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盲目乃者  作者: 結城貴美
第13章 I'VE JUST SEEN A FACE
117/176

116 結婚

 しばらくして神官達の試験を終え、水の都(シーウァテレス)から出発する時がきた。レリアは講義を一度だけ受けたらしい。ほぼ自習だけで試験に合格していた。他の二人も無事に合格し、皆で登録の手続きをしていた。何故かレリアだけ少し時間がかかっていた。その手続きを待っている間、遠くに次期大神官となるマフティロの従姉リジェンダが見えて皆で「彼女が次期大神官らしい」などと言っていたのだが接触することはなかった。


 ビスタークとレリアは水の都(シーウァテレス)の神殿で結婚の手続きをした。ここに住むわけではないのでただの誓約書の提出に過ぎないが正式な書類として残しておきたかった。姓の変更とミドルネームの登録をするのだ。ビスタークは自分の姓に固執していないのでレリアの姓である「フォスター」に変えようかと提案したのだが断られた。


 ミドルネームはビスタークがこの世界の文字でZにあたるもので、レリアがAである。結婚の際はこの頭文字を元に相手へ名前をつけて贈る。


 ビスタークは以前も開いた古語辞典を調べ「アキュシュラ」の名前をレリアに贈った。古語で「最愛の者」という意味であった。照れくさいので意味は言わないでおくつもりだったのだが、レリアに詰められ仕方なく古語辞典を見るようにと伝えた。言われたとおり辞典を見て確認したレリアはとても喜んでいた。


 この世界の言語は皆同じである。少しの訛りや地域独特の言葉程度はあるがほぼ同じである。神も同じ言語を話すことに加え、転移石(エイライト)のおかげで遠くでも一瞬のうちに移動できるため言語の分断が起こらなかったのだ。そのかわり交通網が発達しなかったので転移石(エイライト)がほとんど流通しなくなった現在、移動が不便になってしまった。


 別言語が無いため他の言語から名前を探してつける、ということができない。ゆえに古語から探すというのは名付けの際によく行われている。


 レリアからは「ザイン」という名を贈られた。大昔の神が人と共に暮らしていた頃、とても人と距離が近かったという神の人間界での名前だったという。子どもの頃何かの本で見て、名前の響きにとても惹かれていつか使おうと覚えていたということだった。何の神なのか質問したが、レリアはそこまで覚えていなかった。


 スヴィルとフレリにレリアを紹介し祝いの言葉を言われた後、別れの挨拶を交わした。他にも顔見知りになった神衛兵(かのえへい)などにも別れを告げ、記念の土産や砂漠越えに必要な物等を買い込み出発の日になった。


 途中で具合が悪くなったり失神するおそれがあるのでレリアを一人で駱駝には乗せられない。そのためビスタークとレリアで同じ駱駝に乗るつもりだったのだが、キナノスの猛反対によりエクレシアとレリアが一緒に乗ることとなった。レリアはやはり手話で文句を言っていた。


「もう結婚したんだから反対しても意味ないのに」

「俺の目の前でレリアに何かされるかと思うとイラつくんだよ」

「一緒に乗らないのはいいとしても……人前で何かするわけねえだろ」


 エクレシアも呆れていたがビスタークは義兄の気の済むように仕方なく従った。いつも監視がついているので結婚したというのに夫婦どころか恋人らしいこともまだ全くしていない。最初に悪漢から助けたときが一番恋人らしかった気もした。浮気発言をしたから警戒されているのだろう。あんなこと言わなければよかったと今更ながら後悔していた。


 駱駝を乗りこなすのに駱駝石(ジャーマライト)を渡された。持っているだけで駱駝が無理のない範囲で思うように動いてくれるという神の石である。駱駝神の町(ジャーマルス)水の都(シーウァテレス)の右側、世界の果ての崖沿いにありそこにも空からの滝があるという。地下水路で繋がっていて水の都(シーウァテレス)がその町の唯一の窓口となっているらしい。駱駝はそこから貸し出されているそうだ。


