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第14話 帰還

流血描写…というか、まぁ怪我についての描写があります。

お嫌いな方はご注意ください。


















「マミ!」


龍が飛んでいく後姿を呆然と見ていた間、焦土と化した森の中には暫しの静寂が訪れていた。

その中、静寂を破ったのはミルの声だった。

声に反応して視点をほぼ真っ暗になった西の空からミルに落とすとミルが抱えているロイの負傷している状態を見て太刀を腰の鞘に納刀し(いつの間にか鞘の形まで変わっていた)、長くて腰に下げる事が出来ないので背中に背負うように肩に括り直すと傍に駆け寄る。


「ロイ!」


「っ…大丈夫だよ…大丈夫」


辛そうな顔をしながらの台詞ではある物の、何とか大丈夫そうではあった。

自分の分の回復薬をポーチから取り出しながら、しゃがみ込んで負傷した肩の傷の様子を見る。

傷は浅い物の巨大な龍の攻撃によって付けられた傷である。

決して、軽い物ではない。

その傷口はまるで皮膚を引き裂いたかの様に歪な形に広がり、一旦回復薬を掛けたにしても血液が未だに流れ続けている。


「ちょっと我慢してね」


そう言うと、私はロイの肩の傷に液体状の回復薬をゆっくりと掛けていった。

やはり沁みるのだろう、最初に掛けた時には息を詰めて我慢していた。

回復薬を使い切ると、ポーチから次は清潔なタオルを取り出し、肩を覆うように巻きつけて結んでおく。


「とりあえずここではこれ以上は出来ないわ…」


「十分だよ…マミ、ありがとう」


ロイは薄く笑みを浮かべると礼を言った。

その時、後ろから弟の負傷を一番に気にしていたミルの安堵の溜息が聞こえてくる。

振り返ると、ミルが嬉しそうな顔をして地面に座り込んでいる。


「マミ…ありがとう…私達を助けてくれて…」


「まだやる事は残っているけどね」


「え?」


私の言葉の真意を掴めないのかミルが不思議そうな顔をしている。

ゆっくりと近づくと、目の前にしゃがみ込み顔を近づける。


「ミルの怪我…足、痛めてるんでしょ?」


「あ…大丈夫、大丈夫!私は。ほら、何と…っ!」


「ミル!」


無事な事をアピールする為に慌てて立ち上がったミルはやはり足を痛めており、膝がガクッと折れて倒れそうになるのを慌てて支える。


「無理しちゃダメだよ!」


「無理なんて…」


「姉さん?」


それでも渋るミルを更に問い詰めようとした時にロイから声が掛かる。

二人でそちらの方を見ると、状態を起こして肩を抑えながら座り込んだロイが微笑んでいた。

その瞬間、背筋が凍り付きそうな程の悪寒が走った。


(ロイ…黒いよ!微笑が真っ黒だよ!)


「ろ、ロイ…これは…」


「龍のブレスを避けようとした時、立ち上がれなかったのにそんな足で大丈夫な訳ないでしょ?」


「…」


何時もはミルが上に立っているのに、今は完全に立場が逆転している。


「マミ…左足の怪我…見てくれるかな」


「え?はっ…ハイ」


私が近づいてもミルはさっきみたいに強がったりしなかった。

むしろ、瞳に怯えの色を湛えて恐怖からか体が小刻みに震えている。

無言でミルのジーンズをずり上げると、左足の靴を脱がせ靴下を下ろす。

足首は赤黒くなっており、更には腫れ上がっていた。


「ミル…これ、多分折れてるよ…」


「え、嘘…」


「姉さん」


「ご、ゴメンなさい…」


咎める様に呼ばれたミルは、顔を俯けて謝った。


「でもどうしよっか…?」


「え?」


「帰り、もう暗くなって来たから…二人の怪我もあるし、食料も野営の用意もして来てないし…」


「そうだね、僕は肩と背中しか怪我してないから歩く事は出来るけど…姉さん運べないなぁ…」



三人とも俯いて暗い雰囲気が一行を包む。

それを振り払うように、立ち上がって私は少し声を張って言った。


「私がミルに肩を貸すよ!一先ず森の外に出よう?」


「その方がいいかもしれないね。森は燃えているし、ここら一帯は危ないかもしれない」


ミルに肩を貸そうとした時、ミルは私に向かって言った。


「マミ、龍の爪や鱗…あとあの角なんかも持って帰った方がいいかもしれない」


「いくら低ランクの私達でも、アレだけ強力な龍が王都近郊に出た事は一応ギルドに報告しておく必要があると思うの…その証拠として、龍の体の一部があるのはかなり説明の手間が省けると思う」


