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盲目乃者  作者: 結城貴美
第17章  WHEN I GET HOME
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171 密議

 水の大神官親族の会話によりリューナの将来の希望が増えていく。


「民話はそれでいいとして。伯父上の見た文献というのは?」

「民話ではなかったはずだ。若い頃、大神官の試験を受けに行った都でそんな内容のものを見た覚えがある」

「父さんが行った都は何処だったかな」

「星と闇と時だね」

「そういえば地元の試験は受けなかったって言ってましたね」

「昔は後継者争いが酷くてね。地元だと不正だとか難癖つけられそうだったんだ」

「とにかく、それは調べてみましょう。大神官候補じゃないと閲覧出来ないような文献だったら、すんなり教えてもらえないような気はしますが」

「じゃあ私のほうで各都へ依頼しておくよ」


 リジェンダとマイヤーフ、マフティロの三人がどんどん話を進めている。ニアタもいるが後ろで穏やかに会話に耳を傾けているだけである。


 話がまとまったところでリジェンダがジーニェルとホノーラへとんでもない提案をし始めた。


「明日は是非神殿へお越しください。息子さんの神衛(かのえ)訓練、見てみたくないですか?」

「ちょ、何言ってるんですか!」

「あれ、装備持って来なかった?」

「念の為着てきましたけど訓練に参加するつもりはないですよ。先週別れの挨拶をしたばかりなのに気まずいじゃないですか」


 フォスターは突然のリジェンダの言葉に青ざめる。しかし両親は乗り気だ。


「見に行ってもいいんですか?」

「勿論。それに、明日ご両親とお会いしたいという人に会っていただこうかと思いまして」


 どうやらその用件が本命らしい。


「もしかして……」

「破壊神神官の二人です」

「……やはりそうでしたか。先日手紙を受け取りましたので」

「彼らが悪いわけでは無いのに」

「それでもきちんと謝りたいとのことでした。本当なら自分たちが動かねばならないのに、と」


 リジェンダがキナノスたちの言葉を伝えるとホノーラが少し口元を緩めて語り始めた。


「……リューナが、楽しそうなんですよ」


 リジェンダは黙って頷くと次の言葉を待った。


「この前帰って来たときに、とても嬉しそうに色々と話してくれました。友達が出来たとか、地元にはない美味しいものを食べたとか、海に入ってみたとか、船に初めて乗ったとか。こんな経験、世界の端で普通に暮らしているだけだったらさせてあげられなかったでしょう。それに先ほどのお話で希望が出て来ました。ね?」

「そうだな。お会いするのなら、謝罪を受けるのではなく縁が出来た挨拶をしようと思います」


 ジーニェルとホノーラは先程の話でかなり希望を持ったようだ。二人は前に進もうとしている。


「わかりました。では明日、空の刻半の時間に部屋を用意します」

「んー、でも、リューナはどうしましょう。同席させるわけにはいきませんよね?」

「神衛兵の訓練開始と同じ時間ですから、お兄さんの訓練の実況を聞かせていれば大丈夫じゃないですか? ご両親は少し神殿内を見学すると言っておけば」

「なんで訓練に参加するの前提なんですかね?」


 ティリューダの提案にフォスターが突っ込みを入れたが流される。ビスタークは賛成のようだ。


『参加しとけよ。強くなりてえんだろ? 最近少し動きが良くなってきたから対人訓練は出来るときにやっておけ』

「え、そう? 良くなった?」

『先週か先々週くらいだったか、急に良くなったな』

「……」


 いつもけなされたり笑われてばかりだった実の父親にそう言われ、フォスターは少し嬉しくなった。しかし、もしかするとビスタークの過去を見た辺りからではないかという考えが頭をよぎり何も言えなくなった。ビスタークの視点で過去を経験したのでそれが無意識に動きに出たのかもしれないが、それを本人に言うわけにはいかなかった。


「では明日の朝食後、私が皆さんを神殿へご案内致します」


 前大神官マイヤーフが申し出る。


「途中でティリューダに案内役を変わってもらいます。それでいいかな?」

「はい。四階でお願いしますね」


 こうしてフォスターは訓練に参加することとなった。ここで両親への話が終わったためジーニェルとホノーラは先に部屋へと戻ることになった。まだ一緒でも構わなかったのだが、ホノーラはリューナが起きたら不審に思われるから、そして人混みで疲れたとのことで先に部屋で休んでもらうことにした。


