174 再出発
宣言通り2~3か月で連載再開です!
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あれからフォスターは水の都の神衛兵の訓練に一回だけ参加した。「帰ったんじゃなかったのか」とレグンをはじめ他の者にもからかわれたが、急遽決まった授業参観のような状況だと説明すしたところ同情してもらえた。
リューナはティリューダと共にダスタムから神衛兵訓練の実況を聞き、その間にジーニェルとホノーラは破壊神神官であるキナノスとエクレシアから謝罪を受けていた。
カイルはリジェンダとマイヤーフに乗り物となった盾のことを聞かれ大いに盛り上がり、リジェンダは業を煮やした副官のタトジャに仕事へ引き摺られて行った。カイルはその後マイヤーフに連れられ道具工房へ見学しに行き、充実した時間を過ごしたらしい。
罪を犯した神についての民話が書かれた本はあっさり図書館で見つかった。ただ、その民話が何処で伝承されていたものなのかまではわからず、こちらも調査をすることになった。
コーシェルとトヴィカは完全に夫婦となった。トヴィカは勿論、何だかんだと色々言っていたコーシェルも幸せそうである。
妻となったトヴィカから聞いた情報をコーシェルとウォルシフが教えてくれた。トヴィカが働いていた食堂でザイステルらしき男を見たと言うのである。背がかなり高く印象的だったため覚えていたらしい。眼鏡をかけていたので普通に眼神の町に自分専用の眼鏡を作りに行くのだろうと思ったそうだ。
眼神の町の神殿に問い合わせたところ、確かにザイステルの名前で眼鏡を作りに来ていて、台帳に書かれた住所は命の都だったという話だった。また、トヴィカはあまり見かけない鎧を着けた神衛兵が一人で訪れたのも見ていたそうだ。おそらく正気を取り戻しザイステルに殺されたヴァーリオか、友神の町で記憶を消した神衛兵だろうと結論づけた。
セレインへ渡す転移石はマフティロから手渡された。元々は複製石だったものを転移石に変化させたものである。手紙も預かった。絶対に連れて帰って来るようにと圧のある表情でマフティロに頼まれてしまった。セレインのことを苦手なフォスターとしては気が重かった。
水の都から戻った後、フォスター、リューナ、カイルの三人はそれぞれ旅支度をした。
フォスターは神殿の聖堂へ行き飛翔神となったレアフィールへ祈りを捧げ、旅の無事とリューナが人間になれるよう願った。ビスタークも一緒にいたからか、旅の資金となる反力石が大量に降臨した。前回の倍はあった。もしかすると旅の間レアフィールにずっと見守られていて、これでは足りないと考えたのかもしれない。特に食費が。
リューナはカイルの母親であるパージェに新しい服を作ってもらった。目立たないよう緑色を基調とした地味な色合いのものである。短いキュロットスカートだけ薄めの黄色だった。
カイルは色々と何かを作っていた。行く先々の町に納品するものがあるらしい。主に神衛兵の装備品だと言っていた。カイルの父親クワインが格納石を持っていたため貸してもらい、仕舞って持ち歩くそうだ。
そして今は三人と一魂で飛翔神の町から出発したところである。育ての両親との別れは前回と違い明るかった。希望が見えたからだろう。
今はカイルが操縦桿を握っている。長距離走行の理力の消費がどれくらいなのか確かめるためでもある。カイルの後ろに乗っているのがフォスターで、リューナは反力石で宙に浮きながらフォスターの肩に掴まっている。リューナがカイルを触れることに抵抗があったためこういう形となった。
「ちょ、カイル! 速い! 速すぎ! 危ないだろ!」
「えー? だってこの速さなら一日で友神の町に着けると思って」
「もし落ちたら大怪我するだろ!」
「反力石があるんだから大丈夫だよ。すぐ触れるようにしといて。離れちゃったら回収しに戻るから」
確かにそれなら地面に叩きつけられることはない。
「でも、盾が壊れるかもしれないし」
「俺がいるんだからすぐ直すよ」
『ははーん、お前、さては怖いんだな?』
ビスタークがからかってきた。
「い、いや、そういうわけじゃ……あ、そうだ。リューナが怖がるといけないから!」
「え? 私は速いの楽しいよ? フォスターは怖いの?」
「……」
フォスターの味方はいなかった。