「確かにそうだね。それに、もしかしたら龍の体の一部なんてレアな物なら高ランクのクエスト扱いになっているかもしれないよ?」


「うん…」


二人に言われたので、切り落とした爪や角…あと、飛び散った龍の鱗を数枚回収し、回復薬の入っていた瓶を飲み水で簡単に注ぎ角を切り落とした時に出た血液を採取した。


全部をポーチ(今更だけど、ポーチは魔道具の一種で中には沢山物が入る)に仕舞い二人の元に戻った。

私はミルに肩を貸し、先を歩くロイも調節して歩いてくれているので、ゆっくりと燃え盛る森を来た道の方に歩いて戻って行った。






















元来た道をそのまま引き返してきたので、ブラウンウルフの群れと戦った所なんかも通ったんだろうけど…龍のブレスで森の端まで直線状に道が出来ていた。

その為、迷う事無く森を一直線に通り抜ける事が出来たし、燃え盛る木々の間を抜ける事もなかったので余計な火傷を負う事もなかった。

森を抜けた所に大型の馬車が止まっていた。

繋がれた馬は大きく健康そうでかなりお金持ちの持つ物である事が想像できる。

その馬車の前には、一人の男性が立っていた。

その男性は、私達に気が付くと足早に駆け寄ってきた。


「おい、一体何があった!?」


「龍に襲われたんだ!」


ロイが答えると、男性の顔に驚愕の色が浮んだ。


「さっき飛び去って行った龍の事か…」


「この娘が足を怪我しちゃって…運ぶの手伝って貰えませんか?」


私が言うと、男性はミルの足の状態を見て背中に負った。


「とりあえず、俺の馬車の近くに行こう。そこで詳しい話を聞かせてくれ」


男性はそう言うと、先に馬車の方に歩いて行ってしまったので後を追いかけて付いて行った。



























馬車の傍に到着する頃にはミルは背中から降ろされて地面に座って怪我の手当てをして貰っていた。

こう言う事に離れているのか、随分手際良く足を固定すると包帯をグルグルと巻いている。


「ありがとうございます」


「何、気にするな。怪我も多分折れてはいるだろうが、そんなに大事ではない。一月もすれば直るだろう」


「ありがとう、ところでおじさんは?」


「おじさんって歳でもないんだがな…まぁ、いいか。俺の名前はマック・ベリル、旅の商人ってとこかな?ハンターズギルドにも登録しているソロのAAランクハンターだ」


「AAランク!?」


頬をポリポリとかきながら照れたように笑う男性…マック。

とても凄腕のハンターには見えない優しそうな雰囲気の男の人だ。


「ギルドマスター級のハンターが何で旅の商人なんかしてるのよ?」


「なんかって…まぁ、あえて言うなら世界中が見たかったのかもしれないな」


「Aランク以上のハンターって称号持ってるんですよね?」


確か最初にミル達にギルドの話を聞いた時にそんな事を言っていたのを思い出して聞いてみることにした。


「あぁ、俺の称号は“遊撃”、遊撃のベリルだ」


「へぇ、称号持ちのハンターには王都のギルドマスター以外では初めてだなぁ」


「君達は見た所駆け出しのハンターってとこか?」


「私は真美桜花院です。真美って呼んで下さい。ランクは今日が初めてのクエストなのでFです」


最初に自己紹介をした私はそういえば今日が初めてのクエストだと言う事を完全に失念していた。

今日の様な濃密な一日を過ごしたのは今までの人生の中で初めての経験かもしれない。


「僕はロイ・マッカールム、Dランクだよ」


「私はミル・マッカールム、そこのロイの姉で同じくDランクのハンターよ」


「へぇ、二人ともDランクなのか中々早いんじゃないか?」


「まぁ、早い方だとは言われているわね。学院に入った次の日に登録して、一ヵ月半位かしら?」


「そうだね、大体その位経つんじゃないかな?」


「学院と言えばベリュンヘル王立学院か?」


「そうだよ~」


顎に手を当てて何かを考えているベリルさんは私達をグルリと見回して、納得した様に頷いた。


「学院生ならその速さも納得だな。あそこの学院はかなり優秀な生徒を保有しているらしいしな…で、何があったのか話して貰えるかな?」


「はい…実は今日、マミの初めてのクエストに付き添ってDランクのブラウンウルフの群れの狩猟に来たんです」


「ふむ…Dランクが二人いるにしても、Fランクの駆け出しハンターには厳しいクエストではないか?」


「マミは学院始まって以来の天才なのよ。私達よりも強いわ。それに、ギルドに登録していなかったのもつい最近編入して来たばかりだからよ」


「ほう…それは…」


随分担いだ表現をする二人に少し照れたようになる。

また何かを考えるように黙ってしまったベリルさんに、私は続きを話す。


