第5話 ミーア~女の目
一人護衛に残されたミーアは、アリアの窮状に気が付いていた。
必死に隠してはいるが、令嬢として女性の機微には聡いミーアにとって、アリアの仕草は『おしっこがしたい』と泣き叫んでいるに等しかったのだ。
(あーあ、かわいそ。でも……ちょっといい気味かも♪)
ミーアはここまでのメロネからの叱責で、かなり不満を溜め込んでいた。
その不満はメロネ本人のみならず、この散策の発案者であるアリアにも向けられた。
大人しく待っていればいいのに、彼女が自分から探しに行こうなんて言い出したから、自分はあんなに怒られることになったのだと。
そのアリアが激しい尿意に苦しみ、目に涙まで浮かべている。
ミーアは溜飲の下がる思いだった。
もちろん、自国の姫が往来で失禁するなど、ミーアにとってもあってはならない事だが、もう子供ではないのだから、流石にそんなことにはならないだろう。
自分は助け舟を出さない。迎賓館に着くまで精々苦しむといい。
それに、アリアがここまで儚い表情を見せることは珍しい。
同じ女であっても、これは中々に唆るものがある。
なんなら素知らぬふりで、軽くお腹に抱きついてみようか。
そうしたら、彼女はどんな声で鳴くのだろう。
ミーアは怪しい笑みをアリアに向けるが、流石に実行には移さなかった。
仮に実行していれば、その瞬間アリアは喘ぎどころか全てをぶち撒けることになり、ミーアの首は帰国を待たずに飛んでいただろう。
楽しい妄想を浸りながら周囲の細工品の工房を眺めるミーアは、背後でブルッと震えた後、ヨロヨロと走り出したアリアに気付くことはなかった。
――この瞬間、ミーア・アルマンドはロイヤルガード解雇に王手をかけた。