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8000円の教室  作者: カビ
千原優衣
18/22

使えるかも

夏休みの校舎が割と好きだ。


部活がある生徒以外はいないので、人が少ないという単純な理由である。誰も見ていなかったら、廊下を全力疾走してみたりする。

「廊下は走ってはいけません」というルールは、人にぶつかって怪我をさせてしまう可能性が高いからだ。その人がいないのであれば問題あるまい。


ルールは、守らなくても良い場合は守る必要はない。


全力疾走してゼイゼイ言いながら走って、職員室に向かい、自席で俯いていると、荒川先生に声をかけられる。

「具合悪いんですか?」

「いや、さっき陸上部の連中と走ってきたので」


大嘘をついた。


「良いですね。やっぱり人間は運動しないと」

荒川先生はバドミントン部の顧問だ。

学生時代にバドミントンをやっていたが、別に強くはなかった。

そのくせに、ずいぶん厳しい指導をしている。

ミスをしたら罵声を飛ばす。

勉強よりも部活を優先するように威圧する。

声が小さいことを大犯罪を犯したのかと錯覚するほど責める。


さっきも言ったが、荒川は学生時代に名選手だったわけではない。

普通の選手だった。

今のエースの佐藤の方がよっぽど結果を残している。

格下の相手に理不尽に怒鳴られている。

荒川先生が佐藤よりバドミントンで優っている部分は一つもない。

指導者としても未熟で、練習メニューの立て方に無駄がありすぎると、佐藤がよく愚痴をこぼしている。


「能力の低い先生より、能力の高い同級生に教えてもらった方が断然、有意義だよー」


本当にその通りで、スポーツを教えることは、勉強を教えるよりも難しく、その人に合ったやり方を見つけていく必要がある。本の通りにやって結果が出るジャンルではない。

しかし、教師というのは、基本的に勉強馬鹿なので、できないのは本人の努力不足と判断する。

さらにタチの悪いことに教師ドラマや漫画に憧れている奴は、無駄に厳しくなる。


この場合のやる気は、百害あって一理なしだ。

強豪校でもなんでもない、ふつーの公立高校の運動部で、金も貰えないないのに、誰が修行みたいな部活ライフを送りたいのだろう。


俺が知らないだけで、需要があるのか?

「運動はいいですよね。身も心も健康になる」


虐待と大差ない指導をしている人は心が健康なんですか?

と、言おうとしたけどやめた。

\




「手紙渡せた!?」

またもやグラウンドでぼーっとしていたら、佐藤に捕まった。


「うん。喜んでたよ」


本日2回目の嘘。

この嘘は、ルール3『優しさをはき違えない』を守るための嘘なので許してほしい。


何でもかんでも正直に言うのが善ではない。


「そっか!じゃあ、2通目も書こうかな」

役に立てて嬉しい感情が伝わってくる。

「あー・・・あんまり送りすぎると、逆にプレッシャーになるかもだから、もう少し間を空けようか」

「なるほど!」


なんか、佐藤と千原に気を遣っているこの状況に、だんだん腹が立ってきた。

しかし、佐藤を責めても何にもならない。かと言って、千原に事情を聞くのも躊躇われる。

第三者に話を聞くのが得策なんだが、こいつら2人だけのコミュニティの話だ。知っている奴は他にいない。

こんな時は・・・。

\



「助けて〜星えもーん」

「どうかしたんすか、センセー」

10年来の友達のノリを元教え子に見られてしまった。


しかも、星田はいない。


「えっと・・・相馬オンリー?」

「はい。2人とも、パチンコに行き

ました」

仕事じゃねーのかよ。

パチンコねぇ。星田ならイメージしやすいが、白井さんは浮いてるだろうなぁ。


「そっか。じゃあ、相馬でいいや。」

「スゲー偉そうっスね」

「客だから」


クスッと笑う相馬。

こいつの笑った顔初めて見たかも。結構上品な笑い方だな。

相馬も今は星田探偵事務所のメンバーだ。依頼主からの情報を流すことはしないだろう。


ずいぶんと身を乗り出す相馬。

探偵っぽいことができて嬉しいのだろうか。

\



「あー。佐藤なら、俺にも話しかけてきましたよ」


話を聞き終わると、相馬はちょっと重要かもしれない情報を教えてくれた。

「ご存じの通り、俺、ボッチだったんでスけど、佐藤はそれなりの頻度で話しかけてきましたね。全部無視しましたけど」


完全にATフィールドを張ってた時期だ。ていうか数ヶ月前だ。

「俺みたいなはぐれものにも優しい、なんか漫画のヒロインみたいな奴って印象です」

ふむ。

「・・・センセー、帰ってじっくり考えたいでしょう?」


「お?」


「今、完全に脳内で俺を認識してないっぽい感じが出てます。俺はセンセーがどんな人か少しは知ってるからいいですけど、他のやつの前でその顔したらビビられますよ」


驚いた。


その指摘は、かつて白井さんに言われたのとほぼ一緒だった。

白井さんの観察眼は常軌を逸しているので、俺の考えていることの7割は見透かしてしまう。

その白井さんと同じ分析を、就職して1ヶ月ちょいしか経っていない相馬がしてみせた。


「はは。気をつけるよ」


恐ろしいと同時に、楽しみでもある。

思っていたよりも、使えるコマになるかもしれない。

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