「あー、後は何だったかな……」

「こちらをお渡しするのでは?」


 リジェンダが呟くとティリューダが見覚えのある透明な球体をテーブルへ置いた。通信石(タルカイト)である。


「あ、そうそう。これ渡したほうが良かったなと君たちが帰った後で思いついてね。すぐこっちに来てくれて助かったよ」

「私たちの登録は済んでいますので、あとはそちらで使う方の登録をしてください」


 フォスターは渡されながら尋ねる。


「登録ってどうやってするんですか? リューナにもさせないと……あとカイルにも」

「カイルさん?」


 ティリューダに聞き返された。


「あ、俺の友達で。旅に同行することになったんです。今日もいましたよ。黄緑色の短い髪をしてて、俺たちと一緒の席にいました」

「ああ、確かにお見かけしましたね」

「なんで一緒に行くことになったんだい?」

「俺に何か用事があるときにリューナをみてくれる信用出来る人間がいると助かるのと、あとは盾が壊れたときに修理してもらえるから、ですかね」


 怪訝な表情になったリジェンダが聞き返す。


「盾なんてそうそう壊れるもんでもないと思うが」

「あー、ここへ着く直前に壊れてしまったので見せる機会が無かったんですよ。盾は盾なんですけど、乗り物にもなるんです。」

「乗り物?」

「言ってませんでしたね」


 リジェンダが見てみたいと言うのでフォスターは一度部屋へ戻り盾を持って戻ってきた。目の前で組み立て、その場で宙に浮いてみせた。


「おおー! これはいいな! 私も乗ってみたい!」

「私も、いいかな?」


 リジェンダだけでなくマイヤーフも興味津々である。その反応を実の息子のマフティロが後ろでニアタと並んで座ったまま半笑いで見ていた。


「浮くだけならいいですけど、部屋の中じゃ走れないし……」

「庭! 庭に行こう!」

「もう夜中ですよ? 一応光源石(リグタイト)はついてますけど、不審に思われませんか?」

「じゃあ廊下! いいですよね、伯父上?」

「飾ってある絵や壺を壊さないようにしないとな。壁にもぶつからないように気を付けないと」

「それは後にしませんか」


 ティリューダが呆れて二人をたしなめた。前大神官と現大神官は小さい声でぶつぶつと文句を言っている。


通信石(タルカイト)の登録の話でしたね。お兄さんさえ登録しておけばあとは私たちがいなくても他の人を登録出来ますよ。石に手を置いてください」


 ティリューダと共に通信石(タルカイト)に触れると石が光った。


「既に登録している人と一緒に石に触れて理力を流せば登録出来ます。リューナさんとカイルさんにも同じようにやってみてください。こちらは母と私、ダスタムと副官のタトジャさんが登録しています。主に私が応対すると思いますが、出られないこともあると思うので念の為」

「わかりました。ありがとうございます。使うにはティリューダさんたちの顔を思い浮かべて理力を流せばいいんですかね?」

「そうです」


 先日ザイステルにアドバロが通信石(タルカイト)を使っているのを見ていたので使用方法はだいたいわかっていた。


「あ、でもリューナは顔を思い浮かべられませんけど……」

「目の見えない人が通信石(タルカイト)を使えないとは聞いていませんので、相手を認識していれば大丈夫ではないでしょうか。不安でしたら明日にでも試してみましょう。カイルさんにも面通ししないといけませんね」

「お願いします」

「まあ、何か困ったことがあったら連絡してみてくれ。何か手配出来るかもしれないから」


 旅の道中の安全が完全に確保されたわけではないのでリジェンダたちの心遣いが有難かった。

体調悪くて更新できないかと思った……。

皆様も熱中症にはお気を付けください。




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作者Xfolio
今まで描いてきた「盲目乃者」のイラストや漫画を置いています。

作者タイッツー
日々のつぶやき。執筆の進捗状況がわかるかもしれない。
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