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処女の桃瀬は、現在、石和の部屋でベッドインの最中である。極度の緊張感と興奮のあまり、体内で生成される分泌液の量は増してゆき、石和の指づかいは巧妙だった。
「理乃ちゃん、恥ずかしがらなくていいんだよ。……どうかな、痛い?」
「い、いた……? んぁ……っ!」
恋人の反応を憶える石和は、興奮状態の桃瀬を気づかった。
「理乃ちゃん、ちょっと深呼吸してみようか。しっかり息を吸いこんで、ゆっくり吐こう。……そう、いいよ。上手だね」
濃厚なエッチの最中にもかかわらず、細かな所作には余裕があり、石和の表情はおちついている。執拗なほど敏感な部位をあおられる桃瀬は、体力も気力も消耗ぎみで、云われたとおりに呼吸するのみである。
「……平気かい?」
「は、はい、なんとか……」
顔をのぞきこまれ、どんな表情をしているのか不安になる桃瀬は、躰を横向けた。そのあいだに石和はズボンのベルトをはずし、額に浮かぶ汗を手の甲でぬぐった。性交をはじめるまえに、桃瀬の躰をうしろ抱きにして寄り添うと、腰を密着させた。熱いものが臀部に当たる桃瀬は、いよいよだと覚悟するいっぽう、躰じゅうがふるえた。……ど、どうしよう、石和さんのすごく大きいよぅ……。そんなの、はいるの……?
「理乃ちゃん、おちついて。つづけても、だいじょうぶかい?」
「……少し、こわい……です……」
「うん、そうだね。ぼくを受けいれてほしいと思うけど、最初はこわくて当然だ」
背後からきこえてくる石和の声や息づかいが、桃瀬の胸をキュウッとしめつける。ここまできて、首を横になんてふれない。身体作用のはたらきも、石和によって享受される快楽を待ち望んでいたが、桃瀬のショルダーバッグから携帯電話の着信音が鳴りひびいた。
「理乃ちゃん、起きて。電話だよ」
「……で、でも」
「ぼくのことはいいから、出てあげて。緊急の用事かもしれない」
「すみません……」
「気にしないで」
ベッドから起きあがり差しだされたバスタオルを躰に巻きつけると、携帯電話の通話に応じた。「もしもし」画面に表示されていた相手の番号は、母だった。父に病巣が見つかり摘出手術が必要だと連絡を受ける桃瀬は、こんなときにどうしてと、ことばがもつれてしまった。電源を切らずにいたのはマナー違反だったかもしれないが、性行為は中断となり、トイレで水に流してきた石和は、床に散らばった桃瀬の洋服を拾い集めた。
「理乃ちゃん、だいじょうぶ?」
「すみません。母からでした」
「なにかあったの?」
「父が、入院するみたいです」
「それはたいへんだ。ぼくがお見舞いに行けたらよかったけれど、こんなおじさんがいきなりうかがったら、迷惑だろうね」
「そんなこと……」
「無理しないで。これからのことは(将来のことだよ)、あとでゆっくり考えよう。いまは、お父さんを心配してあげて。……さあ、立って。バスルームを使っておいで。風邪をひかないように」
「……はい。ありがとうございます」
石和から服を受けとった桃瀬は、ほんじつ二度目のシャワーを浴びた。携帯電話が鳴りひびかなければ、石和と最後までしていたのか、父の病気はどこまで悪いのか、その父といくつも年齢がちがわない恋人を、はたして身内へ紹介できるのか、さまざな不安材料が脳裏に浮かびあがり悪寒がした。
✦つづく




