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盲目乃者  作者: 結城貴美
第6章 FIRST STEP TOWARDS WARS
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030 宿

 翌朝、なかなか寝付けなかったため少し寝坊をしてしまったが、朝食用にあらかじめ自宅で作って時停石(ティーマイト)を使って保存しておいたホットサンドを食べると、また盾に乗り出発した。

 

 山を抜けると、山脈から流れ出ている川があり、今まで荒野だった風景に緑が増え始める。そして遠くに友神フリアンスの町が見えてくる。空気が澄んでいればその先にある、半島の名前にもなっている眼神アークルスの町が点のように見えるのだが今日は見えなかった。ものすごく空気が澄んだ時には海まで見えることもあるらしいがそれは一度も見たことがない。とはいえ、リューナにはわからないため見えたとしてもなんとなく言いづらいのだが。

 

 自分の町は本当に辺境にあるのだな、と思う。町の皆が言うように、一方的に仕掛けられた戦争のせいで不便な世界の果てに飛ばされたのは納得いかない部分がある。戦わずに耐えれば良かったのか、大神に助けを求めれば良かったのか。もしかすると語られていない飛翔神の罪があったのかもしれない。自分が神話を検証したところでどうなるものでも無いが、走っている間は暇なため色々なことを考えてしまう。


 休憩を挟みつつ、途中で訓練もこなして走り続け、町に到着したのは夕方、夜になる直前だった。以前利用したことのある台所が自由に使える宿に泊まるつもりである。旅の間の食費を考えると出来るだけ自炊したいのだ。


 ここの建物は木造の物が多く飛翔神の町(リフェイオス)とそこまで変わらない。ただ、ここの建物は壁に塗料が塗ってあり明るい雰囲気となっている。飛翔神の町(リフェイオス)では神殿だけは高い建物だったが、この町の神殿は二階建てで他の建物と高さがほぼ変わらない。神殿の敷地自体は広めで町の真ん中に上から見て十字の形で立っており、そこから放射状に通りがあるような町の造りになっている。町の外側になっていくにつれ規則的に建物が並ばずにごちゃごちゃとしてくる。そして通りが狭く、道幅は広くても馬車が二台通れる程度である。

 

 友神フリアンスの石である友情石(フリアイト)は商業的にやり取りする相手に使われることも多く、この町は商人の町として活気がある。このアークルス半島内で作られた農作物や織物他色々な他の町の特産品がこの町へ集まってくるのだ。ここでは朝から市が立ち、商店街もある。飛翔神の町(リフェイオス)には無い街灯もあちこちに立っている。町の大きさは次に訪れる予定の眼神の町(アークルス)ほどでは無いのだが、この半島では眼神アークルスの町、港町である錨神エンコルスの町に続いて三番目くらいに栄えている。


 幸い宿の部屋は空いていた。今日はベッドで眠れると思うとほっとした。昨晩は板の上で毛布にくるまって眠ったが、身体のあちこちが痛くなったからか疲れが取れていないのだ。安宿なので風呂が無いことにリューナが文句を言っている。


 宿の確保が出来たので町へ繰り出した。地元と違って商店があるので何かあれば買い足すつもりだった。リューナと離れないように見て回る。


『おい……』


 ビスタークは後ろから隠れるようについてくる怪しい人影に気が付いたがフォスターにはわからなかった。


「? 何だよ? あまり人前で話しかけるな。俺が変人だと思われるだろ」

『お前、全然気付いて無いんだな。……はあ、もういい』

「あ?」


 ビスタークは息子に期待するのをやめた。

 

 もう店は殆ど閉まっていたが、売れ残りを投げ売りしている露店があったので食材を買い足した。時停石(ティーマイト)は物が腐らないので本当に便利だ。格納石(ストライト)のおかげで仕舞う場所にも困らない。


『お前って……ものすごく主婦っぽいな……』

「うるさいな。だから俺は神衛(かのえ)なんかになりたくないんだよ」


 平和に料理を作ったり、料理の材料にするための野菜を作ったりするほうが自分には向いている、とフォスターは思っている。


『育ての親に似たんだな』

「少なくともお前より父さんのほうが俺と似てる」

『俺の父親の兄貴がそんな感じで神衛を継がなかったらしいぜ。それがジーニェルの父親だ。お前もそっちの性格なんだろ』

「そういや親父は神衛になれとは言わないな?」

『あの町で神衛やってもろくな仕事がねえからな。暇だぞ。仕事があっても畑を狙う鳥を追い払ったり逃げた家畜を捕まえたり、酷いと家の中の害虫退治とかだからな。まあ一人も神衛がいないってのは町としてはみっともないんだろうけどな。なりたい奴がやればいいし、なりたくない奴はやらなくていいと思うぜ』

