既成事実
ベッドの上で首筋を吸われる桃瀬は、少し酔っていた。石和に「好きぃ」と告白して抱きつくと、ベッドまで誘導された。「理乃ちゃんは、ラム酒に弱かったのか」と、原因のカクテルグラスを横目に、石和は桃瀬のシャツを脱がせ、ブラジャーを取りはらった。
「石和さぁん……好きですぅ……」
「理乃ちゃん、ぼくも、きみのことが大好きだよ。不安にさせてごめんね」
「んっ、……んんっ」
石和の息づかいを敏感にとらえる桃瀬は、なまめかしい声をもらした。しっとりとぬれだす下半身は、石和のぬくもりを求めている。
「いさわ……さん……、はやく……きてぇ……」
いつまでも胸を愛撫されてもどかしい桃瀬は、石和の横髪に指で触れ、うっとりとした表情で、よく整った顔立ちを見つめた。
「……理乃ちゃん」
期待に応えるかたちで桃瀬を裸身にする石和だが、少しでも痛みを緩和させるため、戸棚のひきだしから潤滑ジェルを取りだすと、じぶんの指にぬった。ビクビクと膝がふるえる桃瀬は、酔った勢いでセックスをする展開へ突入したものの、今夜こそ石和といっしょに気持ちよくなりたいと思い、あたえられる刺激を従順に受けいれた。呼吸は乱れるいっぽうだが、それは石和自身も同様で、いつのまにかふたりは裸身で手足を絡めていた。
「石和さん……、大好き……」
触れあう肌はどちらも汗ばみ、性的な興奮状態がつづく肉体は限界が近い。石和はコンドームをつけると腰を進めた。腹底が圧迫される感覚に、桃瀬の呼吸は限界まで乱れてゆく。
「んっ、はぁ、はぁ……!」
「理乃ちゃん、だいじょうぶ?」
「へ、平気ですぅ……」
「そう、よかった。少し動くよ」
「はい……、どうぞぉ……」
小刻みに躰をゆらす石和は、桃瀬の体内領域で快感をとらえた。ゆさゆさと腰をゆさぶられる桃瀬は、他者のぬくもりと連動する初めての感覚に当惑した。なぜか、じわじわと涙が浮かんでしまう。恥ずかしさをがまんして、石和の存在を強く意識した。
「理乃ちゃん、また上手になったね……。躰のどこにも、よけいな力がはいっていないのは、ぼくを赦してくれた証拠かな」
「ゆるす……だなんて……、わたしは最初から……石和さんのこと……」
「それじゃ、もう少しだけがんばれるかな」
深いところへ押しこまれた瞬間、桃瀬は「ひあっ!」と、短く叫んでしまった。石和の欲望は体内でさらに質感を誇張してくる。すきまなく密着されて桃瀬は身悶えた。この状態で激しく腰を突かれては、頭がおかしくなりそうだ。
「石和さ……ん……、い、痛い……」
「ああ、まだきつそうだね」
浅いところをやさしく擦りあげ、桃瀬を適度な快感に浸らせて性交に集中する石和は、身体作用の抑圧を強いられたが、恋人を満足させるには充分なほど時間をかけ、互いに絶頂を遂げた。
「い、いまのは……?」
「これでフィニッシュだよ。ありがとう、理乃ちゃん。ぼくは、とてもうれしく思う。さあ、力を抜いて楽にしておくれ」
石和は少しずつ腰をひき、コンドームをはずして処分すると、桃瀬の下腹部を愛撫した。ヌルッとした感触が恥ずかしい桃瀬は腰をひねるが、石和の指がきわどい動きをするたび、気持ちよく感じる思考が悩ましかった。また、最後までやり遂げた事実に安堵して、急に眠くなってきた。枕で顔を隠した桃瀬は、石和と同時に絶頂へ達した自覚がないまま、睡魔に襲われてしまった。
✦つづく