「ブラウンウルフの群れはすぐに倒す事ができたんです。証明用の部位を回収して、一息吐いていた時に突然物凄く大きな咆哮が聞こえて頭の上を何かが通って行ったんです」


「その直後に、森の奥で物凄い火柱が上がったんだ。森が焼けているのに気が付いて…三人で奥に向かったんだ」


「森の奥に着くと、一面焼け野原になっていてそこに黒くて大きな龍がいたのよ」


「信じられん…辺境の地に住むといわれる黒龍が王都近郊のこんな辺鄙な森を襲うなんて…」


「それで、逃げる前に見つかってしまって後ろから襲われたらひとたまりもないから戦ったんだ」


「Dランク以下の三人で龍を相手にするなんて…ははっ、何の冗談だ?」


「くっ…まぁ、確かに手も足も出なかったわよ。剣は鱗に傷を付ける事も出来なかったし。魔法はよろめかせる程度で…唯一の頼みの綱であるマミの魔法でも鱗に罅を入れることしか出来なかったんだから」


悔しそうに言うミルにあの時の戦闘を思い出す。

圧倒的な力の差に目の前が真っ暗になったような気さえした。


「Dランクのハンターで戦って生き残れただけでも奇跡に等しい。龍とはそれだけ異常な力を秘めた存在なんだぞ」


「僕達も、マミがいなかったら今時死んでいたかもしれないんだ」


「キミが?」


ロイの言葉に反応してこちらに反応したベリルさんが私の方を注目する。

私は、背中に背負う太刀を見やって言った。


「この剣、元はロイの剣と同じ位の大きさだったんです。戦いの中で、二人を守らなきゃって思って…龍のブレスを受け止めた時に声が聞こえたんです」


「声?」


「はい、女の人の声で…守る力が欲しいかって。その声の人は自分はこの剣に宿る精霊だって言ってました」


「つまりその剣は、精霊刀か…」


「精霊刀?」


聞き慣れない言葉に聞き返す私。

それにベリルさんは簡単に説明してくれる。


「精霊刀とは、剣自体に精霊を宿す特別な製法を用いて作られた剣だ。昔は多くの職人が作ろうとして志半ばにして挫折して行った。そして何時しかその剣は伝説上の存在であると思われ始め、作ろうとする者さえいなくなってしまった。現在、大陸中探しても恐らく片手に足りるほどしかないだろう」


「その後形の変わった剣になってからはマミ強かったね」


「えぇ、アレだけ傷の付かなかった龍の角を真っ二つにしちゃうんだから」


「角…」


「あ、見ます?」


そう言って、私は腰のポーチから龍の角を取り出す。

取り出したままベリルさんに差し出すと、受け取ってしげしげと色んな角度から見る。

そのままの勢いで、私は爪や鱗、血液の入った瓶を出すとそれらも順番にベリルさんは手に取って見て行く。


「…君達、俺は王都に向かう途中だったんだ。ついでに送って行こう」


「本当ですか!?」


ありがたい申し出に私達はすぐに受け入れ、そのまま馬車に乗り込むと未だに燃え盛る森を離れて王都に向かった。






















「ありがとうございました」


お礼を行って学院の門の前で降ろして貰った。

振り返ると馬車を操っていたベリルさんは私達の方を見て声を掛けた。


「気を付けて帰れよ…と言っても、学院は目の前か?」


「はい、大丈夫です!」


「明日の朝、ここに迎えに来る。三人とも、特にそこのお嬢さんなんかは怪我で大変だと思うが来て欲しい」


「どこに行くんですか?」


ロイが尋ねると、当然と言わんばかりに、私達に言う。


「君達に起こった事をギルドに報告しに行く。恐らくいくら登録したハンターだからと言って子供の言う事は信じてくれないだろう。そこで、俺が付いていくって訳だ。あと、龍の角なんかも持って来てくれ。証拠があった方が話も通じ易いだろう」


「分かりました」


「おっと、今日の事は余り回りに言い触らさない方がいいぞ。普通に考えて学院の一年生が龍を撃退したなんて話誰も信じてくれないし、嘘吐き呼ばわりされる可能性も十分にある」


「気を付けま~す」


ロイの言葉を聞いて、ベリルさんは頷くと前を向いて馬に鞭を入れると学院の前から離れて行った。


「ところでさ…」


「何よ、ロイ?」


「いや…この時間になった理由どうやって説明する?」


「あ…」


色々あった一日だけど…憂鬱なのはまだ終わらないようです。

学院の門を潜る頃には辺りは闇に包まれ、街灯に照らされた学院の道が浮かび上がっている。

三人は傷の痛みを我慢しながら、帰るべき所に向かって夜の道を歩き始めた。



















感想などありましたら、宜しくお願い致します。

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