いつもの休憩小屋は昼食をとるために寄り、完全に暗くなる命の刻頃に友神の町へ到着した。いつもの倍の速度だったということである。念の為、着く前に盾から降りてリューナはかつらと眼鏡をつけておいた。今回は忘却神の町から戻ったときに泊まった風呂のある宿へ泊まる。宿泊料金を少しでも安くするために結局カイルも同じ部屋となった。
「ものすごく疲れたな……」
カイルは疲労困憊といった様子だ。
「な? 理力使うだろ? いつもの倍の距離だし、速さもあったから余計にだろ」
「うん……具合悪い。今すぐ寝たい」
「晩飯はどうする?」
「んー……いらない……」
かなり参っている様子だ。カイルはすぐベッドに横たわった。
『じゃあコイツが寝てる間に俺が食っといてやる』
「親父がカイルの寝てる間に取り憑いて食べるってさ」
「あー、そんなこと出来るのか。じゃあそうする…………あ!」
今にも眠りそうだったが、急に起き上がってカイルは荷物を漁ってあるものを取り出した。
「寝る前にこれ……必要かと思って」
それはマイヤーフの屋敷の風呂にあった「シャワー」であった。
「お、出来たのか」
「湯元石さえあればいいからね、簡単だったよ。余ってる湯元石が無かったから石を買いに行くほうが面倒だったくらいだよ。……こんな簡単な道具なのに、自分で思いつかなかったのがものすごく悔しい……」
「借りてもいいの?」
リューナが口を挟んだ。
「もちろんいいよ。旅の間、みんなで使おう。湯元石もう一個あるから旅の間にもう一つ作るつもり。そうすれば順番待ちもしないで済むしね」
「ありがとう。これ、髪の毛洗うのにすごく便利なんだー」
にこにこしながらそう言ったリューナを見て、カイルは照れくさそうにしていた。
「じゃあ、おやすみ」
恥ずかしかったのか、顔を背けてベッドへ横たわりながらそう言うと、限界だったらしく即眠ってしまった。フォスターがビスタークに言われ鉢巻きをカイルの額に巻く。
「じゃあごはんにしよ!」
すかさずリューナが食事を要求してきた。いつも通りである。フォスターはすぐ格納石から大袋を取り出し、家で作った大きめのパイを三つ、部屋備え付けの小さなテーブルに置いた。
「酒あるだろ。くれ」
「これ料理用に持ってきたんだけどな……」
カイルに取り憑いたビスタークが酒の無心をしてきた。荷物に入れるところをしっかり見ていたらしい。
「体調が悪化するといけないから一杯だけだぞ」
「あー? ……まあコイツこんなだし、仕方ねえか」
洒落たグラスなど持っていないので手持ちのコップに白葡萄酒を注いでテーブルに置いてやった。するとその音と匂いでリューナもねだり始めた。
「私も飲みたい!」
「ええー?」
「前飲んだとき結構美味しかったから」
「毎回お前たちに酒飲まれると金がいくらあっても足りないんだけど?」
「ううー……」
リューナが悲しそうな顔をするのでフォスターはすぐに折れた。
「今日だけだぞ」
「うん! ありがと!」
「お前、リューナには甘いよな」
ビスタークに指摘されなくても自覚はしている。返事をせず既に席についているリューナのぶんもコップに入れてテーブルに置いた。フォスターの飲み物は水である。
「じゃあ再出発に乾杯」
「ん」
「かんぱーい! おなかぺこぺこー! いただきまーす!」
眠っているカイルには悪いが、一応は「親子水入らず」である。
「お、中は鶏肉ときのこか。美味そうだな」
「これなら容器も使わないからな。洗い物が出なくていいと思って」
パイとパンの中間のような生地の中をくり抜いて深皿代わりにし、中にクリームソースで煮込んだ鶏肉ときのこをたくさん入れて生地で蓋がしてある。中身を食べながら蓋や周りの生地もちぎってソースにつけて食べていく。
「おかわりって、ある?」
「相変わらず早えな」
リューナはあっと言う間に平らげてしまった。それを見て酒と交互に少しずつつまんでいるビスタークが突っ込む。
「言われると思った。あるよ」
以前「おかわりすること自体が楽しい」と言っていたので予め四つ作っておいたのだ。
「やったあ!」
「前から思ってたが、美味そうに食うよな……。赤ん坊のころから食わせとけば機嫌よかったしな」
確かに以前見たビスタークの記憶でもそうだったな、とフォスターは思ったが何か言うのはやめておいた。
食べている料理はヴォロヴァン(ヴォル・オ・ヴァン)という料理を参考にイメージしたものです。
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