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プロローグ01

過激表現やらイジメ的内容を含みますので、苦手な人はお戻り下さい。

舞台照明がステージを照らし出す。眩い光の中心には男性が一人。黒のYシャツに細めの履き古したジーンズという、華々しいステージに似付かわしくない至って凡庸な格好だ。


彼は椅子にふんぞり返りながら脚を組むと、不遜な態度で観客に語り掛けた。


「異世界というモノを知っているか?そう…自身が生まれ落ち、存在した場所とは位置も時間も理も違う。もしかしたら星や次元さえも異なる場所…それが異世界だ。」


男性の滑舌は明瞭で、劇場全体に届く抜けの良い声色をしている。


「とはいえ…一口に異世界と言っても思い描く世界は人によって千差万別。人間の代わりにロボットや機械が働く近未来。戦争で全ての生物が滅んだ世紀末。はたまた魑魅魍魎の跋扈する冥府魔導の世界。」


幾つか例を上げながら舞台を端から端へと歩き始める。彼は再びステージ中央へ辿り着くと観客席に向き直る。同時に辺りの照明が消え、スポットライトのみが男性を照らした。


「これはそんな異世界の一つへと、偶然流れ着いた男の物語。皆さんのくだらない人生を浪費してご鑑賞あれ。」


ライトの焦点が絞られ、徐々に男の姿は闇に溶け込んでいった。


「なぁに、時間は取らせない。恋人への甘言を一つ減らすか、自慰にて愚物を扱く手を休めれば事足りる。」


男が辛辣な台詞を残し舞台は暗転するのだった。





「ほう、蟹座は思い掛けない事態に遭遇…か。面白い。」


早朝、威澄(いすみ) (れい)は朝刊の占いコーナーを読み上げながらコーヒーを啜っていた。テーブルにはトーストとベーコンエッグ。デザートとしてフルーツの盛り合わせという理想的な朝食が置かれている。

部屋の窓からは柔らかな日の光が差し込み、庭の木々では小鳥がさえずっている。実に爽やかな朝だ。


彼の座っているのが女の背中で無ければ…。


「おい、貴様は何座だ?」


「も、もう許して…」


許しを乞うのは三十代前半と思しき裸の女性。彼女は令を背中に乗せたまま、泣きながら椅子役の辞退を懇願していた。


「私は何座だと訊いているんだがな。言葉も解さんとは、牝豚が本当の豚に成り下がったか。」


女性の後頭部を踏みつけ、踵をグリグリと捻り込む。


「ごめんなさい…もうしませんから…」


床に額を擦り付けた女は、消え入りそうなか細い声で謝り続ける。打ちひしがれたその様子は同情を誘い、誰もが救いの手を差し延べたくなるだろう。だが庇護欲を掻き立てる女の態度など、令には全く効果は無い。


「貴様の『もうしない』とは何に対して言っている?屈強な部下を差し向け私を拉致した事か?それとも研究成果を奪おうとした事か?」


「ぜ、全部…です。」


令の椅子になっているこの女性は代議士であった。今は見る影もないが、普段は凛々しく高級スーツを着こなし、美人政治家としてメディアの注目を集める才女だ。


表向きは…。


令が調べたところによると、裏ではなかなかに黒い人物である事が判明していた。


所属する派閥では収支報告書に記載されていない政治献金を取り扱い、暴力団とも繋がっている。更にある大臣とは愛人関係を築いていて、全面的なバックアップを得ていた。一般人が抱くクリーンなイメージからは、思いっきりかけ離れている。


何故そんな人物が今は令の椅子代わりとなっているのか。あまつさえ豚と罵られているのか。原因は昨晩にまで遡る。


大学の教授である令がいつものように研究を行っていたところ、女の遣わせた男達がズカズカと乱入してきたのだ。恐らく女と繋がっている暴力団の構成員だろう。彼らは研究室へと押し入り令を研究データごと拉致した。


そこまで強引な手を使って女が欲しがった令の研究内容とは『可視光線による催眠及び洗脳術』という非常に胡散臭いテーマだった。


しかしこの眉唾ものの研究が実現すれば日本の、ひいては世界のトップに立つことも不可能ではない。人類全てを洗脳により管理下に置けるのだから。


目論見通り女は令自身と研究データを手中に収める事に成功した。後は令に研究を自分の監視下で行わせれば良い。そう思っていた。だが誤算があった。令自身が既にその洗脳術を身に付けていた事だ。


