心童牢夢
特別な人間になりたくて なれなくて
僕は今でも現実に生きている
心童牢夢 syndrome
――――
「子供時代の夢、ねぇ……。そりゃまぁ世の中陰鬱としちゃいるが、そこまでして逃避したくなるほど生きづらいかね」
「ちがいますよ」
「あぁん?」
「彼らは逃避してるんじゃない……囚われてるんです」
「あー、なんつったか。幼い日のトラウマ? ったく、なんだって楽しくもねぇ記憶を繰り返ししたがるのかね」
「許されたいんじゃ、ないでしょうか。償うこともないまま風化していった罪を繰り返し夢見ながら、自己欺瞞と呵責のあいだで揺れている……」
「お前の話は小難しくてようわからん」
「ああ、すみません」
「しっかし科学の進歩ってやつは恐ろしいね。捜査のためとはいえ、夢の情景を抜き出すのは、プライバシーとやらの侵害にならんのか」
「ほんの少し前までは、夢なんて不確かなものでしたからね。今はまだ技術の進歩に法整備が追いついていないので、穴も抜け放題です」
「てめぇで言ってりゃ世話ねぇな」
「自覚があるだけマシですよ。これ以上『心童牢夢』現象が広がれば収拾がつかなくなる。情報統制も限界がきています。我々も手段を選んでいられません」
「シンドロウム、ね。うまく名付けたもんだよ。――まるで初めから、お誂えむきの名前が用意されていたみてぇだ」
「主任。その言い方は」
「いや、いい。ふざけた現象だが、実際に複数事例確認されちまってる。それが事実だってんなら、どうだっていい」
「そう、ですね……眠っているのはわかっている……過去を夢見ているのもわかっている……問題は彼らの自意識が何処にあるのかです」
「だから、お前さんの話は俺にゃわからんよ。――わかってんのは、俺らには連れ戻すべき被験者がいて、眠り姫にはKISSしちゃくれない王子様がいる、ってことだけだよ。囚われてんだかなんだか知らねーが、大人なら気合いで目覚めやがれ」
「また無茶を……というか十分わかってんじゃないですか、センパイ」
「うるせぇ皮肉か学歴オバケ」
「オバケ!?」
「中卒とか言って、じつはお前、飛び級した博士課程中退してんだって? 意味わかんねぇよ詐欺じゃねぇか」
「どっから調べたんですかソレ。ただの裏口入学ですよ」
「ただのじゃねぇよ糞か」
「糞みたいなもんです。……ほんとうに、どうしようもない、糞みたいな」
「おい、なに沈んでやがる。ったく、頭の出来が違うやつはわけわかんねぇな。いくぞ」
「……はい」
――――
file*1
『俺はいつだって2番3番で、誰の1番にもなれなかった。だけどあいつには、俺しかいなかった。一緒にいてやっているつもりの俺が、救われていた』
file*2
『馬鹿にされてると思って、あっちがエライって気づいてて、ざまぁみろって思ったこともあって、でも、嫌いじゃなかったの。嫌いじゃ、なかったのに』
file*3
『あのとき、大人しく標的になるしかなかった臆病な彼が、なけなしの勇気をどんな思いで振り絞ったのか……いまさらになって少しだけ気づいたんだ』
file*4
『兄とおなじものを欲しがった。兄が持つものが眩しく見えて、手中に収めるたびにガラクタに変わった。次第になにもかもガラクタに見えるようになった』
file*last
「夢の中の夢、か。今回のお姫様は相当に自信がないと見える。思うがままに振る舞える夢の世界でさえも非現実と位置づけちまってるわけだ。無意識ってもんは正直だな。ありえないと思ってんのか、ありえちゃいけないと自制してんのか。――まあなんだ、今回は一段と面倒くさそうだぜ、相棒」
これも古いメモ。2010年代のいつか。活動報告かどこかにちらっと載せたことがあるような。
捜査官のバディものを書こうとして設定だけ考えた跡地。