第二話 相手を改心をさせる力
齋はこんな状況でもパニックにはならなかったが弁償とか裁判とか現実的な悩みが苦しめる。
「ツノ......それよりどうしたらいいの............」
(仕方ない、それよりツノを引っ込めろ。教えてもないのに力を半端に解放するな。身を滅ぼすぞ)
「茨木がガラス割ったからでしょっ!怒りでそうなったんよ、アホ!」
誰と会話しているのかわからないツノの生えた少女を前に警備員は恐怖して動けずにいた。それに気づいた彼女は口に出さなくても良いことを思いだし黙る。この一瞬で脳内で茨木童子に罵詈雑言を浴びせさせた。
そうして数秒で気分がマシになったので警備員に話かける。
「あの〜......鬼入っているってわかっているならば責任者とかいますよね......?封印されている事がわかっているのならば、こうなるのも予測できると思うので読んで頂けませんか?」
(まだツノが引っ込んでないぞ。コツはいつもの自分の顔を思い浮かべて深呼吸するんだ)
大嶽丸はツノが3本生えたままの齋にアドバイスをした。彼女は無言で従いツノは取り敢えず引っ込めることに成功。その頃にはやっと警備員が話せるようになったが必要が無い様だ。責任者や他の警備員が集まり始めた。
「わあ......大事だよ。なんか陰陽師みたいなのいるけど............私達の物語は始まらず終わる感じかなぁ......」
(いやぁ、ありゃあ食わせ者だ。あいつには霊感や妖怪を祓ったり攻撃するどころか見えない筈だ。それどころか奴は小さき鬼を目前に内心は怯えているだろうよっ)
そう大笑いながら大嶽丸は言う。齋は彼方が近づき口を開くのを待った。
「これはこれは............封印された鬼は彼女を乗っ取り逃げようとしているところと見受けた」
胡散臭い格好した男は堂々とした態度で言う。
「それじゃあ......警察を......」
と警備員が言おうとすると男は止めた。
「必要ありませぬ、我が祓い展示物を取り返し鬼を滅しましょうぞ!雇い主がこの場合は訴えたり弁償はさせないとの契約。ガラスなどの片付けだけは頼みますぞ、ではそこの鬼よ。わ、私が片付けてやろう抵抗するだけ無駄ですっぞ、ぞ!」
最後の方は恐れて一人称ミスし噛みまくる男。齋は脳内で鬼に助けを求めた。
(ちょっとー!これどうすんの?詐欺師だよね?)
(何を基準にするかによるが何にせよあいつは無能だ、喰ろうてやれ)
茨木は冗談を言う。
(馬鹿言っている場合じゃないぞ、茨木童子よ。しかし、本当に面倒な事をしてくれたぞ茨木童子。今の力では鬼術は使えん、幻覚を見せるも認識を変えるも出来ん!齋がそうそうにダメになればお前の親友の首も帰っては来ないぞ)
相当怒って茨木に文句を言う大嶽丸。2人は彼女の脳内で言い合いになり齋は鬼術が何なのか気になるが、とにかくうるさく思いシャットアウト出来るか念じたら......出来た。が何一つ解決していないのである。彼女1人で解決するしかなかった。
「私が鬼に見える?おじさん......?ちょっと2人きりになろうか?」
脅し含め人気の無い所に無理やり移動させた。その間、男の顔には滝汗。
「にして、ここで戦う気か?鬼?」
まだ威勢のいい詐欺師。
「今日は展示が最後の日だよね?これは演出だったと言う事で片付けてもらえないかな?私が持っている3つの武具は持ち主に話つけておくからさ......穏便に............ね?」
(こいつは多分ツノが生やせる事を知らない。ダメ押しに最後にツノを生やして脅してやる)
相手は詐欺師なので罪悪感なく脅迫する彼女は既に立派な鬼かもしれない。
「ほ、ほう?この我に引き下がれと?私は安倍晴明の......弟子の血筋の......師匠を持つ、この我は............」
口から出まかせを言い始めたので齋は先ほどの逆の感覚で目を閉じて眼を開く。
「今までは偽物に偽者が対応して何とかなっていたんだろうけど私は......違うよ?」
鬼の眼にツノで男を見上げ手を広げ強者のフリをする彼女。ほぼペテンVSペテンである
「ヒョッ............ああ......嘘だ。雇い主は冗談の様に軽く言っていたのにほ、本物では無いかっ............」
「だから雇い主に合わせて?博物館の館長なのか鬼展示会の責任者なのか知らないけどさ」
(やった!身長140しかない私でも威嚇できた!わーい!あ、そろそろ言い合いは終わったかな?......終わった〜?)
