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盲目乃者  作者: 結城貴美
第7章 WHERE THE STREETS HAVE NO NAME
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035 大神官

 連行された場所は騒ぎを起こした場所から一番近い外壁にある神衛兵(かのえへい)詰所だった。粗末なベッドや机等が置いてある小部屋に入れられ外側から鍵をかけられた。手枷は外してもらえたが、鎧一式は外されて持って行かれた。生活必需品や神の石の袋も手首の格納石(ストライト)に仕舞われたままだ。


「はあ……」


 フォスターはベッドに座り手で顔を覆って溜め息をついた。


「なんで親父あんなことしたんだよ……」

『……悪い。焦って周りが見えなくなっちまった』

「それじゃわかんねえよ。理由を聞いてるんだよ」

『…………首の傷……』

「あ?」

『あの男、首に傷があったんだ。喉のあたり、顎で隠れそうな位置にな』

「それが?」

『レリア……お前の母親にも同じ傷があった』

「えっ?」


 口が利けなかったのは知っていたが傷があったというのは初耳だった。女性に傷があるというのは不名誉なことなのであえて誰も言わなかったのだろうか。


『声帯を切り取られていて声が出せなくてな。物心付いた時にはそうなっていたらしく、それ以前のことは覚えていなかった。だから……』

「理由が知りたかったのか。でもあの人に聞いたって声が出なくて答えられないだろ」

『……焦って考え無しに動いちまったからな。反省してる』


 そう言われると責める気持ちが薄れてしまう。だが一つはっきりさせておきたいことがある。


「意識が無い時だけ身体を使えるんじゃなかったのか?」

『それに関しては俺も驚いてる。出来るとは思わなかった』

「やめてくれよ。何かすごく疲れた……」

『まあ、一人の身体に二人分の魂が入るわけだから色々な面で良くないだろうな。よっぽどのことが無い限りもうやらねえよ』

「そうしてくれ……」


 リューナはどうしているだろうか。神衛兵に頼みはしたが、本当に保護してもらえただろうか。

 

 心配事は数あれど今は何も出来ることが無いので、ベッドへ横になると二人分の魂が入った疲れもありすぐに眠ってしまった。




 リューナは忘却神の神殿に来ていた。客間らしき部屋に入れられ、しばらくここで待つように神衛兵に言われていた。家具を触った感じではだいぶ良い物を使った部屋のようだった。


「フォスター、大丈夫かな……。お父さんのせいであんなことになって可哀想……」


 ふかふかとした座り心地の椅子に腰掛け思い耽る。なんであんなことになったのだろうか。道行く人に急に問い詰めるようなビスタークの声がして、その後すぐフォスターの声に戻った。ビスタークが急にフォスターの身体に入ったようだった。寝ている間しか使えないのではなかったのか。フォスターは完全にとばっちりを食らってしまった形だ。


「ほんっとにお父さんはフォスターに迷惑しかかけてない……」


 と独り言を言い、自分もだけど、と心の中で付け加えた。いつもフォスターに頼りきりなので、理力で頼られた時は嬉しかった。自分でも役に立てたからだ。


 そんなことを考えていると、扉をノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


 そう言うと、リューナ本人には見えないためわからなかったが、長い白髪を後ろで一つに束ねた身なりのきちんとした老女が入ってきた。


「失礼します。私はこの神殿の大神官をしているロスリーメと申します」

「えっ。大神官さま?」


 何故大神官がわざわざ事を起こした人間の身内のところへ会いに来たのだろうか。何か大変なことになってしまったのかと焦る。


「少しお話を伺いたくて参りました。よろしいでしょうか」

「は、はい」


 自分の受け答えによってフォスターの扱いが決まるのかもしれないと考え、リューナは姿勢を正した。


「まず……飛翔神の町(リフェイオス)のご出身と伺いましたが、生まれもそちらなのですか?」

「いえ……私は死んだ父に連れて来られたので別のところの生まれなはずです。どこなのかはわかりませんが」


 そのあたりの話を全然聞いてないから今度聞こう、とリューナは思った。


「一緒にいたのはお兄さんという話ですが、お父さんと呼んでいたとも聞いています」

「あ、それは……」


 リューナは意を決して本当のことを伝えた。


「あ、あの! 信じてもらえないかもしれませんが、フォスター……いえ、兄には父の幽霊が取り憑いていまして、勝手に人の身体を使うことができるんです。町の人を怖がらせたのはお父さんなんです。フォスターは悪くないんです! 頭に巻いてある帯を触ってもらえればわかります。声が聞こえるんです! だから、フォスターを許してください!」


