星降りる夜 星翔び立つ森
田舎の町のもっと奥。
田んぼも畑も越えたその先に。
おばあちゃんと猫が一匹住んでいました。
しずかにしずかに暮らしていました。
風もない、しずかなしずかな夜。
しーっ。おしゃべりやめてしずかにしてね。
ほら。何か聞こえてくるよ。
「今日はたくさんどんぐり見つけたね。」
「あぁ、冬の間はこれで大丈夫だね。」
「あとはおばあちゃんの薬草探さなきゃ。」
ネズミの一家のおしゃべりだね。
もう少し聞いてみようか。
「ぼく、おばあちゃん大好きなんだ。
ニンジンやサツマイモのヘタ、ダイコンの葉っぱもくれるんだよ。リンゴの芯がすっごく甘くてびっくりしたな!」
「お母さんもおばあちゃんが大好きよ。
おばあちゃんのお歌はとっても楽しいの。お洗濯のお歌が特に好きだわ。」
「お父さんもおばあちゃんの事が大好きだ。なんと言ってもあの猫にネズミを襲わないように言い聞かせてくれるからね。安心して眠れるのはおばあちゃんのおかげだぞ。」
ふむふむ。
みんな、おばあちゃんが大好きなんだね。
だから薬草を探しに行くんだね。
どんな薬草なのかな。
「薬草はまーるい葉っぱでふかふかしてるんだ。お月様が出ない夜はほわっと光る。明日はお月様が出ないから夜に探しに行こうか。」
「うん!」
あら。私達のおしゃべり聞こえてしまったかしら。
もっとしずかにしなきゃね。
次の日、ねずみ一家は夜の薬草探しのために一生懸命お昼寝をしました。
そして夜。
「さぁ、探しに行こう。
しずかに出ないと猫が起きるからな。
そーっと、そーっと…」
ねずみ一家はそれはそれは頑張って探しました。
オオカミやフクロウに気を付けながらあちこち走りました。
葉っぱの陰で眠るテントウムシに怒られました。
頑張って頑張って頑張りました。
そして…
「あっ、お父さん!あそこ、光ってる!」
とうとう見つけたのです!
みんなで駆け寄りました。
嬉しくて嬉しくてそれまでの疲れは忘れていました。
薬草に到着したその時。
ピカッと一瞬空が光りました。
そしてつるっ、と一つの星が流れました。
森に住むネズミ一家にとって流れ星は珍しくありません。ですがこの時全員、お家に帰らなければと感じました。虫の知らせというやつです。
みんな急いで帰りました。
お父さんは薬草を一枚口にくわえて。
お家に到着するとおじいさんがいました。
昔、おばあちゃんと一緒に住んでいたおじいさんです。確かお星様になったはずです。
おばあちゃんは起きてにこにこしていました。
ネズミのお父さんは、おじいさんがおばあちゃんを迎えに来たことにすぐ気付きました。野生の勘です。
おばあちゃんがネズミ一家に近づきました。
「薬草、見つけてくれたんだねぇ。ありがとねぇ。
だけどね、おばあちゃん、もう大丈夫なのよ。だからその薬草はネズミさんの家族で使ってちょうだい。
あぁそれにしても綺麗だこと。
最後にひと目見れて嬉しいわ。」
おじいさんが笑顔で頷きます。
おばあちゃんも頷きます。
ねずみの坊やがとっさに
「おばあちゃん!行っちゃやだよ!」
とありったけの声で叫びました。
気付けばおばあちゃんの家の周りには沢山の動物達が集まっていました。
ウサギもリスもシカもタヌキもキツネも。
フクロウもメジロもハクセキレイも。
オオカミもクマもテントウムシも。
みんなネズミの坊やと同じ気持ちで集まりました。
みんな虫の知らせで野生の勘です!
いやだいやだよ!いなくならないでよ!おばあちゃんの笑顔もお歌もお味噌汁のいい匂いも全部全部大好きなんだ!まだまだ一緒に居たいよ居てくれるだけでいいよねぇこのままじゃだめなのどうして行っちゃうのどうして連れてっちゃうのどうしてどうして
おばあちゃんはいつもの優しい顔のままポロッとひと粒、涙を落としました。
その瞬間、ぴかーっと辺り一面真っ白になりました。そしてその光がひとつにまとまったかと思ったらお空に向ってつーーーーーっと飛んで行きました。
全員で、泣きながら、でもしずかにそれを見届けました。
優しくてお歌が上手でお料理が好きなおばあちゃんはお星様になりました。
森はまたしずかにしずかに眠ります。
動物達が時々空を見上げます。
あ、そうそう。
実はおばあちゃんに叱られなくても猫とねずみ一家は仲良しになりました。
おばあちゃんが見てるからね。
おばあちゃんの流れ星。
実は予期せぬ小さな奇跡も起こしています。
もう一つの作品「流れ星、誰が見ていた?」も併せてお読み頂けると嬉しいです。