脳内で2人に話しかけると答えはすぐに返って来る。
(ようやった!だが写真を撮られSNSにアップされている可能性は高い。これだけで隠蔽しきれたか疑問である、スマホあるだろ?若者なんだから?とにかく確認しておけ)
(本当に現代に詳しいねぇ......大嶽丸は茨木と違ってしっかりしてるね〜)
(吾だって知っておるわ!)
目の前で怯える男と内側の鬼を無視してスマホで検索をかけた。
(......顔は写っているのは無さそう?みんなガラスが割れてすぐに走って逃げたからね。まあ演出の一部にさせるから)
強気な齋はツノを引っ込め眼を戻して男に話しかける。
「ねぇ?脅して悪かったから早く立って!私もほぼ被害者なんだから雇い主に会わせて」
「......はあ............こんな霊媒師だか呪術師もどきをしていれば......いつか、いつかは本物を見るだろうと思ったが............まさか鬼の少女だなんて......」
「普通にハキハキ喋れるじゃん。演技を活かして俳優になったら?」
「目指していたから出来る芸当だ。今は演技力で詐欺師みたいなグレーな事をしているが元は舞台役者だったんだ......って俺の話しても意味ねえか、雇い主に会えばお嬢ちゃんが今持っている物の持ち主に何かするとかせずに済むと思うぞ......でもどこに持ってるんだ?刀だけで約1メートルくらいあったぞ?」
「身体に入った、そんで一緒に鬼も。それより隠蔽を早くしないと私の華やかな高校生生活が終わるから会わせて」
「高校生!?......ち、中学生か小学生かと............今電話する、その前にこれ以上大事にならん様に後始末だ」
「薄いけど化粧しているし童顔でも無いんだけどっ!............チビで悪かったねっ」
そうして男は雇い主に話をする前に演出であった事を告げ事態の沈静化を図る。ペテン師なだけあり即座に警備員を信用させ、敢えて現場を取ったり自身を撮らせ齋の背中だけを撮った。それをサイトや運営のStraylightに載せる事で演出として終わらせる予定だ。そして関係者以外は入れない場所に入り暫く進むと個室に通されたが、既に個室には老人が座っていた。
「どうも、こんにちは器の少女さん。......名乗らずともお分かりでしょう酒呑童子に茨木童子よ。そして都合の良く武器に封印されていた大嶽丸は初めましてかな?」
「えっ!知って............おお!その気配は酒呑の四天王の金童子ではないか!?何故だ、何故お前は生きている?頼光共に殺されたであろう?それに何故今になって吾らにわざわざ干渉した!?」
(ちょっと!勝手に乗っ取れるなんて聞いてない!なるべくやめてよね!今回は何故か生きてる仲間との再会だから許すけど............でも何百何千と人を殺した鬼だからなぁ......)
齋を乗っ取り話す茨木童子。相手は酒呑童子が従えていた大江山四天王の内の1人の金童子という鬼であった。
「..................」
(聞いてない聞いてない!雇い主が鬼って俺はハメられたのか?ここで殺されるのか......?)
