表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盲目乃者  作者: 結城貴美
第15章 NEVER BE A STAR
142/176

141 死去

おかげさまで1万PV達成できました!

続けて読んでくださっている皆様のおかげです。

本当にありがとうございます!!


!注意! 残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。

 ――もう、殺すしか無い。


 ビスタークはそう考え始めていたが、まだ躊躇していた。飛翔神神衛兵(かのえへい)の剣は普通には相手を斬れない。剣を振るとその剣圧で相手が弾き飛ばされてしまうからだ。この剣で相手を傷つけるにはゆっくり刺していかねばならない。意識して刃を相手の身体に入れていかないとならない。明確な殺意を持っていないと人を殺せないのだ。剣を振り回していたらいつの間にか殺していたということにはならないのだ。


 ビスタークは子どもの頃一度、人を殺している。既に犯した罪だ。もう、何人殺しても一緒だ――頭ではそう考えている。しかし実際三人相手にしているので剣をゆっくり刺すなどという機会はなかなかやってこない。


 赤ん坊のルナを前にぶら下げ、寝不足と疲れの中、自分を殺そうとする痛みを感じない三人をどうやって一人だけにすることが出来るか考える。向こうもこちらの剣圧に慣れたようで避けられ始めた。もう中で迷うかもしれないなどと考えている場合では無いと森へ入ることにした。


 上空へ飛び上がれば町の位置が確認できるのだから迷ったらそれで何とかすればいい、そう考えて森の中を走り回り、上へ飛び上がり、三人の神衛兵を分断することにした。泣きっぱなしのルナの泣き声はレリアの形見の鉢巻きを巻いて口に押し込んで黙らせた。静寂石(キューアイト)を使ってはいるが、範囲内に敵が入ってしまうと意味が無くなるからだ。


 まず、首と腕が普通では無い方向へ曲がり口から血を出している動きの鈍くなった三人目の神衛兵を狙った。盾を仕舞い、後ろから羽交い締めにし喉元へ刃を当てる。そしてゆっくりと横へ引いていく。肉の斬れる感触と暖かい液体が流れてくる感触が剣を通じて自分の手に伝わってくる。子どもの頃のトラウマを思い出し冷たい汗が大量に流れてきた。襲ってくる吐き気を堪えながら更に喉の深くへ刃を押し込んだ。暗くて色ははっきり見えないが赤黒く見える液体が大量に吹き出した。


 手に残る感触や返り血の汚れなど気にしている余裕は無かった。同じように残りの二人を、更に遅れて合流して来たもう一人の神衛兵も殺した。一晩の間に合計四人、殺してしまった。


 ルナが押し込まれていた鉢巻きを吐き出し大声で泣いた。血の中へ落ちた鉢巻きを拾い上げ、ビスタークはむせ返るような血の臭いの中で嘔吐した。その後、すぐにその場を離れ、洗浄石(クレアイト)で身体と鎧についた血の汚れを落とした。自分だけでなくルナもかなり返り血で汚れていた。形見の鉢巻きとマントも丁寧に汚れを落とし、また身に付け直した。


 反力石(リーペイト)の寿命も気になったので未使用の石を取り出し、石の力を鎧と剣に移した。反力石(リーペイト)の寿命は長いほうだが、上空で急に石が消滅すると落下死するため、色がだんだん薄くなるようになっている。神衛兵の装備品にも付いているので石が消滅すると穴が空いてしまう。そうならないように石の力を予め移しておくのである。


 戦いの最中、上空へ飛んだときに街道から外れた丘の上に小さく灯りが点る町が見えた。街道沿いを行くより道を外れてあの町に行くほうが良いと思い、森の中を時々空へ飛んで方向を確認しながら進んだ。



 その町へ着いたのはだんだん明るくなり始める光の刻を少し過ぎてからだった。何故か町外れで大神官らしき老人が待ち構えていた。


「お待ちしていました。どうぞこちらへ」


 自分が来ることをわかっていたかのように振る舞う老人を見て何かの罠かと身構えたが、あまりに疲れていたのと次の言葉で警戒を解くことにした。


「あなたがたを休ませるようにと神託がありました。この町には旅人が滅多に訪れないため宿がありませんので神殿へお泊まりください」


 神託。神の長い任期期間中一度だけ大神官に遠回しな助言をするというものである。レアフィールが見守っていて助け船を出してくれている、そう感じた。ルナは神官達が預かって面倒を見てくれるという。神託という言葉が出なければ不審に思って休めなかっただろう。食事や風呂の用意までしてもらい、翌日の朝まで丸一日、死んだように眠った。神の子を預かってから初めて熟睡した。あまりの疲労に悪夢すら見なかった。


