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盲目乃者  作者: 結城貴美
第15章 NEVER BE A STAR
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138 脱兎

「ビスターク!」


 民家の屋根の上でストロワを下ろすと、驚きと安堵の両方が混ざった声で名前を呼ばれた。どうやら静寂石(キューアイト)を使っているようで声の大きさは気にしていないようだった。


「久しぶりだな。追われてるのか?」


 ビスタークは簡潔に尋ねた。


「ありがとう、助かった。見ての通り、追われているところだ」


 ストロワは赤ん坊を抱えている。今は眠っているようだ。


「一体、何があったんだ?」

「新しい神官に裏切られてな……」


 レリアの嫌な予感は当たっていた。


「極秘にしていた神殿が連中に知られてしまい、いられなくなったのだ。また別の場所を探さねばならぬ」


 懸念が現実となってしまった。


「この子は神の子だ。破壊神の子だ。この子を狙っている連中がいる。早く連れて逃げてくれ! 頼む!」


 ストロワは赤ん坊をビスタークへ渡してきた。そして持っていた収納石(ストライト)から赤ん坊の人形のような物を取り出した。男二人それぞれ赤ん坊を抱えているように見える。


「なっ……」


 ビスタークは赤ん坊を連れているとは聞いていたがまさか押し付けられるとは思っていなかった。しかしそれより気になったことをストロワに聞く。


闇の都(ニグートス)の孤児院で聞いたときにまさかとは思ったが……神の子を神殿から連れ出して大丈夫なのかよ?」


 神殿を中心に町には結界が張ってあるのだと以前レアフィールから聞いたことがあった。そのためレアフィールは町から一度も外へ出なかった。感情的になって神の力を使ってしまったときも、神殿の敷地内だったからあの程度で済んだらしい。


「この子には神殿の外にいても力が暴走しないように封印が施してある。神の力を無理矢理抑え込んでいるから少々不具合が出ているかもしれんが……」

「……」


 神の子、というのも大変な問題ではあるが、ビスタークはもっと大事なことを伝えなければならなかった。


「俺が……レリアを連れ出したせいか?」


 悲痛な声で一番大事な要点を続けて伝える。


「レリアは……俺の子を産んだせいで死んだ。もう星になったんだ。俺と結婚なんてしなければ、新しい神官なんか入れる必要も無かった。きっと今頃お前たちと一緒に神殿で神の子と仲良く過ごして……」

「仕方ないよ」


 ストロワはビスタークの胸中の披瀝を途中で遮った。


「あの子は本当に君に惚れていた。レリアが君と一緒になりたいと言っていたのだから、それがあの子の幸せだったのだ。きっと子どももレリアが産みたいと言ったのではないかね? 責任を感じることは無いよ」

「……」

「もう会えないのは悲しいがね……」


 静寂石(キューアイト)のおかげで声は聞こえていないはずだが、目視で見つけたらしく追ってきた神衛兵(かのえへい)が建物の壁をよじ登ってきているのが見えた。あまりゆっくりしている時間は無い。


「後で合流しよう。君と最初に会ったあの都で皆と落ち合うつもりだ。それまでこの子を頼む。私が連れて逃げるより、君のほうが足が早いから逃げ切れそうだ。私は囮になるよ」

「……面倒だが仕方ない。レリアにも頼まれたことだしな」


 追手が屋根に登りきったところでストロワを左肩に乗せるように抱えて下へ飛び降りた。向こうもそれを見て屋根から飛び降りた。高さに躊躇せず、着地時の衝撃を感じていない様子なのが気になった。


「このまま振り切る。ちょっと預かってくれ」


 そう言いながらストロワへ赤ん坊を渡しつつ右手首の格納石(ストライト)から神衛兵の剣を取り出す。一直線に長い道へ相手をおびきだし剣圧をぶつけ弾き飛ばし距離を稼いだ。相手が飛ばされているうちに再度ストロワと赤ん坊を抱え屋根の上へ飛び乗り、追跡をかわす為に走り出す。そう広くないこの町から出て別の場所へ向かうつもりだ。幸いこの町は丘の上にあった。反力石(リーペイト)を使って飛び下りるように丘を下ればかなり離れることが出来るだろう。


