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盲目乃者  作者: 結城貴美
第11章 IF YOU WERE HERE
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079 石屋

いつも「いいね」ありがとうございます!

 昨晩はリジェンダに駱駝肉中心の食事をご馳走してもらった。駱駝の肉は疲れがとれるとのだという。クセのある肉だからとのことで、色々なスパイスで味付けされて食べやすくなっていて美味しく食べられた。大変にもてなされたが、ビスタークはその後連れていかれた。マーカムの身体のまま飲み食いして楽しんだので、約束通り動物に取り憑く実験をさせられたらしい。


『そもそも熟睡している動物があまり見つからない。寝ている野良猫がいても警戒しているからすぐに起きて逃げられる。熟睡してるようなのは飼われているから建物の中で近づけない』


 との話だった。なお、飼い駱駝には取り憑けたらしい。しかし繋がれているし手も使えないので何も出来ないと言っていた。


 今日は石屋を探しに行かなければならない。リューナがついて来たがっていたが地図が落書き程度のものなのですぐに見つからないだろう、距離も結構あるから店をちゃんと見つけたら改めて行くか神殿へ呼ぼう、街中をうろうろしていたらまた襲われるかもしれないし、と言いくるめた。リジェンダやその娘の神官ティリューダが神殿の中を案内したりこの地域の料理を食べたりして過ごそうと誘ってくれたおかげで説得に成功した。


 都の中は砂漠と違い世界の果ての滝があるためそこまでの暑さではない。そのため何かあった時のために鎧は着けておいた。例の石屋がある場所は、コーシェルに書いてもらった地図によると都の入り口から入って左側のほうだという。路地に入るようだが、何番目の路地なのか、何番目にある店なのかは一切書かれていない。おそらく適当にぶらぶらしていて入ったのであろう。


「だいたいこの辺、としかわからないな……」


 角の大きな店よりは手前、という大まかな範囲は書いてあるので都全域を探すよりはるかにマシだが時間はかかりそうであった。その辺にいる人から神の石の店を聞きメモをしては訪れる、を繰り返した。


「……店が丁度休みだったり、店員がたまたま休みだったらお手上げだな」

『そしたら明日も来ればいいだろ』

「………………」


 そもそもフォスターはこの人探しに乗り気では無いのだ。家族関係を自分から終わらせてしまう行動などしたくなかった。見つからなければいいとさえ思っている。


 四つ目の店を見つけたので入ってみた。入った時には店員がいないようだった。扉が開いた時のベルの音を聞いてすぐに出てくるだろうと思い、神の石を物色した。先ほど見てきた三軒の店と大差ないようだ。神殿へ行けば安値で手に入る水源石(シーヴァイト)も売られている。神殿まで結構な距離があるからだろう。格納石(ストライト)もあった。眼神の町(アークルス)の店より安い。とても欲しいが財布の中身に不安があった。


 そうやって見ている間に奥から店員が出てきた。中肉中背で色黒の肌に短い金髪という見た目の四十代くらいの男性だ。コーシェルに言われた山吹色の髪の女性を探しているのでここは外れだったか、と思った。しかし、その店員は驚いたようにこちらをじっと見つめている。フォスターが怪訝に思っていると、ビスタークが言葉を発した。


『あいつだ……』


 あいつって誰だよ、と言いたいが店員に見られているので聞けずにいると、その店員が近づいてきた。


「……君、ちょっと聞いてもいいかな?」

「え? は、はい。何でしょう?」


 真剣な面持ちで聞いてくるので少したじろいだ。

 

「違ってたら悪いが……まさか、レリアとビスタークの子だったりしないか? その鎧、飛翔神のだよな?」

「えっ……?」

『やっぱりそうか。ここがその店だ』


 フォスターは困惑しているが、ビスタークは納得している。ここが、ストロワを知っている人がいる店なのか。


「違うか?」

「あ、いえ、そうですけど……よくわかりましたね」

「鎧に見覚えがあったし、君の髪はレリアにそっくりで、顔はビスタークにそっくりだ。そのハチマキもレリアがビスタークに贈った物だしな」

「ハチマキ?」

「知らないか? その額に着けてる帯のことだよ。闇の都(ニグートス)のほうで集中力を高めるために着けたりするんだ」

「へえ……」


 母レリアがビスタークへ贈ったものだとは知らなかった。それにビスターク本人の魂が宿っていることをなんだかむず痒く感じる。


「俺の両親を知ってるんですか?」


 質問を返すとその店員は答えた。


「ああ。俺はレリアの兄のキナノスだ」

「兄……」

「まあ血は繋がってないけどな。一応、君の伯父ってことになるな」

「あ、そうなんですか、初めまして……」


 戸惑いながら取り敢えず挨拶をした。何か他に言うべきことがあるとは思うのだが、頭の中がぐちゃぐちゃで無難な言葉しか出てこない。


『こいつの父親が大神官のストロワだ』


 ビスタークが追い討ちをかけてきた。ついに、ついに見つけてしまった。見つけたくなかった。この先、どうすればいいのかわからない。


「悪いな、急にこんなこと言って。良かったら、立ち話もなんだから奥で座って話さないか? すぐ嫁も帰ってくるから」


 キナノスはそう言うと店の奥の部屋へ進むよう促してきた。何から言えば良いのだろう。目の前が真っ白になったような感覚だ。言われるまま奥の部屋へ入り椅子に座ったが、ビスタークに身体を乗っ取られたわけでも無いのに自分の意思で身体を動かしていないような状態だった。呆然としていると、目の前に座ったキナノスが話しかけてくる。