 起きてからようやくこの町が何の神の町なのか知った。


「ここは死去神カンドランスの町です。『死』の印象が強くて一般人には嫌われていましてね。外から来られた方は久しぶりです」


 この町の神の石である火葬石(カンドライト)は魂を空へ送って星にするための大事な石である。嫌われていると聞き驚いた。


「まあ神官や神衛兵にはわかってもらえますけどね。何ででしょうね……教育が悪いんですかねえ」


 半ば諦めたように呟き、大神官は赤ん坊のルナのところへ案内してくれた。


「お乳を良く飲んで、良く眠って、とても良い子でしたよ」

「有り難うございます」


 そう言って赤ん坊を受け取った。ここの神官は誰も此方の詳しい事情を聞こうとしなかった。説明し難いのでとても助かるのだが気になって聞いてしまった。


「まあ気にならないと言えば嘘になりますけど。神様から直接お言葉があったくらいですからよっぽどの事情がおありなんでしょう。無理に聞いたりしませんよ」

「……有り難うございます。助かります」


 昨日四人も殺した人間がこんな親切にしてもらって良いものだろうか。体力は回復したが心は重く、良心の呵責に苛まれる。死去神に直接懺悔と礼を言いたくなった。


「……お礼のお祈りはできますか?」

「ああ、それは良いことですね。聖堂へお連れしましょう」


 供物は用意出来ていないが、神の子であるルナと共に聖堂へ入った。ここの聖堂は地元と違い、ちゃんとした建物の中の一室だ。跪いて昨日人を殺してしまった懺悔と礼の祈りを捧げると、神の石が出現した。火葬石(カンドライト)である。これを用いて殺した相手を空へ送ってやれと言われたような気がした。


「神官以外の者に石が出るとは。やはり神託が出るような方は特別だということですな」


 大神官にそう言われたが「後始末しろ」と言われているだけでは無いかと思った。勿論余計なことは言わなかったが。


 丁重に礼を伝えお礼にと反力石(リーペイト)を渡し、町を後にした。あまりのんびりしていると別の神衛兵が来るかもしれない。親切にしてくれた死去神の町(カンドランス)に迷惑はかけたくなかった。本当は死体を処理するために来た道を戻りたかったのだが、怪しまれないように遠回りして森の中へ戻った。


 四体の死体には烏と虫が集っていた。酷い臭いも漂っている。その臭いや烏の鳴き声と虫の羽音のせいかルナが泣き出した。


「悪い悪い。終わらせたらすぐここから離れるから、少しの間我慢してくれ」


 ビスタークはルナをあやしながら火葬石(カンドライト)を取り出し一人目の身体に乗せた。手持ちの石に炎焼石(バルネイト)があったので枯れ枝を拾って火をつけ、火葬石(カンドライト)に炎を近づける。瞬く間に炎は赤から青へと変化し死体を包んでいく。集っていた烏と虫は慌てて別の死体のところへ逃げていった。今は風の刻、昼前の時間だが昼間でも森の中は薄暗く、空へ昇っていく魂の光が確認できた。


 残りの三つの死体も同様に空へと送った。おそらく昼間なので他の場所からは昇っていく魂の光はよく見えないだろう。もし夜に火葬石(カンドライト)を使っていたら連続して昇り星が見えることに何事かと誰かが駆けつけるかもしれない。昼間にやって正解である。手を合わせて自分が奪った命の次の人生が平穏なものであるよう祈りを捧げた。


 全ての魂を見送ると火葬石(カンドライト)を拾い上げ洗浄石(クレアイト)で汚れを落とすと、ビスタークはルナと共に次の町へ歩みを進めた。

ここで火葬石をもらったからビスタークの石袋の中にあったのです。




「小説家になろう勝手にランキング」に参加しています。

(広告下の文字だけのリンク)

1日1クリックしてもらえると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング
↑ 1日一回ワンクリックしていただけると喜びます。


作者Xfolio
今まで描いてきた「盲目乃者」のイラストや漫画を置いています。

作者タイッツー
日々のつぶやき。執筆の進捗状況がわかるかもしれない。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