと反省するバルト。こういう奴なのだ。いい加減慣れねば。


「では行ってくる。」


「頑張ってねー。」


「気ぃ付けて下さいよ。」


陸とバルトに見送られた令が娘の元へと向かう。しかし案の定、彼女を護衛している部下達に行く手を阻まれてしまった。


「退いて貰おうか。」


「てめぇみてぇな優男がお嬢さんに何の用だ。」


リーダー格らしき男が令の前に立ち塞がり、凶悪な人相で威嚇する。


「美しい女性と酒を酌み交わしたいと思うのは男なら当然ではないのか?」


「酒なら店の隅っこで飲んでいろよ兄ちゃん。でないと痛い目に合う事になるぜ。」


令と男のやり取りを見ていた周囲の客達が首を竦める。彼らは思った。ああ、また今夜も何も知らない奴が火傷するのだろうと。


「ほう…つまり私がそこのお嬢さんとお近付きなるには、先ずお前達を排除せねばならんのだな?」


「ふふっ、まあそういう事だ。分かったらさっさと戻んな。今なら五体満足で帰して…っぐぇ…」


男の台詞は中断された。鳩尾にめり込む令の拳によって。ほぼ同時に股間にも蹴りを受け泡を吹いて床に沈む。


「なっ!?兄貴ィ!てめぇ!」


リーダー格が倒された事で殺気立つロブロの部下達。


「ご婦人がお待ちだ。サッサと掛かって来い。」


「やったらァー!!」


令は挑発に乗った部下達を次々に仕留めていく。数は五名。その全てが令に触れる事なく、床に濃厚な口付けを交わした。


「ふぅ…さて…」


令は軽く膝を払い娘へと歩み寄る。


「ご一緒しても宜しいかなお嬢さん?」


「ふぅん…やるじゃないの。良いわよ。丁度退屈してたとこだし、相手してあげるわ。」






「旦那も中々どうして強ぇじゃねぇですか!」


バルトがロブロの部下を瞬殺した令を褒め称える。てっきり能力を使い対処するものと思っていたバルトは意表を突かれたのだった。


「演出演出。」


陸は否定するようにパタパタと左右に手を振り、バルトの感心に水を差す。


「令ちゃん、あいつらを見回してたろー?あの時に催眠掛けてたんだよー。多分、自分に触れないようにってねー。」


「え?そうなんですか?」


実際のところ令の武力は普通の人間より少し上程度である。雑魚なら1対1では負けはしないだろうが、今のように複数を相手では良くて辛勝。下手したら負ける。


「でもカッコ良く見えたろ?お陰でお嬢さんも令ちゃんに興味持ったみたいだよー。」


二人が視線を向けた先では、ロブロの娘が令と会話を弾ませていた。





「最初に謝らせて欲しい。君との同伴の為とはいえ、無粋な真似をして済まなかった。」


「構わないわ。あいつら鬱陶しかったから。許してあげる。」


「ありがとう。」


ニッコリと微笑む令。彼の笑顔を直視した娘は胸が高鳴るのを感じた。


「私は令という。お嬢さんの名を伺っても?」


「あ、あたしはミレアさ。」


「ミレア…か。綺麗な名だな。」


「そうかい?ありふれた名だよ。」


ミレアは表情を誤魔化す様に煙管をくわえる。どうにも調子が狂う。隣に座られてからというもの、この優男の一挙一動に酷く心を掻き乱されるのだ。


「しかし護衛まで連れているとは物々しいな。君は何処か名家のご息女かい?」


内心ほくそ笑むミレア。自分がロブロの一人娘だと知れば相手はどんな顔をするか。見モノである。


「フフッ、あたしはロブロの娘さ。聞いたこと無いかい?この界隈で有名なロブロ一家を。」


「ほう…」


令の怖じ気づく様を想像していたミレアだったが、期待は大きく外れてしまう。彼女の正体を知らされた令は何ら表情を変えず、手にしたグラスを口に寄せていたのだ。


「ロブロ氏に娘が居るとは聞いていたが、まさか君のような美しい女性だったとはな。」


「お、お世辞が上手いじゃないか。」


まただ。令から誉め言葉を聞く度に、ミレアの胸が早鐘を打つ。


「私はお世辞など言わない男だ。君の美しさを否定するような男が居たら、決闘を申し込んでやろう。」


「キザな…台詞だね。」


「私にそう言わせる程、君が魅力的という事だ。」


「ぶほぉ!ゲホッ…ゲッホッ!」


少し離れた場所で誰かが咳き込んでいる音が聞こえてきた。きっと上司の歯の浮くような台詞を聞いて咽せた、強面の男に違いない。


それはともかく、酒場の中央では二人の男女が甘い雰囲気を漂わせていた。


「魅力的ね…悪い気はしないわ。」


ミレアは何とか自分のペースを取り戻そうとしていた。緩みかける頬を引き締めて主導権を握る隙を窺う。


「この店の客も恐らくは君が目当てなのだろうな。美しい女性を眺めながら酒を飲もうと集まっている。そう考えれば私は果報者だ。こんなに傍で君の魅力に酔えるのだから。」


「そ、そりゃ言い過ぎだよ。」


「言い過ぎなものか。私など今すぐ君をここから連れ去りたい衝動を、必死に抑えているのだ。」


力説する令がやや前のめりになる。身を乗り出しながら、彼はさり気なくミレアの手に触れた。


「っ…!?」


令に触れられた瞬間、ミレアは体温が急上昇するのを感じた。頬が赤く染まり鼓動が速まる。かなり強い酒を飲んでもこうは成らないだろう。特に下腹にジワッと広がる熱は御し難い。


「ミレア、連れ出しても良いだろうか?」


「さ、さぁ…どうしようかね…」


令が添えていた手を握り締める。


「んっ…」


彼が力を込めるに従い、内包した熱がグツグツと煮え高まっていく。ミレアは堪らず脚を組み替えた。でないと垂れてしまいそうだから。


「ちゃんと…楽しませてくれるんだろうね?」


「約束しよう。」


二人は席を立ち酒場を後にする。途中、目配せにする令に陸とバルトが頷いたのだった。





PC故障中に携帯で執筆していた分を投稿しました。

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