光の都(リグテュラス)に行くつもりか?」

「そうだが?」

「我々を追いかけてくるのは光の神衛兵だ。やめたほうがいい」

「何だと!?」


 そういえば鎧をはっきりと見ていなかったが言われてみれば見たことがある鎧だった気もする。光の神衛兵の鎧かどうかまでは覚えていなかったが。


「先日光の都(リグテュラス)へ行ってな。相談に乗ってもらおうとしたんだが、受付する前にあの男に襲われたんだ」

光の都(リグテュラス)は頼りにならないってことか」

「まあ全員では無いと思いたいがね。最初は闇の都(ニグートス)で預かってもらおうと思ったんだが、向こうも色々と事情があるみたいでね、断られてしまった。闇の都(ニグートス)では襲われなかったんだがね」

「だから闇の都(ニグートス)の孤児院に顔を出したのか」

「寄って良かったよ。君のことが聞けたしな」


 光の都(リグテュラス)が駄目なら他の行き先を考えなければならない。この辺りの地形を考え、森の中なら見つかりにくいとそちら側の町を目指すことにした。ビスタークのほうが速いのでストロワは抱えたままだ。走りながら反力石(リーペイト)を使うと三段跳びのように跳びながら移動できる。着地時にストロワの重さが肩にくるが今は気にしている余裕が無かった。走りながら疑問に思ったことを聞く。


「なんで集合場所が水の都(シーウァテレス)なんだ?」

「あそこは砂漠があって人の出入りがほぼ一箇所で管理されているようなものだろう?」

「怪しい奴を見つけやすいからか。命の都(ライヴェロス)も似たようなもんじゃないのか?」

「あそこは船で大勢の人間が一斉に出入りするから、砂漠のほうが人が少なくていいんだよ」

「なるほどな」

「船は向こうも一緒に乗り合わせてしまうと自室に引きこもるしか出来ないから正直怖いんだがね」

「大陸から出るには船を使うしか無いけどな」

転移石(エイライト)が今ほど欲しいと思ったことはないよ」


 息が切れるので実際には途切れながらの会話である。舌も噛みそうなためずっと喋ることはできない。


 走っている途中で赤ん坊が泣き出した。静寂石(キューアイト)を使っているので周りに聞こえてはいないのだが一瞬焦る。ストロワに頼まれ森の中で休憩した。追手は今現在見えないが油断は出来ない。ストロワは赤ん坊に山羊乳を与えていた。


「神の子も普通の赤ん坊と変わらねえんだな」

「そう聞いているよ。まあ、絶対に死なない分人間の赤ん坊よりずっと楽だと思うがね」


 ストロワから山羊乳の入った瓶と排泄石(ディガイト)、今使ったばかりの吸い口のついた陶器などの道具を渡された。


「君に託すことを本当に申し訳なく思う」

「俺もそっちからレリアを奪ってしまった責任があるからな。この先の桑神の町(ムールス)まで行くからそこで別れよう。夜は森の中で過ごす羽目になるが我慢してくれ」

「勿論だ」

「朝までに町に着ければ乗合馬車に乗れるかもしれないしな」

「そうだね。無理をさせて本当にすまない」

「鍛えた甲斐があったな」


 森は野生動物や毒虫等が怖いが、ストロワが防虫石(ヴェルミナイト)を持っていたので虫に関しての心配は無くなった。軽く手持ちの保存食で食事をしてストロワは眠らせた。ビスタークは周りを警戒して一睡もしなかった。赤ん坊は神の子だからなのか空腹時くらいしか泣かない。普通の赤ん坊には使わない排泄石(ディガイト)を使っているので下の世話をする必要の無いのがとても楽で、少しほっとした。


 ストロワには色々と聞きたいことがあるのだが、その場を離れることに精一杯でまだ聞けていない。今までも必死に逃げていたようで、出来るだけ休ませたほうが良いと考えてまずは眠らせたのだ。


 神の子を狙っているのは何者なのか。

 キナノスとエクレシアはどうなったのか。

 神の力をどうやって封じているのか。

 封じた不具合とは何か。

 破壊神の神殿は何処にあるのか。

 裏切った新しい神官とはどんな人間なのか。

 水の都(シーウァテレス)へ行った後はどうするつもりなのか。


 考えても答えは出ず、周りを警戒したまま朝になるのを待った。

ようやく「008 神託」の話に繋がりました。




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作者Xfolio
今まで描いてきた「盲目乃者」のイラストや漫画を置いています。

作者タイッツー
日々のつぶやき。執筆の進捗状況がわかるかもしれない。
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