第12話 初クエスト 前編
長らくお待たせ致しました。
最近スランプ気味で半年も空いてしまいました。
ホントすいません…
若干の暴力・流血表現があります。
苦手な方はお気を付け下さい。
「はぁ…はぁ…っ!」
「マミ!大丈夫!?」
「な…何とか…」
森の中、まるで隕石が衝突したかの様に木々が薙ぎ倒されて広場の様になっているそこで三人は敵対していた。
三人は傷付き、膝を付き、敵を睨む。
「ロイ、貴方はどうなの?」
「ちょっとヤバイかも…あんまり回復系のアイテム持って来てなかったし……」
頭から少量の血を流しながら、ロイが言うのを忌々しげに聞くミルは悔しそうに自分の短剣を握り締めた。
その時、聞いた者が竦み上がる強烈な咆哮が森に響き渡る。
その咆哮は絶対的な死の象徴。
周りの木々がその咆哮による衝撃で靡き、砂塵が竜巻の様に舞う。
翼をはためかせて空を悠然と浮遊するその圧倒的強者の姿。
咆哮が止んだ時、ソレを見上げると口の中に凶器の様な紅蓮が渦巻いていた。
他の授業にも慣れ始め友達とはいかないまでも話をする程度の知人が数人出来て学院が楽しくなり始めたある日。
まさか、こちらに来て一番の苦労をする事になるなんてまだ想像もしてなかった。
その日は、一週間に一度の完全休暇の日。
こちらは以前の世界と違って土曜日は休暇ではなく、半日学院がある。
とは言っても、私は通常科目を取らずに特別科目ばかり取っているから自主的な勉強や訓練の時間が多くある為、休みはかなり多い。
逆に、一日に三科目や四科目ある時もある。
因みに、時間はほぼ同じ様に経過するし、一年は365日らしい。
その辺りは混乱する事がなくてありがたいと思っている。
まぁ、そんなある日朝食を摂ってのんびりと部屋で寛いでいた私の部屋はノックも無しに唐突に開いた。
バタバタと駆け込んで来るのはミルだ。
ここ数日の間にこの様な事は何度もあったためそこまで驚く様な事はない。
「マミ!今日はギルドでクエスト受けるわよ!」
「え?」
「ギルドに登録したのに、まだ一緒にクエストに行ってないのに気付いて、そのままここに駆け込んだんだよ…」
後ろから申し訳なさそうに眉尻を下げ、入って来たロイが状況を説明しながら溜息を吐く。
それに比べて、ミルはやる気満々で目をキラキラさせながら何時もとは違う動き易そうなタイトなジーンズにピッタリと体の線に合うような服の上に頑丈そうなジャケットを羽織り、腰に少し長めのナイフが差している。
後ろのロイは、動き易そうな長袖・長ズボンではあるものの肩や膝・肘…他にも胸にも部分的にプロテクターのような金属プレートが付いた服に背中には私の刀は日本刀に近い形をしているけど、ソレとは違って分厚い西洋刀の様な片手剣を差していた。
「さぁ、行くわよ。早く着替えて着替えて!」
「僕は外で待ってるね」
ロイが出て行くと、ミルは私の部屋のクローゼットを勝手に開けて物色し始める。
中には、以前ミレーヌさんに買って貰った服や小物等その他諸々が詰まっている。
その中から、少しロイの服に似て肩当等の付いた戦闘用の服(実は以前実戦型戦闘学の授業の時にも着ていた)を取り出した。
少しロイの物と違うのは、女の子用だからか少し露出がある事と、タイトなミニスカートの下に厚手のレギンスを穿く事、少し色がピンクっぽい事が挙げられる。
「いい物持ってるわね。この生地かなり頑丈な物よ。高かったでしょう?」
「あ、うん…それ、貰い物なんだ」
「こんな高い物貰えるって…羨ましいわ…まぁ、早く着替えて!行くわよ!」
ミルに急かされながら素早く着替えると腰に剣を差して、外で待っていたロイと一緒にギルドに向かって歩きだした。
ギルドの扉を押し開けて中に入ると、まだそこそこ早い時間だと言うのにもう結構な人がいた。
雑談をしている人からクエストボードの前でクエストを探している人、朝からお酒を飲んでいる人など様々だ。
