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盲目乃者  作者: 結城貴美
第17章  WHEN I GET HOME
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167 訪問

ブクマありがとうございますー!!

「みんな、忘れ物はないかな?」


 神殿の一室に結婚式へ赴く招待客が集まっていた。フォスター、リューナ、両親、カイルと神殿の面々の総勢十人である。フォスターは念のため神衛兵(かのえへい)の装備を身に着けていた。神官が一人も神殿にいないという状態にするわけにはいかないので大神官のソレムだけは留守番となっている。


「じいちゃんも行けたら良かったのに」

「前大神官のご自宅に泊まるとかおそれ多くてかなわんわ。心労がかからない分留守番のほうがいいわい」

「じいちゃんがそう言っとったってお祖父さまに伝えとくわ」

「やめんか!」


 ソレムと孫たちが軽口の言い合いをしているとマフティロが口を出した。


「ではお義父さん申し訳ありませんが留守をお願いします。何かありましたら通信石(タルカイト)で連絡していただければすぐ転移石(エイライト)で戻って来ますので」

「まあそんなことにはならんよ。久しぶりの帰省なんじゃからゆっくりしておいで」


 コーシェルが指示を出す。


「みんなもうちょっとくっついてもらえんか。失敗して置いてかれても知らんぞ」

「そしたら家にまた戻ってくるよ」

「二度手間は面倒だから言うとるんじゃ」

「はい! くっつきます!」


 トヴィカは喜んでコーシェルに抱きついた。ウォルシフは後ろから羽交い締めする感じで、マフティロはコーシェルの服の裾を掴んだニアタを満面の笑みで抱き締めている。フォスターの家族もまとまってコーシェルの服の裾を掴む。カイルは少し悩んだ末ウォルシフの服を掴んだ。ぎゅうぎゅう詰めである。


「もうええか? 行くぞ」


 コーシェルは確認すると転移石(エイライト)を額に当て、その場から全員が消えた。先日フォスターが転移石(エイライト)を使ったときは目を閉じ自分の部屋を思い浮かべていたため移動の瞬間はわからなかったのだが、今回は目の前の景色がぼんやりと消えていき、転移先の景色が少しずつ鮮明になっていく光景が見えた。そこは、華美ではないものの上品で落ち着いた造りの部屋だった。


「うむ、全員おるな。ここが」

「おー! よく来た! 待っていたぞー!」


 コーシェルが皆の人数を確認して話している途中で開け放してある扉から興奮した大声が割り込んだ。


「お祖父さま!」

「お父さんずっと待ってたんですか?」

「朝から昼前には来ると聞いてずっとここで待っていた。待ちくたびれたぞ!」


 マフティロと前水の大神官が話している間にコーシェルが皆に紹介する。


「こちらがわしらの祖父」

「マイヤーフ=ワファールと申します。皆さんようこそおいでくださいました」


 前水の大神官であるマイヤーフは丁寧に挨拶した。立場が上の人物からへりくだって挨拶をされ緊張しながら皆で挨拶を返す。マイヤーフの視線はまずリューナに向けられ、すぐ孫たちへと移された。


「まずはおめでとう、コーシェル! 急に結婚の話が出たから驚いたよ」

「旦那さま、お話はあとでゆっくり。まずは皆さまをお部屋へご案内致しましょう」

「ああ、そうだな。皆さんを立たせたままで申し訳ない。アーブに部屋まで案内させますのでまずは水の都(シーウァテレス)を堪能してもらって、宴のときにお話させてください」


 穏やかな笑みを皆に向けマイヤーフはアーブと呼んだ六十前後くらいの年齢と思われる執事に合図をした。アーブはすぐに皆を部屋へと案内する。フォスターはジーニェルと、リューナはホノーラと親子男女別の隣接した部屋となっていた。カイルは先程転移した部屋でウォルシフと同室になった。


「わし、トヴィカと一緒の部屋なんか!?」

「夫婦なんだから当たり前だろう?」

「まだじゃ!」

「私と同じ部屋じゃ嫌ですか?」


 トヴィカが悲しそうな顔で訴える。


「そうじゃなくて、まだ早いって話じゃ。だってうちに来てから一か月も経っておらんのじゃぞ?」

「兄貴が手を出さなければいいだけの話じゃね?」

「それでも世間体ってもんが……」


 案内される直前、コーシェルが文句を言っていたがその途中で廊下に出たので途中から聞こえなくなった。後から確認したところ結局トヴィカと一緒の部屋になっていた。




 色々と宴の準備があるとのことで、転移してから夕方までは自由時間と出発前から決まっていた。屋敷の部屋にいるままでも構わないとのことであったが、両親やカイルを観光させてやりたかったので都を案内することにした。勿論リューナは変装させた。それを見て両親はちやほやし、カイルは何か言いたげにちらちらとリューナを見ていた。


