おはよう
ぴちょん。ぴちょん。
暗く、じめじめとした空間。時折、湿った岩肌から、水滴が落ちる音がする。
ここは、とある洞窟の中だ。
岩肌は苔が生い茂り、天井にはコウモリが住み着いている。人が出入りした形跡はなく、ごく自然的な洞窟であった。
だが、しかし、その洞窟の丁度行き止まりに、本来あるはずのない異物があった。それは、いかにも人工的な物であり、自然の物しかない洞窟の中では、ひと際異彩を放っていた。
それは、長方形の箱で、まるで棺桶のようでもあった。その箱は、丁寧な装飾が施されており、かすれて読めないが、何やら文字が刻まれていた。さらに、不思議なことにその箱には、奇妙なチューブが何本も繋がっている。残念ながら、チューブの元は、壁に埋まっているため辿ることが出来ない。
ガタガタ。ガタガタ。
突然、箱が動き出した!徐々に、徐々にその振動は大きくなる。
大きく箱が揺れ、振動が最高潮に達したその時、ピタリと箱が止まった。
そして、ギギギギギと音をたてながら、箱の蓋が開き始める。
ヌッと箱の中から手が伸びて、箱の縁を掴んだ。そして、箱の中にいたものが、ゆっくりと体を起こす。暗い洞窟の中で、鈍く輝くブロンズヘア。その目は、青く染まり、随分整った顔立ちをしている。。年は5、6歳ぐらいだろうか。なんと、箱の中にいたものは、年端もいかない少年であった。
その少年は、起きてからしばらくの間、無表情でぼーとしている様子だった。しかし、突然少年の右手が光り出し、その光が少年を包むと、ハッとした表情で洞窟の出口へと駆け出す。息を切らしながらも一心不乱に走る少年。
光のさす出口を抜けるとそこには、のどかな草原が一面に広がっていた。太陽の光が惜しげもなく降り注ぎ、キラキラと草が風に揺れながら輝いている。少年は、洞窟の出口で立ち尽くし、その眩しさに目を細めていた。
「おーーい、坊主そんなとこで何してんだぁ」
いきなり、辺り一帯に大声が響く。少年は、目を細めたまま声のする方に顔を向けた。
どうやら、遠くに見えるあの大柄な男が声の主のようだ。
少年は、その男の元に向かおうと一歩足を踏み出す。しかし、突然、少年の体がぐらつき、地面に崩れ落ちてしまった。
暗転する視界の中で、慌ててこちらに駆け寄ろうとする男の姿を最後に、少年の意識が途絶えた。