「さてと、先ずはどんなクエストがあるか確認しないとね」
「そうね、マミは初めてだから。あんまり厳しいのは難しいだろうけど…なんせ教師でも高位魔法でないと破壊できない鉄人形を初級魔法で粉々だもんね…」
「それに、実戦型戦闘学の近接最強の暴君バズール・ガルバックに勝ったんでしょ!本当に凄いと思うよ!」
「いや…アレは勝ったって言うか…」
「まぁ、いいじゃない。期待してるわよ?この話だけ聞くと、完全に私達を軽く凌駕しているような気もするけれど…」
「だね…」
何だか落ち込んだように肩を組み合う姉弟に、掛ける言葉が見つからなくてオロオロしていると何とか持ち直したのか二人はとりあえずクエストボードを見上げた。
釣られてクエストボードを同じ様に見上げた。
クエストボードにはたくさんの紙が張られており紙ごとに色分けもされているようだ。
「簡単に説明しておくけど、このクエストボードにはクエストに関する事が書かれているの。左側から順番にランク順にクエストが割り振ってあって右、つまりランクが上がる毎に数は少なくなってくるわ。クエストには採取・狩猟・討伐・捕獲・運搬・護衛なんて色々あって最初の三つ位は事後報告でも報酬をもらえるわ。これは、クエスト中に他の区域から進入して来た魔物なんかを止む終えず討伐した時の予防措置って扱いね。報酬は変わらないし、ポイントも入るわ。中々そんな事は無いと思うけどね?」
「クエストボードの紙は依頼の種類で色分けされてて採取は緑、討伐は赤、捕獲は青、運搬は黄色、護衛は緑、その他は原則灰色になってるんだ。噂では、天災クラスの魔物に関する依頼は普通は張り出される事はなくて、直接ハンターに指名が掛かる事が多いけど、稀に本部からハンターが派遣されてくる事もあるみたいだよ。今日は狩猟系のクエストで近くの森なんかに行くのがいいかもね」
そう言いながら探していると、私が見ているのはFランクのクエストボードだけどどうやら二人はDランクのクエストボードを見ているようだ。
やっぱりランクがDの人はFに比べると少ないのか、こちらよりもクエストボードの前が空いているようだ。
ミルが一枚の紙をクエストボードから剥がすと、嬉々としてロイと寄って来る。
私はクエストボード前の人混みから抜け出して、二人の所へ向かう。
「ねぇ、マミ。このクエストなんかどう?」
そう言ってミルが見せたのは、赤い狩猟系の依頼用紙。
そこには、おおきくDと書かれている。
恐らくは、Dランクのクエストなのだろう。
「え~っと…ブラウンウルフの群れの討伐?」
「そう、ブラウンウルフは一頭一頭はかなり弱くて、五頭の群れならEランクで一人でも受けられる簡単なクエストなんだけど…今回は、ブラウンウルフの群れおよそ三十頭の狩猟だよ」
「三十頭!?」
何でもない様に説明するロイに慌てて聞き返す。
ミルとロイはニコニコして見詰め合うと、こちらへ向き直った。
「そんなに深刻に考えなくてもいいよ。このクエストは以前僕たち二人で受けてクリアした簡単なクエストだから。マミなら簡単に出来ると思うよ?」
「…」
「まぁ、習うより慣れろって言うじゃない!行きましょ!」
ミルに引き摺られて、クエストをカウンターで受注すると雑貨屋で少量の回復薬を購入して町の外にある森に向かって歩きだした。
片道一時間ほどの道程を経て、やっと到着した森はそこそこ大きな森なのか木々が大きい。
後ろは流石に王都は見えなくなっており、歩いてきた草原が広がるばかり。
森の入り口で停止した、私達は確認のためにミルの話を聞いていた。
「いい?来る時も話した通り、相手は弱いとは言え群れで来るから囲まれない様に気を付けて戦闘する事…マミ、初めての戦闘だから無茶はしなくていいわ。何かあったらすぐに言って?」
「うん。分かった」
