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盲目乃者  作者: 結城貴美
第7章 WHERE THE STREETS HAVE NO NAME
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042 弁解

 フォスターは神衛兵(かのえへい)長のルゴットにしごかれていた。鎧等を全て装備して戦闘訓練を行っている。剣そのものでは怪我をするので軟質石(トフサイト)を貼り付けた剣を使う。軟性神トフセスの石であるこの石は貼り付けた物がその性質を保ったまま人体に対してのみ柔らかくなる。これがあれば怪我や痛い思いをすることなく稽古ができるのだ。


「この剣は面白いな。初見なら絶対にくらうよ」


 ルゴットはあまり他の町の神衛兵装備を目にする機会がないので興味津々で剣を手にしていた。ルゴットも手合わせしたとき最初の一振りの剣圧はくらっていた。


「しかし忘却石(フォルガイト)を使うなら一気に距離を詰めないとならないから、相手の後ろに壁なんかが無いと弾き飛ばした先で体勢を立て直されるか逃げられるぞ」

「そうですね。気を付けます」

「これ、盾のほうは相手を飛ばしたりできるのか?」

「いえ、こっちは衝撃を和らげて軽いだけで他は普通の金属と変わりませんよ」


 今後襲われた時の対処法を聞いているところへロスリーメとアニーシャが入ってきた。


「邪魔するよ。ちょっと困ったことになってね」

「困ったこと?」

「アニーシャ」


 ロスリーメはアニーシャに説明を促し、彼女は先ほどのリューナからの言葉をフォスターに伝えた。


『本当に困ったことになってるな』

「なんか様子がおかしいなと思ってたんだけど、そうですか……」

「すまないね。私が自殺した魂の話をしたばっかりに」

「いえ……俺も魂が空へ昇ったことなんて言わなければ」


 ヴァーリオの死因をどうするか話し合った時にソレムが自殺した魂のことを何か言っていた気がする。その時に確認しておけばよかったとフォスターは後悔した。


『事故みたいなもんだ、仕方ないだろ。それよりこれからどうするかだ』

「そうだね」


 ビスタークとロスリーメが前向きになった後フォスターが少し間を置いて言った。


「……正直に言うしか無いよな。神の子ってのは隠すけどさ」


 破壊神の子ということは自分が信じたくないので言うつもりは無かった。


「すみません、手合わせありがとうございました」

「ああ。まあ頑張れよ」


 これからリューナに話をすることに対しての頑張れなのかはわからないが、ルゴットに励まされ訓練場を後にした。


 気が重い。部屋へ戻る足取りも重い。説明する内容を頭の中で組み立てながらリューナの部屋をノックしてドアを開けた。


「話がある」

「……うん」


 何か食べていたようで皿が空になっている。食べ物でも誤魔化されなかったとアニーシャが言っていたが、食べるものはしっかり食べるようだ。本当に気に病んでいたら食べないはずので少し気が軽くなった。小さいテーブルを挟んだ反対側へ座りリューナに向き合った。


