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盲目乃者  作者: 結城貴美
第10章 THE LONG AND WINDING ROAD
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067 甘藍神殿

いつも「いいね」ありがとうございます。

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 そんな話をしていると店主が前菜として肉団子のような物を四つ運んできた。上に何か赤い小さなものが乗っている。


「はい、まずはこれ。ここ独特の料理だから食べてみてくれよ。他はまだ作ってるから待っててくれな」

「はい、ありがとうございます」


 リューナはさっきから黙ったままだ。元々人見知りだが、一昨日攫われそうになったばかりなので知らない人間が怖いのだろう。しかし料理を食べると言葉を発した。


「! なにこれ?」

「肉じゃないな。何だろう……木の実かな?」


 肉団子だと思っていた料理を食べてみると肉が入っていなかった。上に乗っている小さな赤い粒は甘酸っぱく、団子にはハーブやスパイスが効いていて肉が入っていないのに食べごたえがあった。


「それ、キャベツとかの野菜と胡桃を細かくしたものを団子状にしてるんだってさ。この辺でしか見かけない料理でさ、こういうのを食べに来たんだよね」


 カウンター席からリジェンダが説明してくれた。そういえば昨日神殿で見せてもらった地図に胡桃神の町(サイオネス)の名前がこの辺りにあった気がする。


 ちょうど食べ終わった頃に店主が次の料理を持ってきた。櫛形状に切ったキャベツの上に生ハムと半熟卵が乗っているものと、前に船で食べたようなキャベツ巻きだ。スパイスとハーブの効いた肉と胡桃が入っているのだと教えてもらった。真ん中をへこませてそこに溶けたチーズをたっぷり入れ更に卵の黄身まで乗った大きなパンもある。卵とチーズをよく混ぜ、パンを千切ってつけて食べるのだそうだ。


「良い匂い~。美味しそう! いただきまーす!」


 胃が動きだしてリューナの元気が出てきたようだ。うんうん、たくさん食べなさい、と微笑ましく見守りながら美味しく食事を終えた。


 店を出る前に店主から明日の土曜日は定休日だと教えてもらったので明日など移動中の分の食事を夕食の際買うことになった。


 休日は町によって違う。十日ある週のうち二日から三日休みがあるが、休む曜日は様々だ。農業系の町は土曜日が休みになることが多い。


 食堂を出てこの町の神殿へと向かう。リジェンダ夫婦は食堂に残った。建物の隙間から見える景色はキャベツ畑だけでなく、養鶏小屋と養豚場と思われる場所もあった。神殿は町の中心にある大きな建物だろうと思っていたがそこは倉庫だった。おそらくキャベツはここで保管しているのだろう。その隣の普通の家を三倍程度大きくした建物が神殿だった。


 中へ入り、そこで掃除をしていたまだ子どもっぽい感じの男性神官に声をかけた。リューナと同い年くらいに見える。


「すみません、旅の者ですが、今日こちらへ泊めてもらえないでしょうか」


 フォスター達が入って来たことに気がついていなかったのか、神官はびっくりした様子で返事をした。


「は、はいっ! ……す、すみません、聞いてきますので少々お待ちください……」


 オドオドとした様子で奥へと入っていった。しばらくして、その神官は別の神官に叱られながら奥から出てきた。


「まったく、何も聞いていないのかお前は! 相手の名前とかどこから来たのかとか聞くことは色々あるだろう!」

「で、でも、教わっていませんし……」

「普通わかるだろ、それくらい!」


 大きな声で怒鳴りながら三十代半ばくらいのいかつい顔立ちの男性神官がやってきた。


「すみません、お待たせ致しました。お名前とどちらからいらっしゃったのか教えて頂いても?」

「はい。フォスター=ウォーリンとこちらはリューナ=ウォーリンです。飛翔神の町(リフェイオス)から来ました」


 神官なら神に遣える者であり、神が悪い行いをしていないか見ているはずなので通常なら攫われるようなことは無い。ビスタークも素直に出身地を言ったフォスターに対して何も文句を言わない。ただ、石が出なくなったということなのでそこまで油断はしないつもりだった。


