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8000円の教室  作者: カビ
千原優衣
20/22

古本とコーヒー

お盆休みである。

休みなのだから休んで過ごす時間を取る必要がある。


ルール5「趣味の時間を必ず作る」


前職の時は、これができなくて生活が雑だった。

俺の趣味は読者なのだが、せっかくのまとまった休みだ。少し遠出して新しいジャンルの本を開拓してみよう。


今時、紙の本をこよなく愛する時代遅れヤローを温かく迎えてくれる街といえば、やはり神保町だろう。


以前、中央にて、同じようなメガネ、髪型、服装をした中学生3人組に、「紙の本読んでるよ。ダッセー」とクスクス笑われたことがある身としては、そういう馬鹿がいない場所でゆっくりしたい。

個人の古本屋が並ぶこの街は、店主も客も人に興味がない。


何故かこちらを見る奴がいないので、穏やかな気持ちで本を物色できる。

よく、漫画のヤンキーが「テメー、何見てんだコラ!」と凄むシーンがあるが、あのヤンキーの気持ちが分かってしまう。


見るなよ。


絶対に俺を見てるよりスマホを見てる方が楽しいって。

自分の服装や髪型がおかしなことになっているのかと心配になる。さらに、笑い声が起きると被害妄想が始まりそうになる。

自分が笑われている錯覚に陥りそうになる。


神保町は、そういったことがないから好きだ。

\



軽い足取りで古本屋巡りをしていると、佐藤を見かけてしまった。

竹林書房という店の外に置いてある100円コーナーにいる。


クッソー。


今日はコミュニケーションを取りたくない。


しかし、無視したことがバレたら、後々面倒そうだ。

どうしたものか。


当の佐藤は、真剣な表情で立ち読みしている。さっき人を見るな気持ちわりーと思ったばかりなので、目を伏せる。

そんなことをしていたからか、気配を感じ取った佐藤がこちらに気づく。


「二月先生」


いつもとは違うローテンション。場所に合わせているらしい。

「おー。じゃあ、また」

そそくさと歩き出す。


「あ、カンナ。二月先生がいたよ」


今回は連れがいるパターンだった。

店の奥から現れたのは、金髪、ミニスカ、ピアスと、ギャルに必要な三種の神器を揃えている安藤神奈だった。


「あ・・・こんにちは」


ギャルなのは見た目だけで、中身は優等生だ。

成績は全体で4位、授業態度も良い理想的な生徒だが、この見た目から、先生方は今だにビビっている。


金髪が怖いって、ペリー来航以前の方々なのかな?


「邪魔しちゃ悪いし、行こう」

「ん?んー、そう?」


佐藤のストライプシャツの袖を引っ張りながら、俺に軽く頭を下げて去っていく。


もうお気づきかと思うが、俺は安藤にビビられている。

そもそも、教師という存在が苦手らしいが、特に俺を刺激しないように気をつけているっぽい。

30人も人間がいれば、1人や2人、俺のことが嫌いな奴も出てくるので、気にしないようにしているが、ああも分かりやすく避けられると、少しショックだ。


何かしたか、何もしなかったかだな。

\



戦利品を抱えてすぐに帰ることもできたが、少し疲れたので、喫茶店で休憩することにする。

何度か来たことのある薄暗い店内は、目には悪いが、心には良い。


ウィンナーコーヒーを飲みながら戦利品の一つを読み始める。

最初はふざけていると思ったが、美味しいので許すことにした1000円のコーヒーをチビチビ飲みながら本を読むこと1時間、そろそろ帰ろうかと考える。


まだ13時だから、早い気もするが、もうやることがない。

予定が定まらないので、とりあえず、追加注文する気もない癖にメニューを開く。


今まで、コーヒーのページしか見ていかったが、軽食のサンドイッチやナポリタン(軽食?)の写真を見てみる。中々美味しそうだった。


ケーキもあった。

そういえば、千原がケーキが好きとか言ってたな。「好きな食べ物何?」という世界一ありふれた質問に答えてくれたのだ。


何の種類が特に好きなのかを聞いていなかったが、ショートケーキで失敗することはないだろうと思う。


あいつも、こんな感じの喫茶店ならリラックスできるんじゃないかと考えていたら、メニューに小さい文字で、「テイクアウトあります」と書いてあった。


800円。

「・・・」

うん。まあ、俺も久しぶりにケーキ食べたいし、ついでに買っても良いか。

店員さんに声をかける。





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