 外へ出て、驚いた。すぐ隣に神殿がある。神殿の敷地内の施設だと思っていた建物がマイヤーフの屋敷だったのだ。門の側に警備の者がいるほどである。言われてみれば神殿の施設なら神衛兵(かのえへい)が立っているはずなので、違う服装の者が立っているなら私設だとわかる。既に通達されていたらしく警備の者に特に何か聞かれることもなく通してもらった。


「前の大神官だって聞いてはいたけど、すごいお金持ちなのね……」

「神殿の仕事だけじゃなく事業への投資もしてるらしいよ」

「別世界の話だな……」


 両親は呆然としていたが、カイルはそんなことに構わず周りをきょろきょろと見回していた。


「うちの町や隣町と全然違うな……建物もそうだけど、服装とか、気温も全然違う」

「俺もここに来たとき思ったな」

「暑いのはまあいいけど、風が砂っぽいのがやだな」

「わかる。でも暑さなら都の中はましだぞ。外の砂漠に比べたら」

「滝があるもんね」


 リューナの一言で皆神殿の奥を見る。


「あれが滝か?」

「霧にしか見えないわね」

「あ! 上のほう見て!」


 カイルの言葉でかなり上空を見上げると横一直線の虹が出ていた。


「綺麗……」

「あれが虹ってやつか」

「俺、初めて見た」

「虹って説明してもらったけど、よくわかんなかったなあ……」


 リューナの呟きにみなハッとした。「見る」ということがどんなことかわからないリューナに何と説明したらいいのか良い案が浮かばなかったからだ。


「前言ってたな。地下に繋がる穴の中に見えるって説明されたんだっけ」

「うん。色んな色が線状に出ててとにかく綺麗だって。それと同じなのかな?」

「たぶんそうじゃないかな」

「音や匂いで綺麗さがわかればいいのにね」


 少し気落ちしているような声で妹が呟いていたので、気持ちが明るくなれるようなことを話した。


「うーん……それなら食べ物に例えるか。氷菓子とかゼリーって感じかな」

「ゼリーってなんだっけ」

忘却神の町(フォルゲス)で食べたろ。お前が怒ってたとき」

「あ、蜂蜜と檸檬の味のぷるぷるしてたの?」

「そう、それ。例えるなら他にも色んな果物の味がする感じかな」

「それはわくわくするね」

「うん。そういうのが空の上にあるんだ」

「ありがと。わかりやすかった」


 少々雲行きの怪しかったリューナは気を取り直して笑顔を見せた。そんな兄妹のやりとりを聞きながらカイルは何か考え込んでいた。


「リューナ、人が多いからお父さんと手を繋ごう。はぐれたら大変だ」

「うん」

「あら。じゃあ私も」

「えへへ。子どもの頃みたいだね」

「私から見たらまだまだ子どもよ」


 リューナは両側を両親に挟まれて手を繋いだ。二人とも愛おしそうに血の繋がらない娘を見ていた。


「お前もはぐれないようにしろよ」

「え、俺?」


 フォスターはカイルに忠告した。


「お前のことだから、何か気になる物を見つけたら何も言わないで勝手にどっか行くだろ」

「えー? そんなことは……うーん……、するかもしれない……」


 自覚があるようだ。


「最悪、あの建物に戻ってくればいいんだろ? 神殿前のでかい建物だしすぐわかるよ。果ての滝って目印もあるし」

「まあそうだけど、一応はぐれた場合のことを決めとこう」

「屋根の上に飛んで乗れば良くない?」


 そう言われフォスターはビスタークが屋根に上って追っ手から逃げたり母親を助けたりしていたことを思い出した。


「んー、そうだな。他にそんなことする奴いないだろうし、それならすぐ見つかるかな」

「じゃあ俺が勝手にふらふらしても安心だな」

「そもそも勝手にはぐれないでくれ」

「じゃあこの前言ってた高くて買えなかったって物がどこの店だったのか教えてくれよ。一緒に行ってくれればはぐれないで済むから」

「いいよ。いいけど、父さんたちが気になるとこ行くほうが先な」


 それを聞いて前を歩くジーニェルたちが振り向いて言った。


「別に構わんぞ」

「そうね。私たちには全部が珍しいからどこを見ても一緒よ」

「やった! ありがとう、おじさんたち」

「……しょうがない。じゃあそっちから見に行くか」


 フォスターが先導し、商店街を皆でわいわいと見て回った。

虹というより環水平アークのイメージです。

出現条件を確認したらこの世界でも見れそうだなと思ったので……科学的にどうなのかはわかんない。




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作者Xfolio
今まで描いてきた「盲目乃者」のイラストや漫画を置いています。

作者タイッツー
日々のつぶやき。執筆の進捗状況がわかるかもしれない。
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