 リューナが頭を下げて半泣きで訴えると、大神官ロスリーメは少し考え込んだ様子になった。


「だからか……三人いるような気がしたのは」

「えっ?」

「大丈夫ですよ。心配しなくても。ただ、状況がよくわからないので向こうにも話を聞く必要があります。その間はこちらでお待ちください。待っている間はお暇でしょうから、こちらでお茶でも用意させましょう」

「は、はい……ありがとうございます……」


 リューナはなんとかなったのかな、と半分安心し、半分不可解な気持ちになっていた。三人いる、と言っていたことに加えて、犯罪者紛いの身内にかかわらず何故かとても丁寧な対応をされたからだ。

 しばらく考えをめぐらせていたが、別の女性神官がお茶とお茶菓子を持ってくるとその辺のことはどうでもよくなってしまった。



 フォスターは深い眠りに落ちていた。二人分の魂が一人の身体で同時に活動することはやはり相当な負担だったようだ。最初に案内してくれていた神衛兵が揺すって起こすまで全く意識がなかった。夢すら見なかった。


「この状況でぐっすり寝ているとは随分図太い神経をしているな」


 神衛兵に嫌味を言われてしまった。


「大神官が直々に事情聴取をされるそうだ。ついてこい」

「はい……」


 どうやら神殿へ向かうようだ。抵抗しないと思われたのか手枷はもう付けられなかったが前後左右を神衛兵に挟まれる形で歩かされた。


『立派な犯罪者扱いだな』


 ビスタークにそんなことを言われ「誰のせいだよ!」と怒鳴りたかったがそんなことをすれば自分の立場がますます悪くなるだけなので黙って耐えた。


 神殿に着くと普通の部屋へ通された。先程のような粗末な小部屋ではなかった。少し待遇が緩和されたようだ。椅子に座って待つように言われ、しばらくの間待っていると扉をノックする音がした。返事をすると先ほどの神衛兵と共に大神官と思われる老女が入ってきた。


「待たせたね」

「いえ……」


 こういう場合の良い挨拶が思い浮かばず、とりあえず頭を下げた。


「もう良い。下がりなさい」

「ですが……」

「大丈夫だよ、多分」


 大神官はそうやり取りして神衛兵を下がらせ、フォスターと机を挟んだ正面に座った。


「さて、面倒な追及をしそうなのは排除したよ。私がこの町の大神官であるロスリーメだ。どんなことになってるのか聞かせてもらおうじゃないか、()()()()()

「えっ?」

「妹さんは本当に妹かい? 神の子だったりしないかい?」

『この婆さん……!』

「な、なんで……!」


 二人は驚愕した。ビスタークの存在はリューナから聞いたのかもしれない。だが、何故なにも言っていないのにリューナが神の子だとわかったのか。まさか、ザイステルと繋がっているのかと警戒した。


「はあ……理力があまりにも多く感じたからカマをかけてみたんだが、本当にそうなのかい……」


 ロスリーメは呆れたように大きく息を吐いた。フォスターが何を喋ればいいか考えていると、ロスリーメが話し出した。


「なんでそんなことになってるんだい。そこの星になれなかった霊と関係あるのかい。そいつも理力が多いようだね。ああ、その『お父さん』の話は彼女から聞いてるよ。そもそもどこの神様なんだね?」

『……医者とは関係無さそうだな。関係があったら何の神か聞かないだろうし、神の石の供給が断たれてこの町の運営が成り立たないだろ』

「医者ってなんだい?」


 フォスターとビスタークは驚愕した。大神官ロスリーメには帯に触れなくてもビスタークの声が聞こえていたのだ。

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作者Xfolio
今まで描いてきた「盲目乃者」のイラストや漫画を置いています。

作者タイッツー
日々のつぶやき。執筆の進捗状況がわかるかもしれない。
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