監禁されていた令は見張りを洗脳すると、拘束を解かせ屋敷内の人間を次々に洗脳していった。


やがて屋敷の人間全てを掌握した令は、自分を不当な目に合わせた女に報復を開始した。女は書斎に居たところを呆気なく拘束される。当然だろう。屋敷に居る部下の殆どが敵に回ったのだから。


女への報復は苛烈を極めた。元々令は自分に危害を加える相手に容赦ない性質だ。


先ずは散々犯し飽きれば彼女の部下にも犯させた。それも飽きると今度は精神的に責め抜いた。


人生で恥ずかしかった事ベスト3を大声で告白させたり、性癖を部下の前で暴露させたりとやりたい放題だ。しかも報復中の女の醜態は全て録画されメモリに保存されている。夜が明ける頃には女の尊厳は完全に踏みにじられ心は折れていた。


「では、私が貴様から受けた被害に対して賠償を請求させて貰おうか。」


「払います。幾らでも払いますから…」


女は弱々しい声で答える。早く帰って貰いたい。ただそれだけを願っていた。


「だが、これが少々難しい。貴様の部下が私の部屋に踏み込んだ際に、大事に育てていたパキラの鉢植えを割ったのだ。」


「パキラ?」


「観葉植物だ。近所の100円ショップで買ったのだが、今週やっと新芽が出たのだ。それが貴様の部下のせいで台無しになってしまった。幾ら元値が100円とはいえ、丹誠込めて育てた私の愛情は、金には替えられん価値があるだろう?」


同意を求めて顔を覗き込む令。女には彼の意図が分からす黙り込む。


「研究室のデスクも同じだ。貴様らの事だ。データを探して荒らし回ったのではないか?」


「それは…」


女には心当たりがある。確かに研究室をひっくり返してでも探すよう部下に命じていた。


「帰ったらそれらの片付けだ。やれやれ気が重いな。整理整頓は苦手だというのに。」


「申し訳有りません…」


「謝罪するなら最初からやるな。全く…パキラの腹いせに突っ込んでやった穴も大した具合ではないし。喘ぎ声は畜生以下。下品以外の何物でもない。聞くだけで不愉快極まりなかったぞ。いや、年増の豚が股座ほじられてはあんなものか。」


「……」


女は腸が煮えくり返る思いで唇を噛む。散々犯されながら酷評されたのだ。しかもまるで自分の身体は100円ショップの観葉植物以下だと言わんばかりの口振りだ。普段の彼女ならヒステリックに叫びながら部下に制裁を命じるはずだ。しかし屋敷は制圧され部下達も令の意のまま。打つ手は無い。


「そういう訳でただ金を払えば済む話ではないのでな。貴様には相応の償い方をして貰おう。」


「償い?」


「ふむ、そうだな。今日の国会答弁で全裸になりながら『お金大好きー!権力最高!』と叫べ。」


「なっ!?」


「ククッ、それなら私の溜飲も多少は下がるだろう。」


令は女の上から立ち上がり「ではな」と軽い調子で別れを告げる。


「ま、待って!お願い!それだけは許してー!」


女は顔色を真っ青にしながら令を呼び止める。彼の洗脳は絶対だ。その威力は昨晩嫌という程思い知らされた。きっと自分は命令を実行してしまうだろう。


そうなれば自分の政治生命は終わりだ。いや、社会的にも終わりと言える。


「お願い!お願いします!何でもするからそれだけは止めて!」


「何でも?」


「何でもするわ!だから…お願いしますぅ…」


顔を涙と鼻水でグシャグシャにしながら必死に頼み込む女。今や彼女の頭の中は後悔の念でいっぱいだった。何故こんな男と関わってしまったのかと。


「フッ、仕方の無い奴だ。自分の愚行も償えないとはな。だが私は慈悲深い。それ程嫌ならば別の形で償わせてやろう。」


「あ、ありがとう御座います…」


女にとって令の心変わりは地獄に垂らされた蜘蛛の糸も同然だった。唯一の希望であり光明。助かるのならば財産でも肉体でも支払うつもりでいた。


けれど、蜘蛛の糸は切れるものだ。


「私への蛮行の代償として、国会答弁中に大臣とセックスしろ。良かったな。少子化対策にも貢献できるぞ。もっとも既に出来てるかもしれんがな。」


「なっ…ぁ…!」


完全に希望を絶たれた女はパクパクと口を開閉し、ドアへと向かう令を見送った。


「この…サディストー!!」


部屋を出る直前、女の罵倒を背中で受けた令は頬を釣り上げる。


「最高の誉め言葉だ。」





何か書きたくなったんです。一応プロトタイプというか、お試し投稿です。評判が良かったら続けてみたいと思っています。

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