「それは珍しい。神話の町ですね。お二人でよろしいですか?」

「はい」

「何泊される予定ですか?」

「一泊です」

「食事の用意はできませんが大丈夫でしょうか?」

「はい、大丈夫です」

「それではお部屋にご案内します」


 最初に話しかけた若い神官は落ち着かない様子で頭を下げていた。


「すみません、うちの見習いが失礼しました。どうも要領が悪くて」

「はあ」


 誰か訪問者が来たら聞かなければいけないことを一切聞かなかったから叱られていたようだ。確かに名前や出身地などはこの神官に質問された。まず風呂やトイレ、立ち入り禁止の場所などを教えられて今日泊めてもらう部屋へと案内された。少し狭いが船の部屋よりかは広い。


「今日はお風呂に入れる!」

「良かったな」


 リューナは空腹が満たされてだいぶ調子を取り戻していた。


「ヨマリーに嫌な気持ちを先取りしたり引き摺ったら損だって言われたからね。今を楽しもうと思う」

「うん、そうだな」


 前向きになれたようで良かった、と安堵した。部屋で少しくつろいだ後、風呂に入りたいとリューナが言い出したので警備のためについていく。部屋から出るとちょうど戻ってきたリジェンダ夫婦に出くわした。隣の部屋なのだと言う。


 風呂は個人用の狭いものだったので物の配置を説明し、外の扉の前にフォスターは立っていた。特に聞き耳を立てていたわけでは無いが、神殿自体が狭いため誰かの話す声が聞こえてきた。


「あいつ、ホント使えねえよな。さっきも客が来たのに何も対応出来なかったんだよ」

「そうなんスか」

神衛(かのえ)にやろうか?」

「いや、あいつ弱そうじゃないスか……無理でしょ」


 さっきのオドオドとした若い見習い神官に対する愚痴だろう。話している相手はここの神衛兵のようだ。フォスターがいることに気がついていないのか遠慮なく喋っている。


「あいつの親が死んだからって親父が預かることになったけど、もう大人と言っていい歳のくせにただのお荷物だよ。全然仕事覚えねえし保護してやった恩とか感じねえのかね?」


 その言葉は小さな棘となってフォスターの心にチクリと痛みを与えた。


 自分も両親が死んで今の養父母に引き取ってもらった身だ。何も恩を返せていないと思っていた。今の両親であるジーニェルとホノーラはそんなこと全く気にしていないとは思っているが、今のこの状態が大変な親不孝ではないかと気に病んでいた。自分が原因では無いが、愛娘である妹のリューナを両親から奪うようなことをしているのだ。リューナが神の子だと言われた時や旅立った時の両親の表情が頭に残っていて、時折心が苦しくなる。


「あいつが神殿に来てからですよね? 石が出なくなったのは」

「初めて聖堂で祈らせた時には結構出たんだよ。親父と一緒だったしな。倒れてからだよ」

「大神官、具合どうなんスか?」

「死ぬことはないけど過労だからしばらく休ませないと駄目だってさ。水の都(シーウァテレス)から調査が入る時は呼べって言われてるけどな」

「調査っていつ頃なんです?」

「さあな……連絡が来るって話なんだが来ねえんだよな」

「原因、なんなんスかねえ」

「調査が入ったところでわかんのかって話だよ」

「あ、あのう……」


 急に先ほどのオドオドしていた若い神官と思われる声が聞こえた。


「こ、この書類のこの項目がわからないんですけど……」

「あァ? どれだ?」


 神官の返事には威圧が込められているようだった。


「す、すみません、税金が現物で納められた場合の……計算方法が……よくわからなくて……」

「この前説明したろ?」

「で、でも、この前と、計算方法が違うみたいなんですが、ど、どうしてそうなるのかが……」

「あー、もういいよ、俺がやったほうが早い。お前は掃除でもしてろ!」


 神の石の出なくなった理由が大体察せられた。ただ立っているだけの自分がわかるのだから、リジェンダも当然わかっているだろう――と思ったところで本人の声が聞こえた。

今回の料理はジョージア料理が元ネタ。

プハリ(キャベツと胡桃のみじん切り団子)と

ハチャプリ(船型のパンにチーズと卵の黄身)というもの。

食べたことはないけど美味しそうなので食べてみたい。

頑張れば作れるかな。




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作者Xfolio
今まで描いてきた「盲目乃者」のイラストや漫画を置いています。

作者タイッツー
日々のつぶやき。執筆の進捗状況がわかるかもしれない。
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