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通過試練

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 桃瀬ももせの体内へ中指を挿入した石和(いさわ)の手応えは、「きつくてせまい」だった。これまでのやりとりで処女(バージン)であることは予想はしていたが、内部のしめつけは強く、石和の指を異物として拒むため、桃瀬のほうで徐々になれて(、、、)もらうしかない。


理乃(りの)ちゃん、こわがらなくてだいじょうぶだよ。……もう少し力を抜けるかな」


「ゆ、指、痛い……です……」


 これくらいで怖気(おじけ)づかれては、とうてい先へは進めない。石和は「ごめんね」といって、さらに奥へ()れた。


 桃瀬は顔を真っ赤にして「あぁっ! それ以上は……やめてぇ……」と涙目になった。水音が耳につくが防御反応による分泌液につき、性的な興奮を感じてぬれているわけではない。石和はゆっくり人差し指を追加すると、二本指で押しひろげた。


「ひぁっ!?」


「理乃ちゃん、これ痛い?」


 質問に答える余裕などない桃瀬は、恥ずかしさのあまり「も……、いやぁ……!」と、石和の腕を両手でつかんだ。丁寧な指づかいは不快ではないが、それなりに苦痛をともなった。ネット検索により必要な手順だとわかっていても、桃瀬は自慰もしたことがないため、膝がふるえだした。桃瀬の精神状態が限界そうにつき、石和は指をひき抜くと、からだ用のウェットティッシュで肌を拭き、パンティーをもどした。桃瀬は、拗ねたように背中を丸めている。


「理乃ちゃん、こっち向いて」


 数秒ほど放心していたが、ハッとしてベッドから起きあがると、「わ、わたし、帰ります!」といって、逃げるように部屋を飛びだした。ワンピースのウエストリボンが、床に落ちている。



「性急すぎて、きらわれてしまったかな」



 そうつぶやく石和は、コンドームと潤滑ジェルをひきだしのなかへしまうと、小さく溜め息を吐いた。桃瀬は、これまでにつきあったことのないタイプの女性だが、ひな鳥のようなかわいらしさと、性的な事柄に羞恥する表情や言動は、興味をそそるばかりか、情欲を掻き立てる。動揺する恋人を放っておくことは主義として容認できない石和は、ウエストリボンを返す目的で、桃瀬の部屋を(たず)ねた。……ガチャッ。よかった、ドアをあけてもらえた。



「……なにか」


「忘れものをとどけに」


「わ、わざわざすみません……」



 桃瀬の表情はおちついているように見えたが、「平気?」と具合を確認すると、数秒ほど沈黙が発生したあと、こくんっと、うなずいた。


「さっきは、痛い思いをさせてごめんね。……またこんど、いっしょにがんばってくれるとうれしい。それとも、ぼくとつきあうのが(いや)になった?」


「そ、そんなこと、ありません……。石和さんは、なにも悪くありません。全部、わたしのせいです……」


「ちがうよ。あまりじぶんを責めては不可(いけ)ないよ。……今夜はゆっくり(やす)んで、またあした元気に働こう」


 性行為の前戯をうまくできなかった桃瀬は、ぎゅっと、唇を固く結んだ。耳にやさしくひびく石和の声が、切なくて悲しい。「いっしょにがんばろう」ということばの意味も、正しく理解できなかった。「おやすみ」暗くなった外階段をおりていく石和のうしろ姿を、桃瀬は茫然と見送った。


 昔から痛みに臆病な桃瀬は泣き虫だった。石和の辛抱をよそに、シャワーを浴びる桃瀬は、トロッとした分泌液が流れでてきた瞬間、「……なんでいまごろ?」と、うろたえた。石和の指が挿入された圧迫感は、生々しく残っている。桃瀬の困惑とは関係なく、身体作用の感度は良好だった。



✦つづく

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