安楽樹
僕は食いしん坊で、物語を食べ尽くす。
まだ足りない。まだ。
食べ続けてもまたすぐにお腹が減ってしまう。
現実っていう物語は、ひどくあっさりしすぎていて、頑張って温めようと思うのだけど、すぐに冷めて食べられなくなってしまう。
心にもたれて、時に胸焼けを起こすこともある。
だんだん材料も少なくなってきてしまった。
……また僕はお腹が減る。
一体いつになったらお腹は一杯になるのだろう?
街を見ていると、満腹そうな人をよく見る。大体そういう人たちは恋人同士。
彼らは何をそんなに食べているのだ?
僕は料理が下手なのだろうか。
*
ある時、僕の頭から芽が出てきた。
それは何だか分からなかったけど、その芽が成長して立派な木になり、そうしてできた実のことを考えると、よだれがジュルジュル出てきて、お腹がグーグー鳴りだした。
そうか、わかった。
僕から育って僕が味付けをしたその実なら、きっと僕を満腹にしてくれるに違いない。
それから僕は、小さな芽を大事に育てることにした。
僕は、その安らかで楽しそうな樹が枯れないように、時々その上に涙を落とす。