第1話 選ばれし君
前回の作品に挫折した結果始まった、新しい作品です。
頭の中に構想は出来上がっているのですが、何分煩悩に左右され易い性格なので不定期更新ですがそれでも読んでやろうと言う心優しい方はお付き合い下さい。
その日は、真新しいセーラー服と高校生になったのだから楽しまないと、と思って少し背伸びして丈を短めにしたスカートを着込んだ。
入学式から授業が有る訳でもなく、手にしたカバンの中には携帯と化粧ポーチと飴やガムその他少量のお菓子類を詰めたが、量が少ないのでペチャンとしたカバンを持ってお気に入りの腕時計をした。
鏡の前でクルッと回って身だしなみも確認した。
「よしっ!」
トントンと軽い音で階段を降り、リビングに入る。
リビングでは新聞を読みながらコーヒーを啜るお父さんの姿と焼きたてのトーストとサラダを運ぶお母さんの姿が目に入る。
何時も通りの風景だ。
「おはよ」
「ん?ああ、おはよう真美。制服似合ってるぞ」
「ありがと、お父さん時間大丈夫なの?」
「今日は、真美の入学式だから昼から出勤なんだ」
コーヒーを啜りながら、そう言う父は娘の自分が言うのも何だがそこそこカッコイイと思う。
ハーフフレームのメガネが似合っている。
「貴女の方こそ急がなきゃダメでしょ?昨日出るって言ってた時間まで後に十分しかないわよ?」
「あ…急げっ!」
口の中にサラダと牛乳を流し込むとトーストを加えて家を出た。
「んっふぇふぃま~ふ(行って来まーす)!!」
「気を付けてな!」
「後で学校で会いましょう?」
「んんっ(うん)!」
朝日の昇ったほんのり肌寒い空気の中駆け出した。
まさかその事によってこの先の人生がこうも変わってしまうなんて…この時の私は想像すらしていなかった。
口の中に入った、トーストを齧りながら学校までの道を駆ける。
学校まで大した距離はないし、坂道が凄い訳でもない。
このままだと余裕で着けるなと思っていた。
信号が丁度タイミング良く青になったので、横断歩道を駆け抜けようとした時――――――――――――――――――
キキキキーーーーーーー!!!
真横から信号を無視して突っ込んで来た高そうな外車が見えた。
危ない!そう思った時には、勢いの付いた足は止まらず車の前に飛び出していた。
急ブレーキを掛ける大きなスリップ音が朝の大通りに響き渡る。
外車の運転手と目が合った、驚愕に目を見開き必死な表情をしている運転手は割と若かった。
車が当たる瞬間、目をギュッと閉じた。
轢かれる!?
「……あれ?痛くない…」
そっと目を開けると、辺りは真っ白。
見渡す限り影も何もないただただ白だけの空間。
足元も何だかフワフワしていて安定しない、なのに転ばない。
暫し呆然としていた。
『世界には繋がりと言う物がある。幾つもの世界は隣接する近くの世界と積極的に交流を深め、自分の世界の繁栄を求めてきた』
「え…?」
『世界とは、即ち全てであり、世界その物の事を人は神と呼んだ』
「…貴方は?」
『わしは君の住む世界、地球その物であり、人はわしの事を神と呼ぶ」
「神様!?」
目の前には真っ白い髭の生えたお爺さんがこれまた真っ白いギリシャ神話の神様が着ているようなローブみたいな服を着て立っていた。
いや、立っている様に見える。
どうしてだか分からないがハッキリとしない陽炎の様に霞んで見える。
『左様、そして、わし等神は一定の周期で他の世界と住人を一人交換するのだ。それに桜花院真美、そなたが選ばれたのだ』
「住人を交換する…それって違う世界に行かなきゃならないって事?嫌だよ!?」
『現にそなたはこの世界では死んだ。この交換には死すべき定めにある人間ないしそれに類する者をその者が死ぬ直前に神の力によって保護し、世界を渡す事とする一種の取引でもある』
「断るとどうなるの?」
『当然あるべきままに戻る。死して記憶を失いまた、輪廻の環に戻るのだ』
「……」
もう、あの日常には戻れない。
新しい学校に行って楽しい学校生活を送る事も出来ない。
優しかったお父さんにも、私の事を一番に理解してくれるお母さんにももう会えなくなる。
『強制はしない、しかし、向こうの世界の利になる者を交換する事から互いに意味のある取引になる。けして、苦しみだけの世界ではないだろう』
そう言われてもすぐに決断する事は出来なかった。
目を瞑り、今までの人生を振り返りながらこのまま死ぬ事なんか出来ないと思う。
例え、住む世界が変わっても…私の在り方は変わらない。
「…行きます。行かせて!」
『…よく言った。そなたは我が世界の誇りだ胸を張って向こうの世界に行くがよい!』
その瞬間、空間に満ちていた白の輝きが強くなった。
目の前で白がスパークして、段々と全身から感覚が無くなって行き意識が遠退く。
最後に耳にしたのは、地球の神様の笑い声だった様な気がする…
次回をお楽しみに!