「突然本当にすまない。聞きたいことが色々あるんだ」

「は、はい」


 こちらも聞かなければならないことがたくさんあるのだが言葉が出てこない。まずは向こうから話してもらおうと思った。


「……レリアもビスタークも死んだって本当なのか?」

「はい。母は自分を産んだあと何日かして亡くなったそうです。父親は俺が四歳の頃でした」

「そうか……手紙が戻ってきたときに書いてあったことは本当だったんだな……」


 悲痛な表情をしていた。そういえば手紙が水の都(シーウァテレス)から来たが送り返したと言っていたなと思い返す。


「レリアは身体が弱かったからな……それはどうしようもなかったんだろう。しかしなんでビスタークまで?」

「あ、それは……」


 何と答えればいいか悩む。そこへ扉のベルの音が聞こえた。


「ただいまー」

「お、帰ってきた。おかえり! お客さんだ!」


 入って来たのは山吹色の髪のやはり四十代前後くらいの女性だった。おそらくこの人がコーシェル達の言っていた店員に違いない。


「ああ、いらっしゃいませ……!?」


 フォスターを見るなり驚いていた。


「え、あの、もしかして……?」

「そうだ。レリアの子だってよ!」

「え、ホントに!? すごい! あの子、頑張って子ども産んだんだね!」


 二人はフォスターを放置して大盛り上がりしている。フォスターはぽかーんとしながらその様子を眺めていた。


『おい、俺がここにいること言っていいぞ。機会をみて帯を掴ませろ』


 それを言うタイミングを見計らう必要は確かにありそうだ。取り敢えずは二人の興奮が冷めるのを待たなくてはならない。


「死んじゃったのは悲しいけど……。あ、そうだ。あたしはエクレシア。レリアの姉だよ。うちの旦那は名乗ったのかな? こっちはキナノス。君の名前は?」


 そういえば名乗ってなかったな、と思い、自己紹介する。


「フォスターと言います」


 そう名乗ったとたん、二人は顔を見合わせた。


「えっ……フォスターって言うの?」

「? はい」


 何かおかしい名前なのだろうか、と思っているとエクレシアが続けて聞いてきた。


「名付け親はどっちだったのかな?」


 そういえば聞いたことがなかったなと思っていると、ビスタークが口を挟む。


『そんなことはどうでもいいから、俺のことを話せ』


 まあ確かにどうでもいいことだ。名付け親は育ての両親や神官達かもしれないしな、と思い二人に伝える。


「それは知りません。あの、それよりも大事な話があります。そのために探していたんです」

「え、そうなの?」

「俺たちのこと、知ってたのか?」

「詳しくは知りませんけど……あの、話と言うのは、親父の死について、です」


 キナノスとエクレシアはフォスターの真剣な様子を感じて姿勢を正した。


「親父は……俺が四歳の時に妹を連れてきて死にました。毒に犯されていたそうです。逃げて来たんです」

「……君は何歳だ?」


 キナノスの表情が厳しいものになった。思うところがあるようだ。


「十九です」

「ということは、十五年前か。親父は、ビスタークに預けたのか?」

「ストロワさんは、いないんですか?」


 少しだけほっとしてしまった。


『まどろっこしい。さっさと俺を握らせろ!』


 ビスタークが文句を言ってくる。しかし話の流れというものがあるだろう、と思い言い出すタイミングをうかがう。


「いない。俺たちもずっと待ってるんだ。ビスタークは死ぬ前になんて言ってた?」

「親父は俺が幼い頃、確かに目の前で死にましたが、今ここにいるんです。本人と直接話をしてください」

「は?」

「ちょっと意味がよくわかんないんだけど」


 フォスターはハチマキと呼ばれていた帯を額から取って二人に渡す。


「これを握ってください」


 キナノスとエクレシアは不可解な面持ちをしながらハチマキを握る。


『久しぶりだな。俺だ。ビスタークだ。随分老けたじゃねえか』


 フォスターの予想通り、その声を聞いて二人とも気が動転しているようだった。

闇の都はなんちゃって和風な文化の予定。




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作者Xfolio
今まで描いてきた「盲目乃者」のイラストや漫画を置いています。

作者タイッツー
日々のつぶやき。執筆の進捗状況がわかるかもしれない。
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