第1話 新たな戦いの始まり
グレン様と魍魎が去った方向を、私は呆然と見つめていた。
目の前で繰り広げられた戦いは、まだ瞼に焼き付いている。
……ううん、本当は結構見えてない。
私の目が捉えることができたのは、あまり動いていない魍魎の本体と、宝剣が纏う銀の軌跡だけ。
所詮学生レベルの私の目は、この戦いを映すことすらできなかった。
――これが頂点。
恐怖で、逃げることすらできない本物の脅威。
それとたった一人で渡り合う英雄。
『大きくなったら、みんなを守る騎士になる』
遠ざかっていく戦闘音を聞きながら、私は自分の幼い夢の果てしなさを感じていた。
やがて音も小さくなり、私の足は、ようやく動くようになる。
踏みつけた水溜りが、パシャパシャと音を立て、ホットパンツから落ちた水滴が波紋を作る。
「ふ……っ……ぐすっ……ぅ……えぅ……っ……うぅ……っ!」
惨めさが込み上げ、嗚咽が溢れてくる。
だめ……泣いてる場合じゃ無い。私の下半身は、何もかもがびしょ濡れなのだ。
こんな姿を、誰かに見られるわけにもいかない。
『お漏らしの隠蔽』という、たった一人の戦いが私を待っていた。
あまりの情けなさに、またしてもポロリと涙が落ちる。
涙は、水溜りに新たな波紋を生んだ。




