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のろける中年


 桃瀬(ももせ)理乃(りの)を手に入れた石和(いさわ)は、ギャルソンの(あくつ)に早くも揶揄(からか)われた。



「あの子とつきあうって、石和さん、正気っすか。ぜったい面倒なことになりそうだけど……。なんて云ったっけ? ええっと、理乃ちゃん? そんなにベッドでの相性(あいしょう)よかった(、、、、)ンですか?」


 煙草(たばこ)(けむり)を手のひらでよける石和は、「それはまだこれからの話だよ」といって、ペットボトルのミネラルウォーターを片手に、キャップをはずした。


「理乃ちゃんって、男とセックスできるんですかね? どう見ても、お子さまなんだけど……。石和さんがあの子のカラダを破ったら、それなりに出血しますよね。処女(バージン)を相手にするリスクは考えているンでしょうけど、おれだったら敬遠しますよ。ベッドで泣きだされると萎えるし、そもそもぺちゃんこだし……」


「理乃ちゃんは、すべてがかわいいよ。それに、初めてなのは知っている。ぼくは、彼女の緊張を丁寧に(ほぐ)して、自信を持たせてあげたいね」


「そいつはまた、ずいぶんと()れこみましたね。あの子のどこが、そんなに気に入ったんですか?」


 石和はペットボトルを口へ運び、ミネラルウォーターをひと口飲んだ。思えば、桃瀬の大胆さにふりまわされたのは、石和のほうである。


 

 二週間ほど前、部屋の鍵を失くしたふり(、、)をして、アパートの駐車場に佇む石和に声をかけた人物は、真上(まうえ)に住む女の子で、社会人としての新米ぶりが初々(ういうい)しい印象を受ける桃瀬理乃だった。話をきけば、二十歳の誕生日をひとりで迎える夜で、それはつまり、祝ってくれる相手がいないことを察した石和は、なぐさめるつもりで、花束を購入した。ガーベラはGの出現で見事に散ったが(ゴキブリのことだよ)、石和はなんとも思わなかった。ひと晩を顔見知りていどのおじさんと過ごす無防備さにも(あき)れてしまうが、なにより、ブランド店の買いもの袋の中身が、サイズの合わないブラジャーであることが、かわいらしくて興奮した。


 桃瀬が眠りについたあと、こっそりクローゼットをあけて、上段に押しこまれていた買いもの袋を確かめた石和は、こんな真似をしてまで、男の気をひきたいのだろうかと、悩ましく思った。とはいえ、桃瀬の部屋を訪ねてくる人々は、家族だったり、アパートの関係者だったり、セールスだったりと、彼氏らしき存在の気配は微塵も感じなかった。


「まいったな……」


 桃瀬の私生活が気になりだした石和は、セブンスターでの正体を明かすため、招待状を渡した。思ったとおり、いかにも新調したばかりのワンピース姿であらわれた桃瀬は、石和の心を、ますます惹きつけた。


「無理してぼくに合わせようとして、かわいい子だな……」


 飲酒の経験も初心者につき、まずはアルコール度数の低いビタミンティーを作り、お酒の味と、嗜み方を伝えようとした。純粋に、おいしいと云って笑う桃瀬は、石和の忘れかけた思い出をよみがえらせた。


「ぼくのほうが、感謝しなくては……」


 桃瀬の存在が愛おしくなった石和は、油断がすぎる彼女の肌に手をだして幻滅された(実際は、まんざらでもなかったらしい)。


「それなのに、きみは、ぼくのことを……」


 正直なところ、年齢的にあり得ないとあきらめかけたが、じかに乳房をとらえたとき、桃瀬の反応は意外なほど従順だった。腕をふりはらわれるまで、為すがままの態度は、触れた部位が胸ではなく、もっと敏感な器官だったとしても、変わらなかっただろう。



「石和さんがのろけるの、めずらしいっすね」



 煙草を喫みながら横槍を入れる(あくつ)は、「おれなら、沙由里(さゆり)さんと、激しいセックスしてみたいっすね。彼女、石和さん狙いの常連だけど、理乃ちゃんの勝利っすか」と、下品なことばで話をまとめた。



✦つづく

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