「……俺もそう思う」


 ビスタークが神衛兵の職を押し付けてこないのは意外だった。

 しかし害虫退治までやらされるのか。自分もやってるな、と思った。家族で虫が平気なのは自分だけだからだ。養父のジーニェルは身体こそ大きいのだが気が小さく虫も苦手だ。養母のホノーラも気は強いものの虫だけは駄目である。リューナは好き嫌い以前に見えないため退治するのは無理である。フォスターは子どもの頃から家の中に出た虫を片っ端から退治する役目だった。自分が旅に出てしまった今、虫が出た場合どうやって対処するのか心配になった。


 宿に戻り料理を始めようと格納石(ストライト)から出した大袋を漁り材料と道具を出していく。鍋やフライパン、包丁も使い慣れている物を持ってきた。ビスタークが何か言いたげであったが何を言ってももう遅いからか何も言わなくなった。


「フォスター、疲れてるところ悪いんだけど……お願いがあるの」


 リューナがもじもじしながら言ってきた。


「ん? 何だ?」


 空腹で何かおやつが欲しいのかと思っていたが、違った。すごく言いにくそうに、恥ずかしそうに言う。


「…………背中、洗浄石(クレアイト)で拭いて欲しいの」

「はあ!? 何で俺が……」

「だって、他に頼める人がいないんだもん!」

「お前、恥ずかしく無いのかよ!」

「恥ずかしいけど、フォスターならいいかなと思って。昔は一緒にお風呂入ってたんだし」

「いつの話だよ……」

「お風呂に入る時みたいに洗うと床濡れちゃうし。手が届かない背中だけだし、前は隠すから、お願い」


 リューナは顔を赤くしながら必死に頼み込んできた。

 

「……親父もいるんだけど?」

「うぅっ……それは嫌だけど……でも昨日もお風呂入れなかったから身体が気持ち悪いし……明日もお風呂入れないんだろうし……我慢する」

「えぇー……」

「フォスターの背中も拭いてあげるし!」

「それは別にいい」

「それが嫌なら次からお風呂のある宿にしてよね!」


 キレ気味にそう言ってきた。お願いというより苦情だった。女の子の身体を綺麗に保ちたい気持ちをフォスターが理解していなかったのが悪いのだが。


 フォスターは仕方なくリューナの背中を拭くことになってしまった。妹とはいえ、血が繋がっていないことがはっきりしてしまった今、以前より意識してしまい目のやり場に困る。しかし見ずに拭くのも難しい。変な気持ちにならないよう自制しながらリューナの背中を石で拭いてやった。


 洗浄石(クレアイト)は身体を洗うだけでなく、洗濯にも使える。しかし石鹸に比べると高いので毎回使うわけではない。水が無くて手が洗えなかったり風呂が使えない等の時に代わりとして使う。ただ、服のシミがきれいに取れるので頑固な汚れには最適である。


 髪は邪魔にならないよう肩から前へやり、ついでにリューナが自分で美髪石(トレッサイト)を使って清めている。洗浄石(クレアイト)の髪の毛用、という感じの髪神トレッセスの石である。どちらも消耗品で、使っていると段々小さくなっていく。使い古しの物を持ってきたので、途中の町で新調しようと思っているところだ。


 リューナの肌はとても綺麗だ。黒子やシミ、痣やニキビ等が全く一つもないのだ。今考えると、人間としては不自然に綺麗すぎる。今まで気にしたことが無かったが、目が見えなくて顔をぶつけても痕が残ったことは無い。そこまで酷い怪我をしたことが無いからわからなかった。すぐに治ってしまうのだ。


 ふとこの肌に傷をつけたらどうなるのかという考えがよぎる。早々に回復してしまうのだろうか。フォスターは慌てて首を振る。


 ――何考えてるんだ、俺。


 さっさと済ませようと思い、精神的に疲れる作業を急いで終わらせた。

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作者Xfolio
今まで描いてきた「盲目乃者」のイラストや漫画を置いています。

作者タイッツー
日々のつぶやき。執筆の進捗状況がわかるかもしれない。
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