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8000円の教室  作者: カビ
相馬和樹
5/22

急ぐ必要はありません

できるだけ早く家に帰りたい。


誰にも邪魔されることなく、漫画や映画に没頭する時間をとらないと、あの頃に戻ってしまう。

許されるたなら、ずっと家に居たい。


「メチャクチャ気持ち分かるんだよなぁ」


オシャレな家が並ぶ住宅街を歩きながら、独り言。


デカい家しかない中歩いていると、このままで良いのかと不安になってくる。

この家を建てた人は、稼ぎもありながら家族もいるのだろう。

しかし、俺は汚いアパートの小ぢんまりした部屋に5年住んでいる。

別にもうちょっとマシなところに引っ越すこともできるのだが、あそこを出る決意が中々できない。

あんなとこに留まっている俺は、自分の意思で立派な家を建てた人達に劣等感を抱いてしまう。


「・・・はぁ」


ただでさえ気が重いのに、劣等感からさらに気持ちが沈む。

\



「お忙しいところ、申し訳ありません」

「とんでもないです。こんなに美味しいお茶を出して頂きまして、こちらこそ、申し訳ありません」


大人特有の謝罪合戦をそれから3分ほど繰り返してから、本題に入る。


「急ぐ必要はありません。私としては、優衣さんと少しでもお話ができれば良いなと思って伺ったというスタンスですので、教師が来たからといって、気になさらないでくださいね」

「ありがとうございます」


今更だが、千原優衣は、不登校の生徒である。


俺が高校生の頃も似たようなものだったので、周りが騒がしいとプレッシャーを感じてしまうだろうと、あまり下手に関わらないようにしていたが、そろそろ出席日数が心配だったので、お宅訪問させてもらった。


「優衣の部屋は2階です」


お母さんはそう言って、自分はお茶を洗いに台所に向かった。

親がいると話せないことが多いことを分かっている良いお母さんだ。


ついにこのタイミングがきてしまった。


千原からしたら、教師なんか全員敵だろうから、返事をしてもらえなくても仕方がないと、予め心を殺しておく。


ノックをして声をかける。


「千原、担任の遊佐だ。ちょっと話せないか?」

「・・・二月先生?」


お。


返事してくれた上に、名前も覚えてくれていた。

「そうだ、二月だ。入っていいか?」

無言。

やっぱり無理か。

ガチャッ。

鍵が開く。

「・・・どうぞ」

\



1日の大半を過ごす部屋だから、あまり片付けられていないことを予想していたが、割と綺麗な部屋だった。


本棚やぬいぐるみ、ゲームにパソコンなど、物は多いが巧く収納されている。

成績も良い生徒だったらしいから、どこにどう置いたら効果的かが分かるのだろうか。俺にはない能力だ。


無意識に本棚をラインナップを見てしまう。

他人の本棚ってのは気になるもので、自分と比較するのが楽しい。


・・・お。


「千原、東京グール読んでんのな」

「はい」

「世代ではないよな?」

「はい。でも面白いので」

「へー。誰が好き?」

「えっと、アヤト君です」

少し恥ずかしそうに答える。

「分かる。格好いいよな」

「先生は?」

「亜門さんだな」

「おー」


すごくぎこちない会話だったが、共通の趣味があったのはよかった。

ポツポツ話ができる。

10分話したら、「じゃ、またくるな」と部屋を出た。


あまり長いこと話して疲れさせるのも忍びない。

「あ、はい。さようなら」

思ったより、希望はあるかもしれない。


2000円ってところか。

\



帰りの住宅街を歩く。

これからは、直帰して良いと言われているためか、行きよりも足取りが軽い。

コンビニに寄って、弁当とコーヒーを買って帰ろう。


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