1-04 君が望む嘘を1つだけ叶えよう
1つ、それは嘘でなければならない。
1つ、それは叶っても嘘であり続ける。
1つ、同時に複数の嘘が叶うことはない。
1つ、それが君の嘘だと知られてはならない。
さぁ、選べ。
君が望む嘘を1つだけ。
契約のもとに。
ファイルNo.1 坂出 真希
最悪だ。
よりによってなんで? なんであんなタイミングであんなことを……?
言うつもりなんてなかった。いえ、思ったことすらなかった。本当に。
じゃあ、なぜ口をついて出たのだろう?
「それがお前の本心だから」
違う! 違う違う違う!
そんなの嘘よ!
私はあの人を愛していた!
誰よりも! いつだって!
本当よ。本当なの。
私はいつだって正直に生きて来た。
嘘なんてついてない。
====================
ファイルNo.2 実崎 真冬
最悪だ。
なんで私があの子とペアを組まなきゃいけないの?
ブスで下手で愛嬌もない! 引き立て役にもならないわ!
響子があの子とペアになればいいじゃない! きっとお似合いよ!
明日文句を……言えるわけない。
先生の決定は絶対。口を挟めばタダじゃ済まない。そんな実例は嫌というほど見て来ている。逆らうなんて……。
誰かこの現実を嘘だって言って!
====================
ファイルNo.3 谷山 春海
最悪だ。
って言っても、ほぼ毎日最悪記録更新してるんだけどね。
変わり映えのしない毎日。いえ、変わりようのない毎日。何も起こるはずもなく、実際、何も起こらない。ならば今日は昨日と同じなのではないか? と思わなくもないが、なぜか今日は昨日よりも確実に更に悪化していると感じてしまう。
おかしいね。期待することなんてとうの昔に諦めてしまったはずなのに。古い漫画のラスボスみたいに考えるのをやめられたらいいのに。
あぁ、私もこの世界も嘘で満ちている。
====================
ファイルNo.4 鞍川 真麻
最悪だ。
まぁ、中の上の下の中くらいの最悪だけど。
それは最悪ではなくないか? というツッコミはノーサンキュー! これは私の心の中の整理棚に入れるためだけのランク付けだから気にしないで!
それにしてもツイてない。なんであんなところにアイツが居るのよ! フツー居ないでしょ? 居てもせいぜいイボ猪くらいでしょ? ……いや、さすがにそこまで田舎じゃないか。まぁ、それはさておき置き土産、見られたのはマズい。いや、私が見られたことをマズいと思っているのを知られるのがマズいのであって、見られたこと自体はそこまでマズいわけではないのよ。だから中の上の下の中なわけよ。だから重要なのはこれからの対処なのよ。
……嘘ってことに出来ないかな?
====================
ファイルNo.5 中河 清美
最悪だ。
まさかあんなことを要求して来るなんて……。そこまでする? 一体どこまで私を?
とにかく絶対に無理。出来るわけない。
でも出来なければ……。
いよいよその時が来たってことなのかしら?
そうね。そうしましょう。
命を賭けて命を奪う。
自分に嘘をつくのはおしまいにしましょう。
====================
ファイルNo.6 籾川 真美
最悪だ。
なんなの? あの子?
本当に今日が初めてなの?
なんであんなにファンがいるの?
それでなんでライブに来てるの?
私の出番より盛り上がってるし、物販もチェキも明らかに私より売れてるし、何なの?
私なんて地下アイドル三年やってるのに。
気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない!
私の方がねぇ! 私の方がねぇ! 私の方が!
……ねぇ! みんな嘘だって言って!
====================
ファイルNo.7 金箱 麗香
最悪だ。
嘘。普通の一日だった。何事も無い。ありきたりなごく普通の一日だった。
最悪だ。
嘘、嘘。
何にもなかったでしょ? 普通の一日だった。退屈なくらいに。
最悪だ。
嘘だってば!
何にもなかったんだってば!
最悪だ。
うるさいわね!
あんな女知らないわよっ!
最悪だ。
そうね、最悪だわ。一体何なの? あの女?
ずいぶんと和馬と親しそうだったけど。和馬は和馬で私には見せないような楽しげな顔しちゃって……。
くっだらない! 別にどうってことないわよ!
……最悪だ。
嘘つきは誰なのかしら?
====================
ファイルNo.8 登張 凉
最悪だ。
軽い気持ちでついた嘘だった。
「ハルカちゃんがやりました」
そんな嘘すぐバレる。やったのは私で、それはハルカちゃんだって知っているから。なのに……。
「ごめんなさい。私がやりました」
ハルカちゃん? どうして?
私を庇ってくれたの?
二人きりになってハルカちゃんに謝ろうとしたら、ハルカちゃんは笑って言った。
「タダより高いものは無いって言葉は知ってる?」
頭の中が真っ白になった。
「借りが出来ちゃったね、私に」
最悪だ。
嘘なんてつくんじゃなかった。
====================
ファイルNo.9 宗像 みどり
最悪だ。
どうしてもっと早く手を打たなかったんだろう?
マズいことになるってことも早く手を打てばなんとかなるってことも充分過ぎるほど分かっていたはずなのに……。
甘かったのか怠けていたのか?
いやいや反省会は事が収まってからだ! 今はまだ事態は現在進行形なのだ!
いきなり震源地のあの子にアプローチするのはマズい気がする。となると、そうだなぁ? ……アイツかー。他に居ないこともないがアイツが一番いいのは明白だなぁ。だけどなぁ。私はアイツに告白されてそれを断ってるんだよなぁ。しかも二回。どうしたもんかなぁ?
断った気持ちには嘘も偽りも無いし。
====================
ファイルNo.10 長柄 加奈子
最悪だ。
また嘘をついてしまった。
よりにもよって、私がヨーロッパの小国のお姫様で、とあるファッション誌の読者モデルをしていて、実はアメリカ合衆国は私が見せている幻だなんて、ちょっと盛り過ぎよね?
……「ちょっと」ではないわね。……「盛った」も超越してるわね。
あれ? この嘘なんで通じた?
ひょっとして私が騙されてるの?
嘘ぉ〜!
====================
僕はファイルを読み終えた後、少しだけ考えた。
「決めた。この子にしよう」
僕は早速、その子のもとへ行き、音もなく姿を現した。彼女はちょっと驚いたが特に騒ぎ立てることもなく僕という存在を受け入れた。僕自身にとっても不思議なのだが、それは僕に備わった特殊な才能や能力のようなものらしい。
彼女に選ばれたことを告げて大切な約束事を教えて希望を聞く。
1つ、それは嘘でなければならない。
1つ、それは叶っても嘘であり続ける。
1つ、同時に複数の嘘が叶うことはない。
1つ、それが君の嘘だと知られてはならない。
さぁ、選べ。
君が望む嘘を1つだけ。
契約のもとに。





