2 執事のシイプ
「はい、どうぞ」
「は、はい………」
おずおずと入ってきたメイドは、私をチラチラと見る。
「えっと……どうかされました?」
「いっ、いえ!ももも、申し訳ございません!底辺の私がっ……」
…?????
どういうこと………ああ、そうか。これまでのアクヤってわがまま娘だったな、そういえば。
そりゃあ、昨日までずっとキレてたのに、急にキャラ変して静かになったら………
戸惑うに決まってるな。
「…ごめんなさい。今までのこと、昨日の夜考えてみたんだけれど…」
「お、お嬢様……?」
「私、自分中心で人に迷惑かけてばっかりだったわ。これからは……二度としないと誓うから………仲良くして欲しいの」
「お、お嬢様ぁぁぁっ!!!」
ゲーム設定を思い返して自分なりに言ってみただけなのに…メイドがわんわん泣いて抱きついてきた。
いきなり謝ってきたら「何をする気だ…?」って疑いそうだけど、無いんだね。
もしかすると、心変わりしただけでメイドが泣いて喜ぶくらい(こんなふうに)
元のアクヤがガチのヤバい奴の可能性もある。
………。
…というか、抱きつき、重いし長いな。
「あっ!お嬢様、今日はお嬢様に仕えてくれる執事さんが来てくれる日ですよ!」
「そうなのね………そっ!?そうなのね!?」
執事って、あの人だよね…?
シイプ・シュバト。
シュバト子爵家は、100年程前にクレイジア侯爵家に助けられ、それからというもの、代々ウチに仕えるようになったのだ。
だ・け・ど。
………作中でシイプは、アクヤが禁断の黒魔法に手を出す大団円ルートで……
『…あーあ、お嬢。余計なことしなければ良かったのに」
と、言い放った直後、上級黒魔法を使ってアクヤの存在を消したのだ。
黒魔術師って、お前かよ。
多分このゲーム、執事と羊で『シイプ』って掛けてるんだろうけどそれすらツッコむ暇がない。
「…本日から働かせてもらいます。あ、シュバト子爵家の……」
「シイプね、知ってるわ。私のことは好きに呼んで」
「じゃ、お嬢って呼ばせていただきます」
……彼を見ていると、私は思う。
サバサバ系執事キャラって売れそうだよなぁ……と。
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シイプとの対面も済んで、自分の部屋のベッドに寝転がる。
こんな大きい部屋にふかふかのベッド。貴族って最高。
………違う!こんなにくつろいでいる場合ではない!
今の私は何歳なのかメイドに聞かねば。婚約破棄されるまであとどれぐらいあるのか………
「あっはは〜、お嬢様何言ってるんですか〜!お嬢様は14歳ですよ〜!来月には婚約者様とパーティーじゃないですか!」
14歳、来月のダンスパーティーとな。はて。
…………どう考えても婚約破棄イベントでは?
…嘘だろ。当日どうするかとか作戦を練らないと。台本を作成しておいたほうがいいだろうか。
……さて、インクとペン。なんだか、現代じゃないみたいな雰囲気出る。
まぁ、そうなんだけど。
早速台本作りに取り掛かる。こんなに文字をアナログで書くなんて久しぶり。
………なんだか懐かしい。学生時代に戻ったみたいだ。
コンコンコン。
これは、控えめではないノック音だ。
「…シイプです」
「ええ、どうぞ」
「…あ、お嬢。勉強中でしたか。すみません、邪魔しました?」
「ううん、大丈夫よ。どうしたの?」
「紅茶とお茶菓子持ってきました」
すると、慣れた手つきで紅茶を注ぎ始めた。
暖かい湯気が上に上がっていく。
淹れたての紅茶は、いい香りがふわりと立っている。
これぞ、香り高い紅茶だ。
「…熱いので気を付けて」
「ありがとう」
「……んじゃ、俺はこれで」
「…ね、一緒に話しましょ?」
「えぇー……」
ウインクをして可愛く言ってみたんだが……
明らかに嫌そうだ。
こんな美少女にウインクされて嫌がる人、いるんだ。
「…戻るの遅くなって怒られるの、俺なんですけど」
「いいじゃない、少しくらい」
彼はため息を漏らしながら、ラウンジチェアに腰掛ける。
「そういえば………シイプって何歳だったかしら」
「16です」
16歳。学園に入学できる歳か。
学園ねぇ……二年後には通わなきゃなんだけど………ヒロインに会いたくないんだよねー。
ヒロイン、聖女だし。あとヒロイン補正もあるだろうからな。
悪役令嬢なんて消し炭になっちゃうのでは?
「…どうしました?」
「あっ、なんでもない…けれど」
「そうですか。じゃあ戻らせていただきます」
よしきた、とばかりに立ち上がって戻ろうとする。
まだ話して2分くらいな気がする。
早くない?忠誠心は?
「待って」
「…まだ何かあるんですか?」
「…シイプ、これからよろしくね」
「…………………」
「えっ?」
「……あ。はい。よろしく…お願いします」
…すぐ出ていってしまった。
なんか反応遅くなかった?私の気のせい?
殺されない程度には好感度アップしてるといいな。
いや、そもそも私が黒魔術使わなければいい話だけどさ。