「よし!じゃあ、行くわよ!」
「「うん!」」
三人は森の中を一列になるように進んだ。
戦闘をロイ、後ろにミル、間に私が入って森の奥に進む。
周囲からは鳥や虫の鳴き声だろうか、不規則なそれでいて美しい鳴き声が聞こえてくる。
森の中は想像していたよりも明るく、木漏れ日で見えない所は殆どない。
でも、何時、どこから来るか分からないため常に気を張って進んだ。
暫らくは何もないまま進み、徐々に奥に入って言った頃、近くの茂みで何かが通った音がした。
「多分、ブラウンウルフよ。二人とも準備はいい?」
「うん」
「いいよ!」
刀の柄を握って構えると、ロイが剣を抜刀し、ミルもナイフを抜くと近くに転がっていた石を先ほど音がした茂みに投げ込む。
すると、茂みから茶色い狼が駆け出してきた。
それを皮切りに、左右の茂みからもブラウンウルフが飛び出し。
三人は無言で三方向に散る。
「たぁ!!」
ロイが掛け声と共にブラウンウルフを一頭、頭から真っ二つに両断し血が吹き出る。
それに構わず次々と襲い掛かるブラウンウルフを切っていく。
別の方向では、ミルがナイフでブラウンウルフの眉間を串刺しにして絶命させ。
次のブラウンウルフには、以前授業で習ったファイアボールを放ち、ブラウンウルフは焼け焦げて地面に倒れた。
私の方も、ブラウンウルフが飛び掛って来たので抜刀と同時に居合いの要領でブラウンウルフを真一文字に切り裂いた。
切り裂いたブラウンウルフの温かい血液が頬に少し掛かる。
「…っ!」
以前の実戦型戦闘学の授業とは違う。
この剣で切ると、その生き物は本当に治る事のない傷を負う。
その事が、頭を過ぎる。
そして、今自分の手でこのブラウンウルフの命を奪った。
前の世界では一生感じる事のなかったであろう罪悪感を覚えて一瞬動きが止まる。
「マミ!!」
ミルに名前を呼ばれてハッとすると、目の前には今にも飛び付こうとするブラウンウルフの姿。
考えるよりも早く、体が動いて再びブラウンウルフを刀による攻撃が一閃する。
―――慣れるなとは言っても殺すなとは言わない。躊躇する事で仲間を…そして、自分を危険に晒すと元も子もないからな
鍛冶屋のおじさんの言葉が頭を過ぎる。
そうだ、ここで躊躇すれば二人が傷付くかもしれない…それに、私も…。
ブラウンウルフを刀による攻撃で沈めていく。
「はぁ…っ!」
無我夢中で襲い来るブラウンウルフを次から次へと倒していると、いつの間にか襲い掛かるブラウンウルフはいなくなっていた。
「ふぅ…これで取り敢えずは終わりだね」
そう言いながらやって来たロイは剣を鞘に収めると、こちらに向かって歩いてくる。
ミルも最後の一頭に刺していたナイフを引き抜き、一振りして血を払うと腰に収めるとこちらにやって来た。
私も、刀に付いた血を振り払うと鞘に収めた。
「一瞬、止まった時はマミが生き物初めて殺して大丈夫かなと思ったけど…大丈夫だったみたいね?」
「うん…あの時、鍛冶屋のおじさんに教えて貰った事を思い出して。止まっちゃダメだって思ったんだ」
「凄いなぁ…僕達なんか、最初の狩猟依頼の時は結構戸惑って、丸一日引き摺っちゃったけどなぁ…」
「ふふ…そんな事もあったわね」
「まだ一月しか経ってないのにね?」
しみじみと話し合う二人の話しを聞いて、思う事も色々ある。
周りは、ブラウンウルフの死骸が至る所に転がり、むせ返る様な臭いが漂っている。
「さてと、とりあえず依頼達成の証拠品を持って帰りましょう?」
「証拠品?」
「そう、狩猟・討伐系の依頼は達成した証拠として体の一部を採取しないといけないんだ。ブラウンウルフの場合は、犬歯だね」
「そっか…そうしないと本当に狩ったかどうか分からないもんね」
「そう言う事よ。さぁ、始めましょう?」
そういう言葉と同時に、手分けして三人でブラウンウルフの解体作業に移るのだった。