「アニーシャさんから聞いたよ」

「そう」

「お前の想像通り、ヴァーリオを殺したのは医者のザイスだ」

「……ほんとにそうなんだ」

「お前には言いづらかったんだ。ショックだろうと思って。言わなくてごめんな」


 そう言いながら子ども相手にするような感じで頭を撫でた。


「……借金の取り立てなんて嘘なんでしょ。どうして私は狙われてるの?」


 この質問が一番答えにくいが、フォスターは真面目に答えることにしていた。


「正直なところ、俺たちにもわかっていないんだ」


 破壊神の子を狙っているのは確かだが、誰が何の目的で狙っているのか、ビスタークにもわかっていないので嘘をついているわけではない。


「親父がお前を家に連れてくる前から狙われてたらしい。お前は特別なんだ」

「……特別って?」

「それはまだはっきりしてない。俺も間違いだと思ってる」

『まだお前認めてないのか』


 それまで黙っていたビスタークから突っ込みが入ったが、リューナには聞こえていないので無視した。


「お前にはまだ言えない。でも、それがわかる時が来たら必ず言うから。それまで待ってくれ」

「待つっていつまで?」

水の都(シーウァテレス)にお前を待ってる人がいるはずなんだ。その人が見つかるまでだ」

「……その待ってる人って誰なの?」

「えっと……」

『爺さんってことにしとけ』

「お前のおじいさんだって」

「……」

『俺を握らせろ』


 フォスターはビスタークの帯をリューナに渡そうとした。リューナは一瞬嫌がる素振りを見せたが渋々と握った。


『昔、お前の家族と水の都(シーウァテレス)で会う約束をした。お前を逃がすためにストロワが俺に託したんだ』

「それがおじいちゃん?」

『そうだ。ただ、本当にいるかどうかは行ってみないとわからない』

「じゃあ……」


 リューナは何か言いかけて、やめた。


「ん……やっぱりいいや。そのおじいちゃんに会えれば全部教えてくれるのね?」

「……ああ」

「わかった。じゃあそれまで我慢する」


 なんとかなった。フォスターは安堵のため息をついた。そこでノックの音がした。外で聞き耳を立てられていたに違いない。


「そろそろお食事を運びたいのですがよろしいでしょうか?」


 アニーシャがそう声をかけてきてこの話は終わりとなった。


 今日はベーコンと野菜がごろごろ入ったグラタンだった。これにもヨーグルトと蜂蜜が入っているらしい。ほんのりと甘さが感じられ、昨日のソースのように軽い口当たりだ。その上からかけてあるチーズとベーコンの塩味にその甘みが加わわって味に深みが出ている。


 もぐもぐと作り方を考えながらフォスターがじっくり味わっているとリューナが何気なく疑問を口にした。


「あ、そうだ。『神の子』ってなあに?」


 何故うちの家族はいつも口の中にものが入っているときに爆弾発言をするのか。フォスターは吹き出すところだったが、耐えた。


『お前はウソが下手くそなんだから余計なこと言うなよ! この様子だとただ知らない言葉を疑問に思ってるだけだ。大神官から昔神殿にいたって聞いたことだけ言え!』


 ビスタークも焦っているようだ。


「みんな『神の子』ってここの大神官さまが言った時何にも思わなかったみたいだけどなにか知ってるの?」

「……うちの大神官が前に言ってたんだ。神様の子どもって神殿で育てられるんだってさ」

「神様ってほんとにいるんだ」

「え、お前いないと思ってたの」

「いないとは思ってないけど、自分とは全然関係ないからどうでもいいっていうか興味が無いってかんじ?」

『神の子の言うことかねえ』


 それなら自分が「神の子」だなんて全く考えもしないだろう。フォスターは少し安心した。



 翌日の出発当日、朝食はもちろん町までの移動中の食事まで用意してもらいあとは別れの挨拶を残すのみとなった。勿論代金と引換えだが、実際必要なのでありがたく購入した。たった三泊しかしていないがなんだか名残惜しかった。居心地が良かったからだ。最初は閉鎖的で暗い印象だったが、今は静かでのんびりできて良いところだと思っている。

 

 大神官ロスリーメが見送りに来てくれるということだったので旅支度を終え神殿の玄関付近で待っていると、昼食用と思われるパンの納品に七十代くらいの男性老人がやってきた。箱を載せた台車を押しながら神殿に入ってきて軽く会釈をした。フォスターがそれに対して会釈を返すとその老人は目を見開いて動きが止まった。


「あ……あ……」


 顔色が悪くなっていき、震えだした。


「だ、大丈夫ですか? すみません! 誰か来てください!」


 その声で神官達が駆け寄ってきた。老人を囲み別の場所へ移動させようとする。そこへロスリーメもやってきてこう言った。


「いったん外へ出てくれないか」


 言われるがままに神殿の外へ出たところでロスリーメがため息をついて呟いた。


「まさか今日に限って娘婿じゃないとはね……」

「?」

「たった今、事故が起こったんだよ。彼は飛翔神の町(リフェイオス)出身でね。その鎧を見て何か思い出しかけたんだろう。いつもなら別の者がパンの配達をしに来るんだが、まさか彼が来るとは思っていなかった」

「パンの配達……」


 フォスターはそれを聞いて一昨日訪れたパン屋を思い出した。あの女性店員は自分の顔に見覚えがあるようなことを言っていた。


「彼は四十年……は経っていなかったと思うが、そのくらい昔に記憶を消したんだ。お前さん達とは関係ないから気に病むことは無いよ。神官達が対処してくれているしね」


 四十年足らずの昔ならビスタークはまだ幼い子どもだったはずだ。知らないと言っていたし確かにそうなのだろうが、やはり気になる。自分の家系は代々神衛兵だったこともあって無関係ではなさそうだと思った。パン屋に寄って買い物してから町を出ようと思っていたが、この様子だと鎧を着けている今は行ってはならないだろう。幸い、移動中の食糧は用意してもらったので足りないものは無い。


「今から出発するってのにそんな顔してるんじゃないよ。何なら今の記憶を消してやろうか?」


 ロスリーメがにやりと意地悪な笑みを浮かべてそう言った。冗談だとすぐにわかったがきっと気を遣ってくれているのだろう。気にしてもどうにもならないことは忘れることにした。今までお世話になったことへ感謝の言葉を伝えて町を後にした。

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作者Xfolio
今まで描いてきた「盲目乃者」のイラストや漫画を置いています。

作者タイッツー
日々のつぶやき。執筆の進捗状況がわかるかもしれない。
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