男は雇い主も人外である事に気が遠くなる、今までの詐欺行為の罰だと思い諦めてその場から逃げもせず立ち尽くす。
「ははっ私は無論殺されたとも。そこからはあの世で仏教にある地獄の様な場所で罰を受け人間として今は生きている......そして資産家として成功し政界にもパイプがある男となった。......悔いを改めそれが認められ人間になり人を救う事に生涯を費やす様に命じられ、特別に記憶は保持したまま生まれ落ちたのだ。そしたら数年前に酒呑童子に茨木童子が完全に殺し切れず封印されていると古い文献を見て知り、やっとの事で今回の展覧会を開き2人が封印された物を纏めて置き復活を待っていたのだが......まさか少女の身体に入らなければまともに動けない程に弱っているとは誤算であった......大嶽丸が封印された朽ちた弓も引っ張って来て正解であった............ああ、人間達を殺しては奪った美味い酒を飲み、人の肉を喰らいまた人を殺す......日々を楽しく思い出す私は人の身でも鬼のままだな」
生まれ変わっても魂の本質が変わらない事に自嘲する金童子。
「えーっと......なんで3人に計画を教えなかったの?それとこの人が偽物の霊媒師みたいなのって知っていたの?」
「その人間は適当に雇ったから知らぬ、興味も無い。酒呑童子は首塚で改心した事は知っていたが2人はどう言う心境で約1000年も封印されていたかわからないからだ。悪鬼のまま復活させてしまえば私の命の役目に反するので酒呑童子に全て任せたという訳である。私はもう時期に役目を終え寿命を迎えて死ぬだろう、その次は俺の魂の入れ物は妖か?人か?畜生か?雑草か?......知らぬ。知る術もない、だから......悪いがお嬢ちゃん、2人と入れ替わってから抱擁する事を許してくれないか?使命は全うした筈だ、同胞との少しの再会を............」
しわくちゃの老人の顔が更にしわくちゃになり涙を流し始めた。
「......いいよ、ほら2人同時に変わって............お前は良くやった......私が人を救う事の手助けをしてくれたのだ、つまり間接的に人助けをしたんだ。あの世のムカつくお偉いさんは褒めてくれるぜ............」
酒呑はそう言い抱きしめた。茨木はあまり主張しない様にした。この事に悪鬼でも仲間意識や情があるのだと齋は思った。その後少し会話して終わると後始末は任せてくれと言われたので任せるしかない彼女は頷きペテン師と一緒に退室。
「さっきみたいな感情があるのに同じ感情を持つ人間を平気で殺していたなんてどんな精神してんだよ......どういう感情になればいいのよ......」
(......だから酒呑は深く後悔して変わったのだ。吾も確かにやり過ぎたとは思うが、人でない吾らを無意味に攻撃するのも如何なモノか。所詮、人間並の知能がある者は仲間割れをし差別意識で他者を平気で傷つける、現代も変わらん。齋がわざわざこれに何か思う必要は無い、争いは同族も他種族も無くならない。鬼が正義を語るなんて滑稽だが、己の正義を信じ魑魅魍魎を屠る覚悟を持つだけで良い)
「難しいね......まあ考えてもどうしようもないかぁ〜」
切り替えが早い。
「はぁ......爺さんが今は人間で殺されなくて良かった............」
男は生まれて1番の安堵感を感じている。
「いや、私があんたを殺したよ。詐欺師のあんたをね......へへっ、くさいかな。まあいいや俳優でも舞台役者でもまた目指しなよ、あのねっとり感ある喋りの演技は良かったよ。自分に合う役柄のオーディションとかあると良いね」
「ああ......ありがとう、心を入れ替えてオーディションにまた挑むよ。これ迷惑かけたからお詫びにね、じゃあね〜」
彼女に何か渡すと走り去る男。
「......わあ、現ナマだぁ......しかも包まずに雑に10万もある......こういう時って漫画とかアニメならば大抵本物の力があるお守りとかさ、お札くれる物でしょ?お札って漢字は同じだけどさぁ............まあこれでやりたい事出来るからいいかぁ」
(対話で人間を改心させた事に酒呑は喜んでいるぞ!だが対話は出来ても相互理解が不可能な悪ばかりなのだから気をつけよ、まあ人間と同じだ。街中にもそれなりに潜まず堂々といる、見える力を持っていないとわからんから堂々としてやがるからな。吾らが上だった頃はその辺の雑魚は......)
(長くなりそうだからもういいよ、気をつけて帰るけど道中で見つけた場合は?)
(そもそも完全に変身できるかもわからぬ上に、吾らの力を合わせても雑魚1匹より少し強い程度だ。緊急事態でない限り見て見ぬフリをせよ、吾らが復活した事で妖怪共は活発になっておるだろう)
「はぁ......じゃあ取り敢えず帰るかぁ。鬼の私が最初に倒した敵は人間の詐欺師かぁ............」
(なんか......こう......ゲームのチュートリアルすら始まっていない様な......もどかしい............)
そう呟きながらトボトボ歩いて帰路に着く齋であった。
次回戦闘あり。