第7話 黄金色の結末
(あと少し……っ……ああぁっ! あとぉ……すこしぃぃ……!)
迷路のような工房区を、ひょこひょこと頼りない足取りで歩くアリア。
(早く……っ! あぁっ!? で、出るっ! 出ちゃうっ! は、早くぅぅぅっっ!!)
下腹部を襲う尿意は、最早我慢の限界。
『あと少しでトイレに行ける』という希望だけが、今のアリアを支えていた。
その希望を与えたゾンビ職員は、ノロノロと歩くアリアに歩調を合わせながら、この迷宮を迷いなく進んでいく。
『最寄りの診療所にお連れしましょうか?』
この男は、絶望に立ち尽くすアリアにそう言った。
ゆっくり歩いても10分くらいで着くはずだと。
『は、はいぃっ! おおおねがっ、お願いしますっっ!!』
診療所ならばトイレがあるはずだ。
その提案に、アリアは一も二もなく飛びついた。
今この瞬間にも放出を始めてしまいそうなアリアは、その『10分』という時間に縋るしかなかったのだ。
……例え、その10分ですら、耐え切る自信がなかったとしても。
「ま、まだですか……っ……あぁっ、ああぁあっ!? まだ、着かないんですか……っ!?」
「もう少しですよ」
「くっ、ぅ……あぁくっ! ご、ごめんなさいっ、急いでくださいっ! あぁぁぁ……っ!」
もうこれを聞くのも3度目だ。
アリアにとっては、永遠にも等しい時間が流れたように感じるが、実際はまだ3分ほどしか歩いていない。
(も、もう出るっ! もう限界っ! あぁっ! 早くっ! 早くぅぅっっ!!)
先ほどから、幾度となく小水が溢れ出ている。
下着はもうぐっしょりと濡れており、すぐにホットパンツにまで滲み出してくるだろう。
「地下道に入ります。工房区は迷路ですから。我々職員はこうゆう抜け道を使ううのです」
「はい! はいぃっ! わかりましたっ、わかりましたからっ、早くぅぅぅぅっっっ!!!」
(漏れるっ! 漏れるぅぅっ!)
ジュッ。
「あぁああぁっ!?」
(あぁっ! もうっ……漏れ……っ……ちゃう……っ!)
職員の説明を待ってる時間すら惜しい。
『地下を通る』という、本来眉を顰めるような内容でも、疑問に思う余裕すらない。
ただひたすらに目の前の職員を信じ、その背中を追い続けるしかないのだ。
階段を一段降りる度に、膀胱に凄まじい衝撃が走り、その度に死ぬ思いで括約筋を締め上げる。
ジュ、ジュジュッ、ジュ。
「ぅあぅっ! ああぁっ!!」
(も、もぅ、だめぇぇっ! もれるぅぅっっ!!)
少し長めの階段を降り切る頃には、アリアは全て力を使い果たし、括約筋は大波でもないのに、断続的に浸水を許すまでに疲弊しきっていた。
ホットパンツには、出口部分を中心に大きな滲みができ、それでも収まりきらず、内股にはいく筋もの雫が伝う。
両手は、いつの間にか全力で出口を押さえつけていた。
(あぁぁっ、もう、間に合わないぃっ! でるっ! でるでるっ! ああぁあぁっっ!!?!)
足を使う衝撃が、ホットパンツの締め付けが、自身を取り巻く全てが、アリアを破滅へと追い込んでいく。
「ひゅぅ……っ! ひゅぅ……っ! はぁっ……はぁっ!? くひゅぅぅ……っ!」
もはや呼吸による内圧すら、小さな失禁を引き起こす。
アリアは、まるで呼吸困難にでもなったかのように、できる限り腹を膨らませない、浅い呼吸を繰り返す。
いつの間にか、彼女の歩いた後には、水滴の道標が出来ていた。
「くひゅぅ……っ! くひゅぅぅ……!」
ジョジョッジョッ!
「あっ、あっ、あっ、あっ!?」
ジョロロッ、ジョロロロッ!
「いやっ、いや……っ! くひゅぅ……くひゅぅぅ……っ……うっ」
ジョロッ!
「あっ、ああぁぁっっ!!」
そして、地下に入って僅か1分。
職員の言った『10分』の半分も耐え切ることができず、あっさりとその瞬間は訪れる。
「あ゛ぁはぅあ゛っ!」
アリアの体が、ブルっと大きく震えた。
ブシィィィィッ!
「あ゛っ」
ジュビィィィィッッ!!
「あ゛ぁっ!」
ジョォォォォッ!ジョォォォォッッ!!
「あ゛あ゛ぁぁはぁっ!?」
ジョォォォォォォォォォォォッッ!!
「ん゛あ゛ぁはぁあ゛っ!? もうっ、だめぇぇぇぇぇっっっ!!!」
ブジョォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッ!!!!!!
「嫌ああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
ジャァァァァャャャッッ!!ブジュィィィィィィィィィィッッッ!!!ジュビィィィィィィィィィィィィィッッッ!!!
ビジャビジャビジャビジャッッッッ!!!!ブジャァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!バジャジャジャジャァァァッッ!!
「あぁぁ……あぁ……ぁぁぁぁぁ……」
それは、巨大な水瓶の中身をぶち撒けたかのような、壮絶な決壊だった。
我慢に我慢を重ね、限界を超えて溜め込まれた小水は、アリアの水門をこじ開け、濁流となって溢れ出した。
それは、一瞬でホットパンツの給水限界を超え、金色の滝がアリアの腰から下を水浸しにしていく。
「ぃ……いやぁ……いやぁぁぁ……嘘……こんなの……嘘よ……あぁぁぁぁぁ……」
この惨状を生み出した少女は、自らの恥態を受け入れることが出来ず、拳を握りしめてハラハラと涙を零した。
涙ながらに紡がれたか細い嗚咽は、床を打ち付ける凄まじい水音にかき消されていく。
豪雨のような放尿は一分間にも渡り、彼女の足元には、巨大な水溜りができていた。
「あぁぁっ」
アリアの膝がガクンと折れる。
そのまま、自らが作り上げた敗北の証の上に崩れ落ち、バシャリと大きな水飛沫を上げた。
その音と濡れた感触が、アリアには非常な現実を叩きつける。
(……私……漏らした……っ……こんな……14歳にもなって……おしっこ……っ……漏らした……っ!)
「う……あ……あぁぁ……っ! うわああぁああはあぁあぁぁぁああはぁぁぁぁっっっ!!! わああああぁぁああはあぁぁあぁぁぁぁっっっっ!!!!」
少女の慟哭が、広い地下道にこだました




