ベッドイン
恋人同士でも、年齢やライフスタイルにより性交回数には個人差がある。二十歳の桃瀬は、健康的な性生活を充実させるためには、頻度をきめておくべきではないかと思った。あらかじめベッドインする日程を承知していれば、体調管理もしやすくなる。
金曜日の夜、念入りにシャワーを浴びて石和の部屋を訪ねた桃瀬は、素手ではなく洋菓子を持参した。会社の同僚が休憩時においしいと話していたケーキ屋のシュークリームである。カスタードと生クリームのダブルシューは、生地にたっぷりバターを使っているため、ワインに合うと調べてから買った。石和の部屋にはシンプルな後付けバーカウンターがあり、ソフトレザーのハイスツールが二脚セットされている。
玄関のチャイムを鳴らすまえに、ドアがあいて石和が「いらっしゃい」と出迎えた。ホワイトシャツに衿付きダブルボタンのベストをスタイリッシュに着こなしている。スーツの上着を脱いだだけなのに、紳士の色気が半端ない。桃瀬のほうで、思わずクラッとめまいがした。石和とエッチな雰囲気になってもかまわない桃瀬は、やや薄着だった。夜風が少し肌寒い。
「どうぞ、はいって」
「おじゃまします。あの、これ、シュークリームです。いっしょに食べようと思って……」
「ありがとう。バーチェアに坐って。なにか作ろう」
石和の作ろうとは、料理ではなくお酒である。桃瀬は「はい」とうなずき、靴をそろえて脱ぐと、リビングへ向かった。窓辺のパイプベッドに目がとまり、ドキッと心臓が高鳴った。……今夜こそ、石和さんを信じて身をまかせよう。そうすれば、きっとだいじょうぶだから……。
「理乃ちゃん、酔ってる?」
「ふえ?」
ほろ苦い赤ワインと甘いシュークリームを堪能するうち、桃瀬の体温はぽかぽか上昇して、肌はしっとり汗ばんでいた。となりに坐る石和は、桃瀬の手からグラスを取って、カウンターにおいた。数秒ほど見つめあうと、いよいよそのときがきた。
「胸、さわってもいいかな」
「……は、はい」
石和は、シャツブラウスの釦をひとつずつ解き、ブラジャーのフックをはずして、パサッと床へ落とした。ぷるんっとゆれない小さな乳房を下から持ちあげ、長い指で包みこむ。
「……あっ、……ん、……んっ」
やさしくもまれるうち、乳首は硬くなり、ちゅうっと吸われた瞬間、「あぁっ!?」と、短く叫んでしまった。石和は笑みを浮かべ、肩と膝下に腕をまわして抱きあげると、パイプベッドまで運んだ。……うわわっ、これってお姫さまだっこじゃない!?(ちょっとこわいかも!)
天井を見つめて仰臥する桃瀬は、乳房のわずかなふくらみがのびきって平らになってしまい、恥ずかしくて目を瞑った。石和は、スカートのファスナーをおろして足からひき抜くと、パンティーも脱がせ、桃瀬を裸身にした。じぶんもベストを脱いでシャツの袖をまくると、恋人の分泌液を指にからめた。
「い、石和さん……、わたし、なんかいっぱいでちゃう……」
「うん、出していいよ。それはね、ぼくの男性器を受けいれやすい環境を、理乃ちゃんが整えている身体作用なんだ。だから、たくさんぬれていいんだよ」
うるおいが乾かないうちに中指を挿入すると、すんなり半分のみこんだ。
「ほら、いい感じだ。理乃ちゃん、わかる? このあたり気持ちよくないかな」
桃瀬の性感帯をさぐる石和は人差し指を増やすと、ゆっくり動かした。
「……はぅっ!!」
きわどい部位を刺激される桃瀬は、「いや、そんなとこ、汚いよ……」と表情をゆがめた。
「どこも汚くないよ。ぼくはいま、理乃ちゃんを味わっているんだ。きみの躰は、とてもきれいだよ」
石和の頭が股のあいだにとどまる桃瀬は、いっそのこと、前戯は抜きにしてほしいと思った。長い指が躰の深いところまではいってくると、目のまえがチカチカして意識が飛びそうになった。
✦つづく