表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[TL]地味系OLだけど水曜日の夜はびしょぬれ  作者: 地底乃人M


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/50

不釣り合い


 石和(いさわ)とベッドインしても最後まで至らず、未遂で終わった桃瀬(ももせ)だが、体内へ挿入された指の感覚はいつまでも残留し、仕事中に何度も下腹部の違和感が気になった。……石和さん、がまんしてくれたんだよね。本当は、したかったはずなのに……。


 恋人の時間は母からの着信で打ち消された挙句(あげく)、あらためて父の病状を確認すると、急性の虫垂炎であることが判明した。いわゆる盲腸につき、命にかかわるような手術ではなく、ひとまず安心した。



「ねえ、桃瀬さん。これってどこで買ったの?」



 昼休み、女子更衣室のロッカーで、ひとりの同僚が話しかけてきた。ショルダーバッグに付けているペンギンのキーホルダーを指さして、桃瀬の脇を突く。ふだんならば滅多に会話が発生しない相手だが、「水族館です」と、正直にこたえた。


「えー、桃瀬さんって、そんなところに行くんだ。へえ、誰と行ってきたの?」


「誰……」


「あっ、ごめん。もしかして家族? このキーホルダーかわいいね。水族館のサイトで通販できるか、ちょっと調べてみよっと!」


 いくつになっても家族と旅行してはいけない理由などないが、鼻で笑われたような気がする桃瀬は、厚化粧でロングヘアーにストレートパーマをかけた同僚の胸もとへ視線を落とした。……Dカップくらいかな。いいな、胸があって、うらやましい。


 どんなに厭味を()われても、負い目を感じる桃瀬は、石和とつきあっている現実が、ふしぎに思えた。異性との交際経験などない桃瀬にとって、石和は初めての彼氏と呼べる存在で、あまりにもハイスペックな紳士である。完璧すぎて気後(きおく)れするほどだ。……肉体関係がすべてじゃないとしても、わたしはきっと、石和さんをがっかりさせてばかりだ。……これから、どうすればいいの?


 一線を越えられないまま、ひと月が経過した。




「……石和さん、はっきり()きますけど、いいっすか」

「どうぞ」

「おれが理乃(りの)ちゃんに手をだしたら、どうしますか?」

「ていどにもよるけれど、死人がでるだろうね」

「まじめに云ってる?」

(ある)いは」

「あ、或いは?」

「きみがいちばん大事にしているものを(こわ)す」 

「げっ、(こわ)。目が笑ってない」

「ぼくに、懺悔(ざんげ)したいことでもあるのかい」

「……ええ、まあ、いちおう謝罪しておきますよ。おれ、理乃ちゃんの首筋にあるホクロにさわりました。すみません」



 確かに、桃瀬の首筋にはホクロがあったが、髪に隠れているため、ひと目では気づかない部位である。「ほかには?」と追及された(あくつ)は、「それだけっす」と、唇を(とが)らせた。桃瀬の躰には、あちこちホクロがあった。手首や太腿の内側にもあり、そのすべてに()れている石和は、悶々として煙草(たばこ)(けむり)を吐く青年を見つめ、欲求不満なのだろうと思った。実際、歳上の沙由里(さゆり)に交際を申しこんで、あっさりフられている。


 レッドサンズの二階にあるバーカウンターで、カクテルを作って提供する副業は、ひき受けてから三年ほど経つ。多くの女性客をもてなすうち、一夜(いちや)だけでもと誘われてホテルへ行くこともあった。いざ、ベッドの上で抱きあってみると、彼女たちの豊満なボディや積極的な態度は、身体の興奮要素としては成り立つが、石和の体温や呼吸と連動しないどころか、求める期待をしらけさせた。



「ぼくはね、いまさら後へは引けないんだ。今後、理乃ちゃんが直面する事態を、ふたりでどう対処していくべきか、真剣に考えている」


「そんなのは、いまさらじゃないっすか。おれ的には、石和さんが理乃ちゃんを説得して、かけおちでもすればいいと思ってるし」


「滅多なことを云わないでくれ。ぼくは筋を通すつもりだよ」


「ふうん? (セックスもまだなのに、娘さんをくださいってか?)」



 レッドサンズの裏窓でそんなやりとりがあった翌日、石和の携帯電話に桃瀬から着信があった。



✦つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