 レリアの身体が弱いため、駱駝に乗っても森林神の町(レトフェス)に到着するのは徒歩と変わらない予定だという。調子の良いときだけ通常の移動距離にするそうだ。


「最近は調子良かったよな?」

「そういうときが危ないんだ。揺り戻しというか反動で次は長く伏せったりする。結婚したんならレリアの体調によく気を回せ」

「わかった。気をつける」


 キナノスに注意された。都でビスタークが連れて歩いてたのでその反動を恐れているようだった。過保護だと思っていたがいつも反動で体調の悪い日が続いていたのならその反応も当然だろうと今更ながら思った。後ろからエクレシアと一緒にいるレリアを変化は無いかずっと気にしていた。


 徒歩で一日の距離の小屋にたどり着いた。今日は無理をせずここで休むことにした。レリアはまだ平気だと手話で伝えてきたが大事をとったほうが良いと皆で説き伏せた。


 神官達は暖石(パルレマイト)を持っていたので夜は暖かく過ごせた。


「俺もこれ買っておけば良かったな。砂漠から出たらもういらねえけど」

【私は氷石(イルヤナイト)を買えば良かったと思っていました。貴方が倒れていたときに】


 まだビスタークは手話初心者のため筆談でレリアは話している。


「あれから半年以上は経ったか? 本当にあの時は助かった。ありがとうな、今生きてるのはお前達のおかげだ」

「そうだそうだ。もっと感謝しろ」

「キナノスはほっとけって言ってたけどね」

「じゃあキナノス以外に感謝しよう」


 それを聞いたキナノスが悪態をついた後、エクレシアがその時のレリアの様子を教えてくれた。


「あの後、レリアはずっと宿舎で『あの人大丈夫だったかな』って心配してたんだよ」

【だって心配だったもの。一緒に駱駝に乗せてあげればよかったのに】

「私たちは職業的にあまり他の人と関わらないほうがいいからだよ」

「水と塩と影を作ってくれたおかげでこうして生きてるんだから十分だ」

【本当に無事で良かった】


 色々あったが神官達には事件の過去を受け入れてもらっているのでビスタークはわりと心を許してきていた。レリアとのことには口うるさいキナノスにも幼少の事件のことで何か言われたことは一度も無かったのだ。ストロワは息子と娘たちのやりとりをにこにこしながら眺めているだけだ。そのストロワを見て今まで疑問に思っていたことを聞いてみた。


「家族四人でずっと移動してると金がかかると思うんだが、旅費は大丈夫なのか? 滞在してるときは回された仕事で何とかなるにしても、都から都へ移動するのに必要な金額には足りねえだろ」

「ああ、まあね。だから都にいるときはずっと金策に動いてるよ」

「具体的には? 参考にしたい」

「参考にはならないと思うけどね」


 ストロワが説明する。金策とは、破壊神の石である破壊石(ルイネイト)の売却であった。破壊石(ルイネイト)の効果はいわゆる小型爆弾である。普通の店に売ると色々問題があるので都の神殿を通じて売却するそうだ。それもあり破壊石(ルイネイト)はかなりレアである。神の町が無いことに加え効果が危険なので滅多に出回ることが無い。ただ、工事する際には便利なので都だけでなく他の町へ卸すこともあり大神殿で引き取ってもらえるという。普通の町では無理だが。


「価格交渉とかしていたんだよ。あとは神殿に戻らないと聖堂が無いから部屋に簡易祭壇を作るのに色々手配したりね。もちろん普通の仕事もしていたよ」

「そんなので神の石が降臨するのか」

「他の神様はどうなのか知らないけどね、うちは普通と違うから簡易祭壇でお祈りすれば降臨するよ。一回につき一つだけだけどね」

「相当高価なんだろうな」

「まあね」


 移動距離が短いため時間も余っている。手話を覚えたり他愛もない話をしながら時間を潰した。本当は今までどんな人生を送ってきたのか、破壊神の神殿は何処にあって何処で暮らしていたのかなど聞きたいことは色々あった。しかし自分が過去を聞かれたくない人間であったので根掘り葉掘り聞こうとはしなかった。向こうから話してもらえるような関係を構築しようと思った。今まで人と積極的に交流してこなかったので難しいと感じていたが。


 就寝の際にレリアがビスタークの隣で寝たいと言い出したが、これももちろんキナノスに却下された。

この章は次で終わりです。




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作者Xfolio
今まで描いてきた「盲目乃者」のイラストや漫画を置いています。

作者タイッツー
日々のつぶやき。執筆の進捗状況がわかるかもしれない。
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